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表面伝導型電子放出素子ディスプレイ - Wikipedia

表面伝導型電子放出素子ディスプレイ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

55型のSEDテレビの試作品
55型のSEDテレビの試作品

表面伝導型電子放出素子ディスプレイ(ひょうめん でんどうがた でんし ほうしゅつ そし ディスプレイ、SEDSurface-conduction Electron-emitter Display)とは電界放出ディスプレイ(FED)の一種である。

目次

[編集] 概要

FEDCRTと異なり各画素毎に電子放出部を持つ。通常のFEDではマイクロティップと呼ばれる先端を尖らせた電極とゲート電極との電位差によりマイクロティップ先端から電子を取り出す。これに対しSEDでは超微粒子膜により作ったナノオーダーのスリット間に電圧をかけトンネル効果により電子を放出させる。そのため通常のFEDより低電圧で電子を取り出すことが可能である。放出された電子が蛍光体に衝突し蛍光を発することで画素を点灯させる。

薄型で大型また自発光でインパルス型と原理的にはCRTと同じである為、動画性能や暗部の階調表現力は液晶よりも良いと言われている。しかしながら近年では、液晶のような自然界と同じホールド型ディスプレイこそがFEDや有機ELのようなインパルス型ディスプレイを超える動画性能を秘めているのではないかとの考えが提示されている[1]。それにより液晶ディスプレイでは120Hz駆動化などの改良が進んでいるが、mS単位の液晶分子運動とμS単位の蛍光体を比較すれば当面動画性能の点では逆転されることはない。

蛍光体の部分は既存のブラウン管の技術がそのまま利用できるため、低コスト化を期待するむきもある。が、そのためにブラウン管を超える色域をそのままでは実現できない欠点が生まれている。これはバックライトのLED化、レーザー化によりさらに色域を拡張できる液晶や画素型プロジェクターに色域という画質の一要因で劣ることになる。長いブラウン管時代の改良を経たあとであるため、これ以上の蛍光体の改良は簡単ではないが、色域の拡大という市場の要請があれば不可能ではない。

欠点としてはブラウン管同様の焼きつきがある。ブラウン管では電子放出部が画面全体で単一であるため劣化ムラが無く焼きつき原因が蛍光体の劣化ムラのみであったが、FEDでは画素ごとの電子放出部の劣化ムラも焼きつきの原因となり得る。

薄膜部分は印刷技術を応用して作ることができるため、大量生産にも向いていると主張されることがある。液晶や有機EL、電子ペーパーにも印刷技術を応用して作られている部品があり、コストダウンには有効な手法であることが分かる。

一方、真空保持が必要なためフレキシブルディスプレイの実現は困難である。

また、他方式のビデオ出力用ディスプレイと同様に反射型液晶や電子ペーパーに見られるメモリー性を利用した書換時以外無電力静止画表示(一度画像を表示すれば電力を切っても同一画像が保持される)には不向きである。

[編集] 製品化への期待と苦難

横からみたSEDテレビ
横からみたSEDテレビ

1986年キヤノンが研究開発に着手、1999年に東芝と共同開発を始め02年度の事業化を目指した。さらにキヤノンと東芝の両ブランドによるSEDの製品化を目指し2004年には両者で合弁会社を設立し、当初は2005年内の生産開始と2008年北京オリンピック商戦へ向けての量産化を目指していた。

ブラウン管に比べて画質が劣る現世代の薄型テレビ(液晶テレビ・プラズマテレビ・リアプロジェクションテレビ)の特長とブラウン管に迫る高画質を併せ持つため、次世代の薄型テレビや高画質モニターが求められる業務用のマスターモニター等の用途で期待を集めてきた。2006年10月に55V型・フルスペックハイビジョンの試作品が公開され、「ブラウン管を超える画質」と評価する向きもある。

しかし2005年頃から市場では液晶テレビ・プラズマテレビの価格下落と大型化が大方の予測を上回るペースで進み、SEDが十分な価格競争力で製品化されるのは難しい状況となった。さらに2007年に入って基幹技術の特許を持つ米国のNano-Proprietary社とキヤノンの間で訴訟問題が持ち上がり、キヤノンと東芝の合弁会社をキヤノンが100%子会社化する対策を取ったものの、裁判ではキヤノンに不利な判決が下った(最終的な決着はついていないが莫大な違約金を余儀なくされる可能性がある)。さらに東芝が撤退しキヤノンによる事業単独化となったことでSEDの事業化は極めて困難なものとなってしまった。

最初の製品は2007年の第4四半期(10~12月の間)に発売される予定であったが、特許問題に絡み量産ラインの建設に着手できない状態が続き、本格的な市場投入時期はさらに遅れる模様である。2007年5月25日にはキヤノンは3度目の発売延期を発表、発売時期は未定であるとした(2008年06月20日現在)。これにより北京五輪商戦に間に合うかどうかも分からない状況となっている。

御手洗会長が「SEDに社運を賭ける」と強調しているようにキヤノンにとってテレビ事業への参入は悲願とされているが、パートナーとも言える東芝は次第にSEDへの熱が冷めてきたと報道されている。実際、当初はSEDのみで展開するとしてきた50V型以上の大型製品を液晶テレビ『REGZA』で投入することになった。

現在、各社独自の技術の進展で液晶テレビ・プラズマテレビの抱えていた画質面での問題の克服に意欲的になっている。その為こういった薄型テレビをめぐる情勢の変化に伴い、SEDのインパクトは当初に比べて薄れつつある。

[編集] 経緯

  • 1986年キヤノンが薄型表示装置用の電子源開発に着手。
  • 1996年-3.1インチの試作品をキヤノンが公開。
  • 1999年6月15日-キヤノンと東芝が提携。
  • 2004年9月14日-キヤノンと東芝が研究・生産の合弁会社SED株式会社設立を発表。この時36V型・1280×768ドットの試作品を展示。
  • 2006年10月-55V型・1920×1080ドット(フルスペックハイビジョン)の試作品が公開。
  • 2007年1月12日-キヤノンが東芝保有の全株を買い取り、完全子会社化を発表。
  • 2007年5月25日-2007年第4四半期に予定していた発売予定を、「当面の間、見送る」(キヤノン)「現時点では未定」(東芝)と発表。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク


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