ブレーンバスター
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ブレーンバスター (brain buster) とはプロレスで使用される技の1種。後に投げ技としてのブレーンバスターが主流となるが本来のブレーンバスターは投げ技ではない。
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[編集] 概要
レスリングでの「がぶり」の体勢から、相手のタイツを持って相手の身体が逆さまになるように真上に持ち上げる。ここから後ろに倒れこみ、相手の脳天をマットに叩きつける。このことから「脳天砕き」とも呼ばれる。
現在、ブレーンバスターと呼ばれる技は二種類に大別される。
- 本来の「相手の脳天をマットに叩きつける」技
- 持ち上げてから反り投げのように「相手の背中をマットに叩きつける」技
日本では後者の方がメジャーであるため、背中を叩きつける技を「ブレーンバスター」と呼び、本来の脳天を打つ技を「垂直落下式ブレーンバスター」と呼ぶが、アメリカにおいては後者は「バーティカル・スープレックス (vertical suplex)」と呼ばれ明確に区別されている。
また、技を掛ける際に受け手と掛け手の組み方が全く同じになるため、相手に投げ返される危険性が常に伴う技といえる。
この技を開発したのはキラー・カール・コックスである。また、後にこの技の名手として名を馳せたのがディック・マードックであった。1976年日本で行われたコックス対マードックの一戦は壮絶なブレーンバスター合戦となり、プロレスファンの間では現在でも名勝負の一つに数えられている。現在のプロレス界で「垂直落下式ブレーンバスター」と呼ばれている技は、厳密にはコックスやマードックが使用していたブレーンバスターとはフォームなどが若干異なる。この「元祖ブレーンバスター」の特徴は自らは倒れ込まず尻餅をつくような体勢で落とす点にあり、これに対し近年使用されている垂直落下式は受身をとり易く改良されたものである。
一方、反り投げ式のブレーンバスターの開発者はカリプス・ハリケーンであるとされる。垂直落下式は危険性が大きいが、反り投げ式は見た目が派手で尚且つ安全であるなどの理由からこの方式が広く普及したといわれている。この反り投げ式ブレーンバスターは多くのレスラーが得意技として用い、多くの名勝負を演出した。反り投げ式の名手には、しばしばハーリー・レイスの名前が挙げられる。全盛期のレイスのブレーンバスターは力感と安定感がずば抜けており、必殺技として充分な威力と説得力を持ち合わせていた。しかし現在では反り投げ式のブレーンバスターで決着がつくことはなく、試合序盤~中盤で出される繋ぎ技・痛め技として用いられている。
[編集] 切り返し方
- 組まれた際に踏ん張り、逆にブレーンバスターで返す
- 空いている方の手で相手の腹などを殴る
- 頂点まで持ち上げられた際に、体を捻って脱出し、バックドロップやジャーマン・スープレックスなどで反撃する
- 脇固めに切り返す。藤原喜明が多用する。
ブレーンバスターをこらえた後、両者が組み合ったまま力比べに移行する様はプロレスファンに古くから好まれているムーブの一つである。これについて芸能界でも指折りのプロレスファンとして有名な勝俣州和は「あれは様式美です」と多方面で発言している。
[編集] 派生技
- 高速ブレーンバスター
- ダイナマイト・キッドなどが主な使い手。反り投げのスピードが速く低い弧で投げるため、相手は受身が取りづらいのが特徴。アメリカでは「スナップ・スープレックス(Snap suplex)」と呼ばれる。
- 雪崩式ブレーンバスター
- 相手をコーナーポスト上に座らせた状態から投げる。海外ではスーパープレックス(Superplex:スープレックスよりも強力の意)と呼ばれる。日本でこの技を初めて披露したのは阿修羅原である(1981年4月18日、対スティーブ・オルソノスキー戦)。大抵は背中から落とす形で投げるが、獣神サンダー・ライガーは垂直落下式を使う。
