直交周波数分割多重方式
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直交周波数分割多重方式(ちょっこうしゅうはすうぶんかつたじゅうほうしき、 英:Orthogonal Frequency-Division Multiplexing; 以後OFDMと略称)は、デジタル変調の一種である。 Coded OFDM (COFDM)とは実質的に同一である。 データを多数の搬送波(サブキャリア)に乗せるのでマルチキャリア変調に属する。 これらのサブキャリアは互いに直交しているため、普通は周波数軸上で重なりが生じる程に密に並べられるにも関わらず、 従来の周波数分割多重化方式(FDM)と異なり、互いに干渉しない利点がある。 サブキャリアは高速フーリエ変換(FFT)アルゴリズムを用いて効率的に区別できる。
OFDMは広帯域デジタル通信において、無線/有線の区別を問わず広く使われている。 具体的な応用としてデジタルテレビや放送、ブロードバンドインターネット接続が挙げられる。
目次 |
[編集] 概要
各々のサブキャリアは直交振幅変調(QAM)等の従来通りの方式で、低シンボルレートで変調される。 この段階でのデータレートは、同じ帯域幅のシングルキャリア変調と比較すると同程度である。 では主要な長所は何かと言うと、複雑なフィルタ回路なしでも悪い伝送路(チャネル)状況に対応できる点である。 具体的には長い銅線による高周波の減衰、マルチパスによる狭帯域干渉や周波数選択性(フェージング)等に強い。 OFDMは、高速の変調を受けた単一の広帯域幅信号ではなく、 ゆっくりとした変調を受けた多数の狭帯域幅信号を使っているとみなせる。 このためチャネルのイコライザーは簡易で済む。
シンボルレートが低いおかげでシンボル間のガードインターバルが利用できるため、 時間軸上での拡散への対処や、符号間干渉(ISI: intersymbol interference)の除去が可能になる。 さらにシングルキャリアネットワークの構成が容易になる利点もある。 これは遠距離にある複数の送信機からの信号同士が強め合うように重ね合わせることができるためである。 (従来の方式では信号同士が干渉で妨げ合うのが普通だった。)
[編集] 応用例
OFDMに基づく既存の標準と製品の概要を以下に列挙する。
[編集] ケーブル
[編集] 無線
- 無線LAN規格 - IEEE 802.11a、同g、及びHIPERLAN/2
- デジタルラジオシステム- DAB/EUREKA 147, DAB+, Digital Radio Mondiale, HD Radio, T-DMB 及び ISDB-TSB
- デジタルテレビシステム - DVB-T
- モバイルテレビシステム - DVB-H, T-DMB, ISDB-T , MediaFLO forward link
- 第四世代携帯電話(beyond 3G)セルラー方式通信システム- Flash-OFDM(Fast Low-latency Access with Seamless Handoff OFDM)、3GPP Long Term Evolution LTE
- 無線MAN / Fixed broadband wireless access (BWA) 規格 - IEEE 802.16(またはWiMAX)、HIPERMAN
- Mobile Broadband Wireless Access (MBWA) 規格 - IEEE 802.20, IEEE 802.16e (Mobile WiMAX) 、WiBro
- 無線Personal Area Network (PAN) Ultra wideband (UWB) IEEE 802.15.3a 、WiMedia Allianceによって提案された方式。
[編集] 鍵となる特徴
[編集] 利点
- 複雑な等価器なしでひどい伝送路(チャンネル)状況に簡単に適応できる
- 狭帯域伝送路干渉に対して強い
- マルチパス伝達による符号間干渉(ISI: intersymbol interference)とフェージングに対して強い
- 高い周波数効率
- FFTの使用による効率的な実装
- 時間同期エラーへの低い感度
- 従来のFDMと違い、調整されたサブチャネルレシーバーフィルタは必要ない。
- シングル周波数ネットワーク、すなわち送信機のマクロダイバシティを容易にする。
[編集] 欠点
- ドップラー偏移に敏感。
- 周波数同期問題に敏感。
- ピーク対平均電力比(PAPR)が高い。よって高価な送信機回路を必要とする割に出力効率が貧弱。
[編集] 特性と動作原理
[編集] 直交性
OFDMでは、サブキャリアの周波数はお互いのサブキャリアが直交するように選ばれる。 よってサブチャネル同士の混信がなくなるために搬送波干渉ガード帯域が必要とされず、 送受信機の設計を大いに単純化できる。 具体的には従来のFDMと異なり、各サブチャネルに対し別々のフィルタを用意する必要がない。
直交性のおかげで高いスペクトル効率が得られ、理論上の限界であるナイキスト・レートに匹敵する。 割り当てられた周波数帯はほとんど全て無駄なく利用できる。 一般にOFDMは「白」に近いスペクトルを持ち、他の共同伝送路ユーザーに対する電磁干渉特性が良性である。
