ファウスト (文芸誌)
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『ファウスト』は、講談社発行の文芸雑誌である。キャッチコピーは「闘うイラストーリー・ノベルスマガジン」。2009年の講談社創業100周年を記念する社内公募プロジェクトとして、2003年に創刊された。現在の編集長は企画の応募者でもある太田克史。小説のジャンルとして「新伝綺」を提唱した雑誌でもある。
目次 |
[編集] 概要
『ファウスト』の編集方針には、「ひとり編集」「イラストーリー」「本物のDTP」という3つの柱がある。また、小説ごとにオリジナルのフォントを用意したり、表紙が折り畳み式になっているなど、装訂にも工夫が凝らされている。新書と同じ大きさで、刊を重ねるにつれて分厚くなっている。
書き下ろしの短編小説を中心にインタビュー記事・エッセイ・漫画・批評などで構成される。執筆者はメフィスト賞受賞者、ビジュアルノベルのシナリオライターとして評価を受けた者が多い。また、作品にもライトノベル的なものが多い。
出版ビジネスの観点からは、再販制度・委託制度下で維持されている出版物流通のボトルネックを利用し、文芸雑誌に講談社が得意とする大量消費向けの週刊誌・漫画雑誌の手法を持ち込んだ点が評価されている。
創刊当時から東浩紀、笠井潔、斉藤環らを起用して、作家を批評・評論面からもサポートした。そのため、『ファウスト』の執筆作家は他の同ジャンルの作家に比べ評論されることが多い。創刊号には大塚英志の評論も掲載される予定だったが、舞城王太郎が批評家から絶賛されている状況を批判した内容だったために不掲載となった(後に『早稲田文学』2004年1月号に「世界がもし、舞城王太郎な村だったら。」として掲載)。
[編集] ひとり編集部
太田は社内公募の際、「ひとり編集部」という提案をした。1人だけで編集をおこなうことで作品や編集方針へのこだわりを十二分に誌面へ反映することが目的であった。これまでにない編集体制であったため、講談社内でもさまざまな意見が飛び交ったが、太田の強い熱意により最終的にこの編集体制での刊行となった。
[編集] イラストーリー
キャッチコピーでの標榜通り、小説には必ずイラストがつく、漫画を扱うなど、ビジュアル的なものも重視されている。
[編集] 本物のDTP
太田は従来のDTPについて「安かろう悪かろう」という印象を抱いていた。しかし、京極夏彦の「In Designで小説を執筆し、PDFで入稿する」という宣言、圧倒的なボリュームがある小説を、自らが版面をコントロールすることで一気に読ませてしまう「京極マジック」を体験した結果、編集者も追いつかなければならないと思い、DTPの研究を重ねた。そして、『ファウスト』ではDTPへの挑戦をより顕著に行うこととなった。
今までの雑誌は決められたフォーマットにテキストを流し込むスタイルだったが、『ファウスト』では各作品ごとにフォントを変えるなどして、「新しい雑誌とは何か?」を模索している。フォントについても、太田が「一番フォントについて知っている人は誰かと探したら紺野さんだった」と語る凸版印刷の紺野慎一に“フォントディレクター”を依頼し、各作品ごとにフォントの提案を受けている。『ファウスト』以降、講談社内の多くの雑誌・書籍の製作環境が順次DTPに移行された。
[編集] 刊行状況
Vol.2までは『小説現代』増刊として刊行されたが、発行部数が少なかったためオークションなどで高騰した。Vol.3以降はムックとして刊行され、Vol.1・2も後にムック化され復刊した。Vol.3以降『特集』という形で1人の作家にスポットを当てたり、文芸やノベルゲーム周辺のブームを取り上げたりしている。
Vol.3において、年3回の定期刊行化が決定したと発表した。2004年はVol.2 - 4までの3冊、2005年はVol.5、6A、6Bと3冊を発行されたが、2006年には本誌2冊、別冊2冊の発行が予告されていたが、実際には別冊である『コミックファウスト』1冊のみが発行されただけである。
