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八海事件 - Wikipedia

八海事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

最高裁判所判例
事件名: 強盗殺人被告事件
事件番号:昭和29年(あ)第1442号
1957年(昭和32年)10月15日
判例集: 刑集11巻11号2731頁
裁判要旨

刑事訴訟法411条3号は、判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認の疑がある場合をも含む。

第三小法廷
裁判長:垂水克己
陪席裁判官:島保 河村又介 小林俊三
意見
多数意見:全員一致
意見:なし
反対意見:なし
参照法条
刑事訴訟法411条3号
最高裁判所判例
事件名: 強盗殺人被告事件
事件番号:昭和34年(あ)第2148号
1962年(昭和37年)5月19日
判例集: 刑集16巻6号609頁
裁判要旨

審理不尽、理由不備の欠陥があり、この欠陥はひいて原判決を破棄するのでなければ著しく正義に反するものと認められる程の事実誤認があるとして、原審に差し戻した事例

第一小法廷
裁判長:下飯坂潤夫
陪席裁判官:斎藤悠輔 入江俊郎 高木常七
意見
多数意見:下飯坂潤夫 斎藤悠輔 入江俊郎
意見:なし
反対意見:高木常七
参照法条
刑事訴訟法411条3号
最高裁判所判例
事件名: 強盗殺人被告事件
事件番号:昭和41年(あ)第108号
1968年(昭和43年)10月25日
判例集: 刑集22巻11号961頁
裁判要旨

1.公判準備期日における証人の尋問終了後に作成された同人の検察官調書を、上記証人の証言の証明力を争う証拠として採証することは、刑訴法328条に違反するものではない。
2.上告審判決の破棄の理由とされた事実上の判断は拘束力を有するものと解すべきである。
3.破棄判決の拘束力は、破棄の直接の理由、すなわち原判決に対する消極的否定的判断についてのみ生ずるものであり、その消極的否定的判断を裏付ける積極的肯定的事由についての判断は、なんらの拘束力を生ずるものではない。
4.原判決には、判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認の疑があることに帰し、これを破棄しなければ著しく正義に反すると認められる場合にあたるとして、被告人に無罪を言い渡した事例。

第二小法廷
裁判長:奥野健一
陪席裁判官:草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎
意見
多数意見:全員一致
意見:なし
反対意見:なし
参照法条
刑事訴訟法411条3号、328条、裁判所法4条

八海事件(やかいじけん)とは1951年1月25日に山口県熊毛郡麻郷(おごう)村八海(やかい)で発生した夫婦強盗殺人事件。被告人5人のうち4人が無罪になった。

目次

[編集] 事件・捜査の概要

1951年1月25日、当時の山口県熊毛郡麻郷村(現在の山口県田布施町)八海で夫婦が殺害され金銭が奪われた強盗殺人事件が発生した。夫は斧で頭部その他多数の個所の切傷と出血により殺害され、妻は鼻と口を塞がれて殺害された後、首を吊った状態で発見された。犯行現場からは被害者の近所に住むA(当時21歳)の指紋が検出され警察はAを逮捕した。警察の尋問に対してAは犯行を認め、Aの着衣から被害者の血痕が検出され、Aの供述により夫の殺害に使用した斧も発見された。だが、警察はこの事件は複数人の犯行であると推定し、Aに対して警察の尋問室の密室の中で拷問を行い、共犯者に関する供述を強要した。

Aは警察がこの事件が複数人の犯行であると誤解していることを利用して、自分に対する量刑を軽くしたいという動機で、自分はこの事件の犯行に関して従属的な立場であったと供述し、友人・知人のB(当時24歳)、C(当時23歳)、D(当時21歳)、E(当時22歳)が共犯者であり、Bが主犯であると虚偽の供述をした(後年、Bらの弁護士にAが次のように語っている。「自分ひとりで犯罪を行ったと何度主張しても、警察からまったく相手にされないどころか嘘をつくなと拷問を受け、「共犯の名前を言わないと死刑だ」と脅され、死刑の恐怖と仲間への裏切りに悩み、死刑回避のために仲間の名前を言ってしまった」)。

警察はAの虚偽の供述に基づいてB、C、D、Eを逮捕し、警察の尋問室の密室の中で 線香で首を炙る、軍靴を改造したスリッパで殴る、棍棒で殴る、食事睡眠を一切あたえない。などの拷問を行い、被害者夫妻を殺害したとの供述を強要した結果、この事件をBが主犯でA、C、D、Eが従犯とする虚偽の供述調書を作成し、その旨を報道機関に公表した。

[編集] 裁判の経過・結果

裁判ではAは自らに関する起訴事実を認めた。しかしB、C、D、Eは捜査段階で警察官に拷問され、虚偽の供述をさせられたが、自分はこの事件に関していかなる関与もしていない、無実であると主張した。裁判は下記のとおりの経過・結果になった。またAは無期懲役確定後、刑務所から自分の単独犯であると上申書を17通、最高裁判所に送っていたが、すべて刑務所の職員が破棄していたことが後に判明。

