音高
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音高(おんこう)、ピッチとは、主に音楽で用いられる言葉で、知覚される音の高さ、もしくは音の物理的な高さ(基本周波数[Hz])のこと。「音高」の聴覚上の概要と物理的な意味(波数)は必ずしも一致しない。音高の呼び名に音名がありアルファベットと数字の組み合わせで表すことが多い。物理的な測定によってある音の基本周波数が決定されたとしても、倍音や部分音(Partial)のために、知覚される音高とは異なる場合がある。人間の聴覚システムは、ある特定の状況下においては、音と音の周波数差を区別できない可能性もある。
[編集] 音高の知覚
ピアノの中央ド音(C4)の上のラ音(A4)は、標準で440 Hzの高さに調律されることが多く、その場合は440[Hz]の純音と等しい音高として知覚されるが、その周波数の倍音を必ずしも含むとは限らない。さらに、周波数の微細な変化は、知覚される音高の変化を必ずしも伴わない。実際に、音の丁度可知差異(jnd、Just noticeable difference)は約5セント(半音の1/500)である。しかし、この値は音域によって異なり、音を同時に鳴らした場合にはより精密となる。人間におけるその他の刺激と同様に、音高の知覚についても、ヴェーバー‐フェヒナーの法則によって説明することができる。
人が感じる音高は音の大きさや音域そして音色に影響されるといわれる。一般に大きい音ほど(僅かだが)高めに聴こえ、可聴域の下限に近い音は高め、上限に近い音は低めに聴こえる。このためピアノでは調律の際に最低音域の波数を低め、最高音域の波数を高めに設定することが通常行われる(つまりオクターブの波数比が2倍より大きくなる)。また、特に低音域では音の振幅が大きくなる程、音高は低く知覚される。また、倍音の多い(強い)音ほど高めに聴こえる。
周波数成分が複数ある音(自然界や楽器の音はすべてそうである)から、人間がどのようにして音高を捉えているのかは、はっきりとは分かっていない。多くの人が通常は「2つの音の和音」と感じるような音も、前後の音楽の関連によって単音として聴こえることもある。つまり音高(基本周波数)の認知に記憶の要素も関与する。
また、音響心理学ではミッシング・ファンダメンタル(Missing fundamental = 失われた基底音)という現象が知られている。これは、音を構成する複数の成分の周波数に最大公約数が存在する場合、実際に含まれないその周波数の音を聴いてしまうこと(例えば2000Hzと1800Hzの純音成分を同時に聴くと200Hzの音を感じてしまう)である。これは内耳などの末梢組織ではなく大脳の聴覚皮質において行われているという説が有力である。このように、「音高(基本周波数)」の認知は、大脳も用いた高次な処理であることが推測される。
周波数が高い音を「高い」音、周波数が低い音を「低い」音というように空間的な「高低」をあてはめて表現するのは、多くの言語に共通している(英語:high-low、ドイツ語:hoch-tief=深い)。音の高さの違いの量は、周波数比にほぼ比例し、440Hzと880Hzの2音の高さの違いと、880Hzと1760Hzの音の高さの違いはどちらも1:2であるから、同じ違いであると認識される(この例はどちらも1オクターブである)。
他の人間の感覚と同様に、聴覚にも錯覚が存在し、この「聴覚の錯覚」(Auditory illusion)の結果、音高の相対的な知覚が惑わされる場合がある。これには、「3全音パラドックス(Tritone paradox)」などいくつかの例があるが、最も特筆すべきなのは「無限音階(シェパード・トーン、Shepard tone)」である。これは、連続の、あるいは不連続の特別な音のスケールが、上昇ないしは下降し続けるように知覚される現象である。
このように、音高を聴覚によって定義する場合、物理的に定められる波数とは必ずしも一致しない。
[編集] 演奏会におけるピッチ
中央のド音(C)の上のラ音(A)は、1939年にロンドンで行われた国際会議で440 Hzとされたため(通常"A = 440 Hz"か"A440"と記される)、英語圏では今でもこれが頑なに守られているが、大陸ヨーロッパではもっと高いピッチが主流であり、特に独語圏は高いピッチが好まれ、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団やヴィーン・フィルハーモニー管弦楽団はA = 444~445 Hzが基準だとされている。日本では1948年にA = 440 Hzを導入する以前はA = 435 Hzを標準としていた。現在の日本ではオーケストラや演奏会用のピアノはA = 442~443 Hz、学校教育や家庭用のピアノはA = 440 Hzが一般的となっている。
オーケストラでは移調楽器が多いので、基準音高は、表記法にかかわらず、実音で表わされる。