2006年、台湾尖端出版より、韓国鶴山文化社より、それぞれ現地語版の『ファウスト』が出版された。これは日本のものを追いかける形で巻を重ねている。同年、太田が海外文芸出版部に異動し、編集長として『講談社BOX』を立ち上げた。それまで『ファウスト』の掲載作品は講談社ノベルスから単行本化されていたが、以降は講談社BOXで刊行が主となっており、作品によってはハードカバーとなることもある。
2007年、アメリカ版の刊行が決定。Del Rey社より2008/8/19に「FAUST 1」は発売予定。2008年初夏に約2年ぶりにVol.7が発売されることが告知された。日本を代表するSF作家である筒井康隆が「ビアンカ・オーバースタディ」という題名のライトノベルを執筆するとあって、注目されている。
[編集] 刊行巻
- Vol.1(2003年10月、ISBN 9784061795532)
- Vol.2(2004年3月、ISBN 9784061795546)
- Vol.3(2004年7月、ISBN 9784061794306)
- Vol.4(2004年11月、ISBN 9784061794469)
- Vol.5(2005年5月、ISBN 9784061795723)
- Vol.6 SIDE-A(2005年11月、ISBN 9784061795864)
- Vol.6 SIDE-B(2005年12月、ISBN 9784061795872)
- 別冊ファウスト「コミックファウスト」(2006年6月24日、ISBN 9784063788083)
- Vol.7(2008年6月発売予定、ISBN 9784063788211)
[編集] 台湾版(『浮文誌』)
尖端出版より刊行。
- 1(2006年2月7日、ISBN 9789571031576)
- 2(2006年6月22日、ISBN 9789571032788)
- 3 side-A(2006年8月10日、ISBN 9789571033532)
- 3 side-B(2006年11月21日、ISBN 9789571033792)
- 4 side-A(2007年8月9日、ISBN 9789571036564)
[編集] 韓国版
鶴山文化社より、現在Vol.1からVol.5まで刊行。
[編集] アメリカ版
Del Rey社より刊行。第2巻までの刊行が確定している。
- FAUST 1(2008年8月19日、ISBN 034550206X)
[編集] ファウスト賞
応募資格を1980年以降生まれに絞った公募新人文学賞として、ファウスト賞を運営している。優秀作品はファウストに掲載され、作者には規定の原稿料が支払われる(賞金はない)。第4期まで受賞者は出ていない。応募作品へのコメントは、講談社BOOK倶楽部内のファウスト特設ページで読むことが出来る。
[編集] ファウスト系
『ファウスト』によく載るような、「セカイ系とミステリと現代ファンタジーを融和させた作品」のことをファウスト系と呼ぶ。青春の心の停滞を怪奇等の日常から逸脱した出来事と共に書くことにより、自分の存在意義や心の在り方などといった自分探しを拡大させ自己の内面と世界を繋げさせる、ゼロ年代文学の一分野である。代表的な作家として西尾維新や舞城王太郎などが挙げられる。『ファウスト』では「伝奇作品の流れがここに来て、新たな文学のステージに到達した」という意味で「新伝綺」と謳っている。しかし、このような作品は『ファウスト』以外ではあまり見られないため、「ファウスト系」と言うことのほうが多い。ファウスト「文芸合宿」時の東浩紀の評でも、新伝綺と云う言葉ではなく、ファウスト系という言葉が使われていた。
[編集] 関連項目
- メフィスト
- コミックファウスト
- 講談社BOX
- FICTION ZERO/NARRATIVE ZERO - アダルトゲームシナリオライターやライトノベル系作家の起用、評論の掲載などファウストと類似している部分が存在する。
[編集] 参考文献
- 導入してわかる新たな次世代DTP戦略(「本物のDTP」の節)