英雄戦争
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英雄戦争(えいゆうせんそう)は、水野良のファンタジー小説『ロードス島戦記』および同名のTRPGリプレイに登場する架空の戦争。作中では歴史的な大事件であり物語の主軸をなす。
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[編集] 由来
戦争の主役となった神聖ヴァリス王国とマーモ帝国、それぞれの為政者である「英雄王」ファーンと「暗黒皇帝」ベルドは、かつて「魔神戦争」で協力して魔神を打ち倒しロードスを救った「六英雄」の内の2人であった。この2人が争った、つまり英雄同士の戦争であるとして、後に英雄戦争と命名された。
注意:以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。
[編集] 経緯
魔神戦争終息後、当時国家として纏まっていなかった故郷「暗黒の島」マーモに単身戻った六英雄の一人「赤髪の傭兵」ベルドは、わずか三年のうちに当時島内に割拠していた諸勢力(暗黒神ファラリス教団、暗殺者ギルド、闇の森の蛮族、ダークエルフやゴブリンなど「闇の眷属」)を力によって束ね、秩序や束縛からの自由を謳う暗黒神ファラリスを国教とするマーモ帝国を建国し「暗黒皇帝」の座に座る。アシュラム、バグナードらマーモ帝国の重臣となる面々も、この時期に多くが従っている。一方、魔神戦争後に故国のヴァリス王国聖騎士団に復帰した六英雄の一人「白き騎士」ファーンは、新王国暦496年、ヴァリス国王の座に就き「白き王」「英雄王」と呼ばれるに至った。
魔神戦争から約30年後、ベルドは満を持してロードス島南端に位置していたカノン王国を急襲し占領する。カノンの王族は出奔していた第3王子・レオナーを除いて全て処刑され、王家の血統はほぼ絶えた。これが英雄戦争の発端である。
至高神ファリスを国教とし、ファリスの教えが重要な意味を持つヴァリス王国にとって、暗黒神ファラリスの教団やそれに連なる闇の種族を主力とする新興のマーモ帝国は到底容認しがたい存在であった。しかし単独でマーモ帝国と対決するのは不利と判断したファーン王はアラニア・モス・フレイムに対マーモ連合軍の結成を呼びかけ、大規模な包囲網を引くことに成功する(ヴァリスとマーモの対立が明確化したこの時点で、英雄戦争が始まったとする見方もある)。
その後しばらく表立った動きは無かったが、水面下での動きは盛んであった。特にマーモ帝国側は表立った外交だけでなく、秘密裏の工作や実力行使を多用した。その結果、国王カドモスVII世の暗殺により連合軍からアラニア王国が脱落、続いてモス公国も内部にマーモ帝国に寝返る国が出て脱落、残る砂漠の新興国フレイムでも内戦が激化するなど、対マーモ連合は戦う前に崩壊の危機に直面する。また盟主であるヴァリス王国でも王女フィアンナの誘拐事件が発生する(姫は無事に奪還された)。
かくしてロードス暦810年(アレクラスト大陸の暦では新王国暦510年)春、マーモ帝国軍(総数2,800)はついにヴァリス王国内への侵攻を開始。ヴァリス王国の東半分を瞬く間に席巻したマーモ帝国軍を王都ロイド郊外にてヴァリス王国・フレイム王国の連合軍(総数2,100)が迎え撃ち、全面対決となった。戦力的には妖魔軍団(2,000)が多数を占めるマーモ帝国軍に対し、連合軍もヴァリス義勇軍(1,000)が半数を占め互角と思われたが、戦局は先手を制したマーモ優位に推移した。劣勢の連合軍はカシュー王率いるフレイム軍の奮戦により持ち堪え、ファーン王はベルド皇帝との一騎打ちに持ち込むが、魔法の助けで若さを保っていたベルドに老いたファーンは敗れ、フレイム王国の「傭兵王」カシューが決闘を引き継ぐ。2人は互角であったが、フレイム側より打ち込まれた一本の矢によって均衡は崩れ、カシューが勝利した(ベルドの持つ魔神王の剣「魂砕き(ソウルクラッシュ)」は黒衣の将軍アシュラムの手に渡り、彼はカシューへの報復を誓った)。圧倒的な存在感とカリスマ性で帝国を束ねていたベルド皇帝の死により、マーモ帝国軍は結束力を失って撤退した。(最も狭義な英雄戦争は、マーモによるヴァリス侵攻からこの「ロイド郊外の戦い」の間を指す)
