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お東騒動 - Wikipedia

お東騒動

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

お東騒動(おひがしそうどう)は、1969年に真宗大谷派が、「同朋会運動」を推進する改革派と、法主を継承する大谷家とそれを擁護する保守派との宗門内の対立から、同宗派が4派に分裂するまでに至った事件のこと。 内局の権力闘争や財産争いの問題も絡んでいる為、やや揶揄した響きを持つ場合もある。「お東さん騒動」ともよばれる。

目次

[編集] 対立の根底

「お東騒動」の原因となった教団のあり方をめぐる意見の対立の根底には、近代社会における全く異なる方向性を持つ次の2つの動きがあった。

  • 体制面における宗教的権威者への伝統的尊崇の念に基づく権限の集中。
  • 教学(思想)面における個々人の自覚を重視する方向性の高まり。

[編集] 大谷家当主への権威・権限の集中

真宗大谷派では、明治時代以降、歴史的な経緯もあって、宗祖親鸞の血筋を引く大谷家の当主が、次の3つの地位(「三位」と呼ばれる)を一元的に継承・掌握し、高い宗教的権威と強い権限とを有していた。

法主 
真宗大谷派の正統的な教学・伝統の顕現者
管長 
宗教法人真宗大谷派の代表役員
本願寺住職 
真宗大谷派の本山である「宗教法人本願寺(通称 東本願寺)」の代表役員
  • 当時は、「真宗大谷派」とその本山の「本願寺」は法規上、別法人であった。
  • また大谷家は、(本来は門徒からの懇志である)本願寺の財産も、その絶対的権力から私物視していた。後に、「多額の債務」や「土地の売却益の行方」などの問題が表面化する事となる。

[編集] 権威・権限が集中した理由

明治時代以降の真宗大谷派においては、清沢満之らの登場により、個々人の宗教的自覚を重視する、近代的な「個」の形成にも対応し得る教学思想の研鑽が早くから進められた。しかし一方で宗派の体制としては、宗教的権威者として伝統的に尊崇されていた法主を推戴し、そのもとに強い権限を集中させる体制がむしろ強化されていた。

こうした体制が構築・強化された背景には、江戸時代に緊密であった幕府との関係を払拭し明治政府の政策に積極的に賛助することや、数度にわたって焼失した本願寺の堂宇を再建することが差し迫った課題であったことが挙げられる。

[編集] 個々人の自覚を重視する教学思想の形成

第二次世界大戦後の1960年代になって、「近代的な教学思想の成熟」と「当時の社会的変動への対応の必要性」が求められるようになる。 その結果として、次第に従来からの教団の体制が問題視されるようになる。

「お東騒動」と称される真宗大谷派における対立状況は、上に述べたような近代日本における体制面と思想面での二つの動きが、同一宗派内において同時期に集中的に展開した結果、いわば必然的に表出したものであったともみなされる。

[編集] 経緯

[編集] 発端

事の発端は、1924年より法主を務める大谷家第二十四代の大谷光暢(闡如)が、内局に事前承諾を得ずに「管長職を光紹新門に譲る」と発表した事に始まる。「開申事件」と呼ばれ、内部対立の火種になる。

[編集] 改革への動き

1960年代の終わり頃から、法主に権威・権限の集中する教団のあり方をめぐり、激しい意見の対立がみられるようになっていく。

真宗大谷派内部にあって改革派は、次の2つの考えをかかげて、当時の教団のあり方の改革を訴えた。

同朋公議 
教団の運営は、何人の専横をも許さず、本来的に同信の門徒・同朋の総意によるべきである。
宗本一体 
宗派としての真宗大谷派と、その構成者たる門徒が帰依処とする本願寺は、本来的に不可分一体のものである。

1962年7月に、「同朋会運動」が発足し、そのテーマとして「真宗同朋会運動とは、純粋な信仰運動である」「家の宗教から個々人の自覚としての宗教へ」が掲げられた。 同朋会運動」が発足して、「真宗同朋会条例」が公布される。

[編集] 宗派からの離脱宣言

改革への動きに対抗して1978年に闡如は、「私が住職をしている本山・本願寺(東本願寺のこと)は、真宗大谷派から離脱・独立する」という宣言を行った。

[編集] 改革の実施

「同朋公議」「宗本一体」の考えに基づき1981年6月に、「真宗大谷派宗憲(宗派の憲法にあたる法規)」が改正され、次のような改革が行われた。

  • 議会制…宗派運営の権限が、選挙により選出される議員の構成する宗派の議会(宗議会〈=僧侶の代表〉と参議会〈=門徒の代表〉の二院制をとる)に移された。
  • 象徴門首制…従来の「法主」「管長」「本願寺住職」にかわり、門徒・同朋を代表して仏祖崇敬の任にあたる象徴的地位として門首が置かれた。
  • 宗本一体…1987年には、大谷派と包括・被包括の関係にあった宗教法人としての本願寺が法的に解散され、宗派と一体のものとされた(以後、東本願寺の正式名称は「真宗本廟」〈「本廟」とは、同信同行の門信徒が宗祖親鸞の教えを聞信する根本道場・帰依処としての、親鸞の「はかどころ」の意〉となる)。