OFDMでは直交性のおかげでFFTアルゴリズムを利用でき、変調器と復調器を効率的に実装できる。 その原理および利点は1960年代から知られていたが、 広く使われるようになるにはFFTを能率的に計算できる低コストのデジタル信号処理ICの普及を待つ必要があった。
OFDMは、受信機と送信機に非常に正確な周波数同期を必要とする; 周波数がずれると、サブキャリアはもはや直交性を保てず、搬送波干渉(ICI: inter-carrier interference)すなわちサブキャリア間における干渉(cross-talk)、を引き起こす。 周波数オフセットは典型的に、送信機や受信機の発振器または移動によるドップラー偏移による不釣り合いが原因である。 ドップラー偏移は受信機で単独で補われるかもしれないが、マルチパスと結合されるとき、反射がさまざまな周波数オフセットに現われるのでより訂正しににくく、状況は悪化する。 この影響は一般的に速度の増加に悪化し、高速の車両でOFDMの使用を制限している重要な要因である。 ICI抑制のさまざまな技術が提案されているが、それらは受信機の複雑さを増やす。
[編集] シンボル間干渉除去のためのガードインターバル
OFDMの1つの重要な原理は低いシンボルレート変調方式(すなわち、シンボルがチャネル時間特性と比較して、比較的長いところ)が、マルチパスによって引き起こされるシンボル間干渉(ISI)によって悪くなるので、単一の高いレートによる伝送の代わりに平行にいくつかの低いレートによる伝送を送る方が有利であるということである。 それぞれのシンボルの期間は長いので、OFDMシンボルのガード・インターバルを挿入することは可能であり、このようにして、シンボル間干渉を除く。
ガード・インターバルもまた「pulse-shaping filter」の必要を省き、そしてそれは時間同期問題の感受性を減らす。
単純な例: もし1秒につき100万のシンボルを無線伝送路上で従来のシングルキャリア変調を用いて伝送すると、それぞれのシンボルの期間は1マイクロ秒以下になる。 これは厳しい制約を同期に負わせ、マルチパス干渉の除去を必要とする。 もし同じ100万のシンボルが1000のサブチャネルの間に1秒につき広げられるならば、それぞれのシンボルの期間はほぼ同じ帯域幅で直交のために1000倍、すなわち1ミリ秒、により長くできる。 シンボル長の1/8のガード・インターバルがそれぞれのシンボルの間に挿入されると仮定する。 もし時間遅延(最初の受信と最後の繰り返しの間の時間)のマルチパスがガード・インターバルより短ければ、すなわち125マイクロ秒、シンボル間干渉(ISI)は避けることができる。 これは経路の長さで、最大37.5キロメートルの相違に対応する。
ガード・インターバルの間送信されるcyclic prefix(CP)は、ガード・インターバルにコピーされるOFDMシンボルの終わりから成り立っていて、ガード・インターバルの後にOFDMシンボルが送られてくる。 ガード・インターバルがOFDMシンボルの終わりのコピーから成る理由は、FFTとOFDM復調器を実行する時に、マルチパスのためのシヌソイド・サイクルの整数番号上に統合するためである。
[編集] 簡略化された等価器
[編集] チャネル・コーディングおよびインターリーブ
[編集] 適応伝送
[編集] 理想的なシステムモデル
[編集] 送信機
[編集] 受信機
[編集] 数学的な説明
もしNサブキャリアが使われ、さらにそれぞれのサブキャリアがM選択シンボルで変調されている時、OFDMシンボル基礎はMN結合されたシンボルから成り立つ。
低パス等量OFDM信号は次のように表現される:
{Xk}: データシンボル N: サブキャリアの数 T: OFDMシンボル時間
1 / Tの間隔のサブキャリアはそれらを各シンボル期間にわたって直交にする; この固有性は以下で表せる:
{Xk}: データシンボル N: サブキャリアの数 1 / T: OFDMシンボル時間
1 / Tの間隔のサブキャリアはそれらを各シンボル期間にわたって直交にする; この固有性は以下で表せる:
: 複素共役 : クロネッカーのデルタ
マルチパスフェージング伝送路によるシンボル間干渉を避けるために、長さTgのガード・インターバルはOFDMブロックの前に挿入される。 この間隔の間に、cyclic prefixは送られる、と言う間隔の信号は、と言う間隔の信号に匹敵する。 cyclic prefix があるOFDM信号は以下のように表せる。
上記の低パス信号は、実数または複素数のどちらかである。 実数値の低パス等量シグナルは一般的にベースバンドで伝送される、DSLのような有線アプリケーションはこのアプローチが使われる。 無線アプリケーションでは、低パス等量シグナルは一般的に複素数の値をとる; その場合、送信された信号は搬送周波数fcにアップコンバートされる。 一般に、送信された信号は次のように表すことができる:
[編集] 実用
[編集] OFDMシステム比較テーブル
さまざまな一般的なOFDMベースのシステムに関する重要な特徴を以下の表に示す。
規格名 | DAB Eureka 147 | DVB-T | DVB-H | DMB-T/H | IEEE 802.11a |