- 旋回式ブレーンバスター
- 相手を持ち上げた後、その場で180-360度旋回してから投げる。大抵は垂直落下式。垂直落下式では望月成晃がツイスター、金丸義信がタッチアウト、永田裕志がサンダーデスドライバー、後方に投げる式は矢野通がナイトキャップの名前で使用している。
- リバウンド・ブレーンバスター
- ブレーンバスターの要領で持ち上げるが、後ろへは投げず前方のロープに相手の腹部を叩き付け、その後の反動を利用してそのまま反り投げ式で投げる。
- スリー・アミーゴス
- 3回連続での高速ブレーンバスター。投げた後、自分の腰を上げ横に捻ることで、次の投げの体勢へ移行する。エディ・ゲレロの得意技。
- ブレーンバスター・スラム
- ブレーンバスターの体勢から、前方に向かって相手を背中から落とす。ブルーザー・ブロディが得意とした。
- ジャックハマー
- 相手を叩き付ける際に、パワースラムやアバランシュ・ホールドの様に自分の体を相手に浴びせる。ビル・ゴールドバーグが考案し、スコット・ノートンも使用する。上記のブレーンバスター・スラムが原型とされる。
- フィッシャーマンズ・スープレックス
- ブレーンバスターホールドを放つ際、相手の片脚の膝裏からふくらはぎの辺りを抱えて投げる。別名、網打式原爆固め。主な使い手は、小林邦昭。若手レスラーがフィニッシュとして使うことも多い。カート・ヘニングはWWF時代、自分のギミックをもじって「パーフェクト・プレックス」と称して使用。
- フィッシャーマンバスター
- フィッシャーマンズ・スープレックスの要領で抱え上げ、垂直に落とす技。獣神サンダー・ライガーが考案し、女子プロレスラーのハーレー斉藤も使用する。
- スタガリンブロー
- ブレーンバスターの体勢から、右手で相手の右足の膝裏をすくうように四の字型にロックし抱え上げてから落とす、変形のフィッシャーマンズバスター。井上亘のオリジナルホールド。
- ライスシャワー
- ブレーンバスターの要領で相手を投げるが、相手の首をつかんだまま自らは尻餅をつく。いわばブレーンバスターからネックブリーカーへ移行する複合技である。肩に負担がかかるため、完全な形で成功させるのは難しいが、成功すれば相手の首に大きなダメージを与えられる技。
- 朝日放送『探偵!ナイトスクープ』の中で依頼者が考案した。完成した暁には小橋建太が実際に試合で使用する予定だが、上記の通り非常に高難度の技であり小橋本人も番組内で「充分な練習が必要」と語っている。
- リバースブレーンバスター
- 背後から相手の首を脇に抱えるように組み付き(立った状態でのドラゴンスリーパーのような形)、そこからブレーンバスターと同じ要領で持ち上げ、投げる。エル・サムライが得意としており、雪崩式や垂直落下式も使う。
[編集] エピソード
- レスリングの基本的な投げ技として知られるフロントネック・チャンスリー・ドロップからの派生技とする説があるが、開発者であるキラー・カール・コックス本人が否定している。
- 橋本真也の得意技として有名な垂直落下式DDTは落とす際のステップが異なり、垂直落下式ブレーンバスターとは区別されている。
- ハーリー・レイスは自分の試合前にこの技が使われることを嫌がり、「自分以外ブレーンバスターの使用禁止」とするよう全日本プロレスに訴えたことがあった。特にその標的となったのは、得意技がブレーンバスターに加えてダイビング・ヘッドバットも被る形となったダイナマイト・キッドである。
- 2002年~2003年頃の闘龍門JAPANの3ウェイ6人タッグマッチでは、セコンドやレフェリーも巻き込み、総勢10人以上の選手が合体ブレーンバスターの掛け合いを行い、「世界一長いブレーンバスター」と呼ばれていた。毎回ドン・フジイが誤ってパートナーのCIMAらとは反対側で組んで投げられるのがオチであった。
- 長州力のブレーンバスターはマットに叩き付けた際の音が非常に大きい事で有名。詳細は不明だが、何らかの工夫をしているものと思われる。