[編集] 浄土真宗東本願寺派の分立

この改革に対し保守派は、当時同派の東京・浅草別院住職であった大谷光紹(興如)(大谷光暢の長男)を中心に、教学の構築・教団の運営は従来通り伝統的権威と権限とを有する法主を中心になされるべきであるとの姿勢を保ち、この見解に賛同する末寺・門徒も少なくない状況であった。

これらの人々は、1981年6月15日、大谷派における宗憲の改正と時期を同じくして、東京都知事の認証を得て輪番を務めていた浅草別院(東京本願寺)を大谷派から分離独立させる。

そして1988年2月29日に、同寺を中心にこれに賛同する末寺・門徒をまとめて「浄土真宗東本願寺派」を結成し、大谷光見が東本願寺第二十五世法主に就任すると宣言する。

[編集] その他の動き

浅草別院の分離独立の後も、これとは別に、大谷光暢の次男 大谷暢順(經如〈本願寺維持財団理事長〉)・四男 大谷暢道(後に光道と改称する。秀如)をそれぞれ支持する勢力が、同じく教団のあり方をめぐる意見の対立から大谷派を離脱した。

[編集] 真宗大谷派の門首

第二十四代 闡如(大谷光暢)の後継者は、新門である長男大谷光紹であったが、1981年6月15日に、真宗大谷派から独立した為、新門から外される。 次に孫(光紹の長男)の大谷光見が指名されるが、1988年2月29日に、浄土真宗東本願派を継承した為、新門から外される。 詳細は、上記の「浄土真宗東本願寺派の分立」を参照。

最終的に、大谷暢順の長男である当時15歳の大谷業成(現、大谷光輪〈東山上花山 本願寺 第二十五代〉)が、指名される。 そして1993年に、闡如逝去のため継承する。 しかし未成年であった為、門首代行が置かれる事になる。 1996年に、父と共に業成は真宗大谷派から離脱する。 その為、門徒継承式をしていない業成は、御歴代の記録されない事が決定する。

1993年~1996年の間は、大谷演慧(えんねい)鍵役(1914~2008) が、門首代行を務める。

1996年に闡如の三男である淨如(大谷暢顯)が継承する。 同年11月21日に、門首継承式が行われ、正式に真宗大谷派第二十五代門首となる。

[編集] 現在の4派

以上の経緯により現在、真宗大谷派は法規上、次の4派に分かれている。
宗派 本山 最高地位 末寺数
真宗大谷派 真宗本廟
(通称 東本願寺)
大谷暢顯門首(淨如) 約九千
浄土真宗東本願寺派 東本願寺
(旧・真宗大谷派東京別院東京本願寺)
大谷光見法主(聞如)
(故大谷光紹(興如)の長男)
三百数十
財団法人本願寺維持財団 本願寺(京都市山科区) 大谷暢順門跡(經如)
大谷光輪門主(楽如)
未詳
大谷本願寺
(本願寺寺務所・東本願寺大谷家)
本願寺(京都市右京区) 大谷光道法主(秀如) 未詳

[編集] 関連書籍

  • 『東本願寺三十年紛争』田原由紀雄著(白馬社/2004年)ISBN 978-4-938651-51-0
  • 『東本願寺をめぐる争訟事例集』(全3巻)入江正信編(商事法務研究会/2003年)ISBN 978-4-7857-1033-0ISBN 978-4-7857-1034-7ISBN 978-4-7857-1035-4
  • 『祖師に背いた教団-ドキュメント・東本願寺30年紛争-』田原由紀雄著(白馬社/1997年)ISBN 978-4-938651-19-0
  • 『貴族の死滅する日―東本願寺十年戦争の真相(増補新装版)』落合誓子著(晩聲社/1995年)ISBN 978-4-89188-246-4
  • 『東本願寺大谷光紹』泉龍路著(ハート出版/1988年)ISBN 978-4-938564-16-2
  • 『共産党対本願寺―乗っ取るまでの30年暗躍史』共産党から宗教を守る会編(タイムレビュー社/1980年)
  • 『東本願寺の変―10年紛争を解く』上之郷利昭著(サイマル出版会/1979年)ISBN 978-4-377-30444-2

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク


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