[編集] 終結後
結果的には勝利を得たヴァリス・フレイム連合軍であったが、ヴァリス王国はファーン王だけでなく宮廷魔術師エルムをはじめとする王国要人の多く(一部はダークエルフによる暗殺)と一般民から成る義勇兵に甚大な被害を出したため余力を完全に喪失、フレイム軍も早急に本国に帰還して炎の部族の攻勢に対処しなければならず、占領されたヴァリスの東半分の奪回と旧カノン王国への侵攻・解放を断念。ここに英雄戦争は終結する。
帝国の要であるベルドを失ったマーモ帝国は、まだ余力を残しながら進むべき方向を見失って現状維持に転じ、旧カノン領の治世に専念することになるが、元々武力による統治の国柄であるため、黒衣の将軍アシュラムなど一部を除くと、力による圧政以上の方法を取り得なかった。
ヴァリスは新国王に異例の神官出身者(フィアンナ王女奪還の功労者でもある)、エトを選び、国力の回復に全力を注ぐ。またマーモに占領されたヴァリスの東半分の奪回戦は、国内の不満を解消する意味もあって神官王エトの下で、さほど間を置かずに実施された。
アラニア王国とモス公国はマーモの策略による内戦が続き、内戦を逸早く終結させて順調に国力を伸ばしたのはフレイム王国のみであった。
[編集] 1本の矢の疑惑
前述のとおり、英雄戦争の帰趨を決したカシューとベルドの一騎討ちは、突如放たれた1本の矢によって明暗を分かつことになった。何者がこの矢を放ったのか、いまだに諸説ある。
一つは、灰色の魔女カーラの策謀によるもので、彼女にとってファーンとベルドは「光と闇を均衡」させるため生死を共にさせる必要があったとする説。実際両雄が共に倒れることによって、ロードス島には束の間の均衡状態が訪れている。この戦いの前にカーラはウォートと「これ以上ベルドに手を出さない」という交換条件をかわしており、それを破ったことになる。(ちなみにOVA版では、カシューとの決闘ではなくカーラが魔法を使ってベルドを手にかけている。また、コミック『ロードス島戦記 灰色の魔女』ではカーラが自ら矢を放ったことが描写されている)
もう一つは、カシューが狙撃兵を用意させ、いざというときのための切り札にしていたという説である。カシュー自らがそのように指示したという説と、部下がカシューに知らせずに用意させたという説がある。カシュー自らが指示したという説の根拠としては、「新ロードス島戦記」にてギャラックが「(カシュー王が)弓の名手を潜ませていた」と発言している。
いずれにせよ、カシューは問題の矢が刺さった瞬間に一瞬剣を止め、次の瞬間ベルドの首をはねた。このとき「止められたのに止めなかった」ことは本人が認めている。
尚、ザ・スニーカー連載版のロードス島伝説ではナシェルが矢を放ったことがほのめかされていたとする説も散見される。これは、ベルドとファーンの戦いを遠くから眺める武装した初老の男(ナシェル)に関して、
『このロードスに存在してはならない男である。それゆえに、彼は伝説の彼方へと消え去り、もどらなかった。「しかしこの役割ばかりは、わたしが果たすしかあるまい。わたしこそが真の魔神王なのだから……」』
という記述がザ・スニーカー2002年6月号にあり、決意を抱きながらも目的がぼかされ読者に想像の余地を与える意味深なナシェルの台詞から想起されたものである。
しかしロードス島伝説第5巻P153では、
『このロードスに存在してはならない男だから。だが、この戦いばかりは見届けないわけにはゆかなかった。』
とナシェルの目的を見届けることに限定するように変更しており、魔神戦争においてロードス統一を成し得ず、その結果としてベルドとファーンの争う英雄戦争に繋がったことで、自身の行動の最終的な結末を見届けるために登場したことになったと考えられる。
[編集] 参考書籍
- 『ソード・ワールドRPG ロードス島ワールドガイド』 水野良(監修) 清松みゆき&グループSNE ISBN 4-8291-7404-8