---|---|---|---|---|---|
批准された年 | 1995 | 1997 | 2006 | 1999 | |
現在の機器の周波数レンジ (MHz) |
174 - 240 1452 - 1492 |
470 - 862 | 470 - 862 | 470 – 862 | 4915 - 5825 |
Channel spacing B (MHz) |
1.712 | 8 | 8 | 8 | 20 |
サブキャリアの数 N | 192, 384, 768 or 1536 | 2K mode: 1705 8K mode: 6817 |
1705, 3409, 6817 | 1(シングルキャリア) 3780(マルチキャリア) |
52 |
サブキャリアの変調方法式(一時変調) | DQPSK | QPSK, 16QAM or 64QAM | QPSK, 16QAM or 64QAM | 4QAM, 4QAM-NR,[1] 16QAM, 32QAM and 64QAM. |
BPSK, QPSK, 16QAM or 64QAM |
使用されるシンボル長(symbol length) TU (μs) |
2K mode: 224 8K mode: 896 |
224, 448, 896 | 3.2 | ||
追加されるガードインターバル TG (Fraction of TU) |
1/4, 1/8, 1/16, 1/32 | 1/4, 1/8, 1/16, 1/32 | 1/4, 1/6, 1/9 | 1/4 | |
Subcarrier spacing Δf = 1/(TU) ≈ B/N (Hz) |
2K mode: 4464 8K mode: 1116 |
4464, 2232, 1116 | 8 M (single-carrier) 2116 (multi-carrier) |
312.5K | |
Net bit rate R (Mbit/s) |
0.576 - 1.152 | 4.98 - 31.67 (typically 24) |
3.7 - 23.8 | 4.81 - 32.49 | 6 - 54 |
スペクトル効率 R/B (bit/s/Hz) |
0.34 - 0.67 | 0.62 - 4.0 | 0.62 - 4.0 | 0.60 - 4.1 | 0.30 - 2.7 |
FEC | 畳み込み符号 code rates:1/4, 3/8 or 1/2 |
畳み込み符号 code rates:1/2, 2/3, 3/4, 5/6 or 7/8 |
畳み込み符号 code rates:1/2, 2/3, 3/4, 5/6 or 7/8 |
BCH符号 | 畳み込み符号 code rates:1/2, 2/3 or 3/4 |
その他のFEC(もしあれば) | None | RS(204,188,t=8) | RS(204,188,t=8) + MPE-FEC | LDPC code rates:2/5, 3/5 or 4/5 |
|
Maximum travelling speed (km/h) |
200 - 600 | 53 - 185 | |||
Time interleaving depth (ms) |
385 | 0.6 - 3.5 | 0.6 - 3.5 | 200 - 500 | |
適応伝送 (ほかにあれば) |
None | None | |||
多元接続の方式 (ほかにあれば) |
None | None | |||
データ圧縮の種類 | 192 kbit/s MPEG2 Audio layer 2 |
4 Mbit/s MPEG2 |
Not defined (MPEG-2 or H.264 w/MP2) |
[編集] ADSL
OFDMはG.DMT(ITU G.992.1)規格に従ってADSL接続で使われ、既存の銅線は高速データコネクションを提供するのに使われる。
長い銅線は、高周波成分が減衰で損失する。 OFDMは狭帯域干渉におけるこの周波数選択性減衰(frequency selective attenuation)に対処することができる事実が、ADSLモデムのようなアプリケーションで多用される主な理由である。 しかしながら、DSLはすべての一組の銅線(copper pair)で使うことができない; もし電話交換局に入っている電話回線の25%以上がDSLのために使われるならば、干渉は重要になるかもしれない。
実験用アマチュア無線アプリケーションのために、ユーザーは商業的でいつでもすぐ買えるADSL機器をユーザーが認可した無線周波数に使われる帯域を単に移動させるラジオトランシーバーに取り付けさえした。
[編集] 電力線搬送通信
[編集] 無線LANおよびMetropolitan Area Network(MAN)
[編集] Personal Area Network(PAN)
[編集] 地上デジタルラジオおよびテレビ
[編集] DVB-T
[編集] COFDM 対 VSB
[編集] デジタルラジオ
[編集] ISDBで使われているBST-OFDM
[編集] 超広帯域無線
[編集] Flash-OFDM
[編集] 脚注
- ^ NR: Nordstrom-Robinson code