雲のむこう、約束の場所
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『雲のむこう、約束の場所 -The place promised in our early days-』(くものむこう やくそくのばしょ-)は、新海誠が2004年に制作したアニメーション映画、およびそれを原作としてメディアミックス的展開がなされた小説などの作品群のことをいう。
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[編集] 概要
本作は、『彼女と彼女の猫』 『ほしのこえ』 に続く、新海誠の3作目の監督作品。上映時間は91分。2004年11月20日より渋谷シネマライズで劇場公開を開始し、他の劇場でも数日~数ヶ月後に公開が開始された。
前作以上の作画のクオリティと巧みな演出、音楽とのマッチングが大いに評価され、宮崎駿監督の『ハウルの動く城』などを抑え、本作品は第59回毎日映画コンクールアニメーション映画賞を受賞した。
また、2005年12月26日には エンターブレインから 加納新太による小説版が刊行された。さらに、月刊アフタヌーンにて、佐原ミズによるマンガ版が連載されている。
注意:以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。
[編集] ストーリー
日本が津軽海峡を挟んで南北に分割占領された、別の戦後の世界が舞台。
1996年、北海道は「ユニオン」に占領され、「蝦夷」(えぞ)と名前を変えていた。ユニオンは蝦夷に天空高くそびえ立つ、謎の「ユニオンの塔」と呼ばれる塔を建設しており、その存在はアメリカと「ユニオン」の間に軍事的緊張をもたらしていた。
青森に住む中学三年生の浩紀と拓也は、海の向こうの「塔」にあこがれ、ヴェラシーラ(白い翼の意) と名づけた真っ白い飛行機を自力で組立て、いつか「塔」まで飛ぶことを夢見ていた。また二人は、同級生の沢渡佐由理に恋心を抱いており、彼女にヴェラシーラを見せ、いつの日にか自分たちの作った飛行機で「塔」まで連れて行くことを約束する。
しかしながら、突然佐由理は何の連絡も無いまま二人の前から姿を消してしまう。ショックを受けた二人は飛行機作りを止めてしまい、喪失感を埋め合わせるように浩紀は東京の高校へ進学し、拓也は地元の高校へ進学して勉学に打ち込むことになる。
3年後の1999年、「ユニオン」とアメリカの緊張は高まり、戦争が現実になりそうな気配の中、「塔」の秘密が明かとなっていく。その一方で、佐由理の行方も明らかになる。彼女は中学三年の夏から3年間もの間、原因不明のまま眠りつづけており、東京の病院へ入院していた。
やがて「塔」と佐由理との間に、衝撃的な関係があることを知った浩紀と拓也は、ヴェラシーラを塔まで飛ばす決意をする。宣戦布告後の戦闘の最中、ヴェラシーラは津軽海峡を越えて北海道の「塔」へ飛ぶ。あの遠い日に、彼らが約束した場所へ……。
[編集] 主な登場キャラクター
- 藤沢 浩紀(ふじさわ ひろき) - 声:吉岡秀隆
- 本作の主人公。中学生時代は弓道部に所属していた。少し子供っぽい性格。高校は東京の学校に進学し、学校寮に寄宿している。東京の高校に進学した理由は、佐由理が2人の前から消えた喪失感から、約束の場所であった「ユニオンの塔」を忘れようとしたため。佐由理の影響を受けたのか、ヴァイオリンを弾き始め、演奏ができるようになった。
- 白川 拓也(しらかわ たくや) - 声:萩原聖人
- 中学時代はスケート部所属。ヒロキとは対照的に、理知的で大人びており、どこかもの寂しい雰囲気を漂わせる。地元の高校に進学した。物理学に才があり、岡部の紹介で富澤研究室に外部研究員として参加し、「ユニオンの塔」の研究をしている。
- 沢渡 佐由理(さわたり さゆり) - 声:南里侑香
- 浩紀と拓也が密かに思いを寄せている同級生。性格は非常に明るいが、どこか儚げな少女。楽器はヴァイオリンが得意。中学3年の夏に原因不明の睡眠障害を発症し、東京の病院に入院する。以後、2人の前から姿を消す。
- 岡部(おかべ) - 声:石塚運昇
- 飛行機の部品代稼ぎのために、浩紀と拓也がアルバイトをする蝦夷製作所の社長。バツイチであり、南北分断により、妻と別れている。工場では米軍の下請けで、ミサイル等を組み立てている。富澤とは旧知の仲。
- 富澤 常夫(とみさわ つねお) - 声:井上和彦
- 青森アーミーカレッジに所属する、戦時下特殊情報処理研究室の室長。「塔」の研究をしている。岡部とは旧知の仲。
- 笠原 真希(かさはら まき) - 声:水野理紗
- 富澤研究室で脳科学を研究する若き研究員。年下の拓也に想いを寄せている。
- チョビ
- 岡部の工場に住みついている猫。名前の由来は、監督・新海の飼い猫の名前から。NHKのアニ・クリ15猫の集会に主人公として、秒速5センチメートルには、名前だけ登場する。
[編集] 用語
- ユニオン
- 戦後日本の蝦夷(北海道)を占領している国で、ロシア(ソビエト連邦)がモデルと思われる。
- 塔の着工が戦後直後の1974年となっている事から日本がベトナム戦争に介入したと思われるが、日本は日本国憲法に第9条を持つことを考えると、ベトナム戦争に介入することは第9条に違反となる。台詞中にも占領とあるので日本は昭和27年4月28日に独立していないとも考えられる。現実の歴史との異同や、どのような経緯・理由で戦後南北分断に至ったかまでは作品中に描写が無いため不明。
- ユニオンの塔
- 南北分断後に蝦夷に建設された白い巨大な塔、建設目的は不明。25年、日常の風景に同化した塔はあらゆるものの象徴で、国家や戦争や民族、あるいは絶望や憧れ、その受けとめ方は世代によっても違う。塔は誰もが手の届かないもの、かえられないものの象徴となっている。
- その物理的構造に関しては、「内部はナノネットの巨大なリボンで構成」等の富澤の発言がある。
- ウィルタ解放戦線
- 日本、蝦夷で活動するテログループ。南北統一を信念に活動している。
[編集] 制作スタッフ
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- 作曲・編曲:天門
- 作詩:新海誠
- 歌:♥(ハートマーク)(川嶋あい)
- 補編曲:岡澤敏夫
- 制作・配給:コミックス・ウェーブ