  • 1952年6月2日、山口地裁はBに死刑、AとCとDとEに無期懲役の判決をした。B、C、D、Eは無実を主張して控訴し、検察官はAとCとDとEに対する量刑が無期懲役では軽いという理由で死刑を求めて控訴した。
  • 1953年9月18日、広島高裁(第一次)は地裁の事実認定を支持し、Bに死刑、Aに無期懲役、Cに懲役15年、DとEに懲役12年の判決をした。Aは上告せず、検察官もAに対しては上告せずAの無期懲役が確定した。B、C、D、Eは無実を主張して上告した。
  • 1957年10月15日、最高裁(第一次)は審理を高裁へ差し戻した。
  • 1959年9月23日、広島高裁(第二次)はこの事件をAの単独犯行と認定し、B、C、D、Eに無罪判決をして、B、C、D、Eは8年8ヶ月間の身柄拘束から釈放された。検察は上告した。
  • 1962年5月19日、最高裁(第二次)は審理を高裁へ差し戻した。
  • 1965年8月30日、広島高裁(第三次)は第一次高裁と同じ、Bに死刑、Cに懲役15年、DとEに懲役12年の判決をした。B、C、D、Eは無実を主張して上告した。
  • 1968年10月25日、最高裁(第三次)はこの事件をAの単独犯行と判断し、B、C、D、Eに無罪判決をして、この判決が確定した。

[編集] 事件が与えた影響・教訓

第一次高裁判決後、正木ひろし弁護士、原田香留夫弁護士は、この事件で起訴されたB、C、D、Eは無実であると認識し、弁護人になった。正木は著書『裁判官 人の命は権力で奪えるものか』を発表し、原田は著書『真昼の暗黒』を発表して、この裁判の冤罪性を国民に訴えた。映画監督の今井正は正木と原田の著書をもとに、映画『真昼の暗黒』を製作・公開して、この裁判の冤罪性を国民に訴えた。この著書と映画による告発により、八海事件と裁判の冤罪性は多くの国民に認知された。

警察による5人の犯行であるとの見込み捜査により、4人の被告人は無罪判決は得たが、8年8月間の身柄拘束と、無罪確定までの18年9月間の多大な精神的苦痛・不安、社会的不利益を受けた。

検察は有罪判決を獲得するために、Bの無実を証言した、事件当時のBの事実婚の元妻や、B、C、D、Eに有利な証言をした証人を偽証罪で逮捕し起訴するなど、検察の面子と主張を守るためだけの権力の乱用を行い、多くの国民や報道機関から非難された。

この事件の真犯人であり、単独犯であるAは受刑中に、捜査段階で供述した内容は虚偽であり、B、C、D、Eは事件にはいかなる関与もしていないこと、B、C、D、Eが共犯であると虚偽の供述をした理由は拷問により供述を強要されたからであると主張する上申書を裁判所に提出した。しかしながら第二次最高裁と有罪判決をした第三次高裁は、Aの上申書を無視し、Aの上申書にもづいた事実認定をすることもなく、検察官の主張を採用してB、C、D、Eの有罪の事実認定をした。

裁判所は地裁から第三次最高裁まで、被告人B、C、D、Eに対して、7回の判決と有罪→無罪→有罪→無罪と事実認定が変遷し、事件発生から確定判決まで17年9か月の時間がかかったことに対しても、多くの国民や報道機関から非難された。

1971年9月、Aは仮出所する。西日本の鉄工所に勤務しながら、原田香留夫弁護士の事務所をたびたび訪問していた。当時、毎日新聞の記者だった前坂俊之が、その事務所でAと出会い、彼が49歳で病死するまでの数年間、同居して事件について話を聞き出した(外部リンク参照)。

[編集] 関連項目

[編集] 参考文献

  • 正木ひろし『裁判官 人の命は権力で奪えるものか』光文社 - 1955年
  • 正木ひろし『正木ひろし著作集(2)八海事件』三省堂 - 1983年
  • 原田香留夫『真実』大同書院 - 1956年
  • 原田香留夫『真昼の暗黒』大同書院 - 1956年
  • 藤崎晙『八海事件 裁判官の弁明』一粒社 - 1956年
  • 藤崎晙『証拠 続八海事件』一粒社 - 1957年
  • 阿藤周平『八海事件獄中日記』朝日新聞社
  • 作品社編集部『犯罪の昭和史』作品社
  • 福田洋、石川保昌『現代殺人事件史』河出書房新社
  • 前坂俊之『For Biginners 死刑』現代書館 - 1991年

[編集] 外部リンク

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