男らしさ
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男らしさ(おとこらしさ)とは、これが男性の特性(あるいは特徴・要件等)である、と特定の話者や特定の集団が想定している観念群のことである。
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[編集] 概説
「男らしさ」は、文化圏、地域、宗教の教派、歴史、時代、世代、家庭環境、個人の嗜好などの影響を受けつつ形成され、多様である。同一地域、同一文化圏でも、時代とともに変化してゆくことは多い。
「男らしさ」や「女らしさ」という概念は、ジェンダーという名称で括られて研究されている。[1]
フェミニズムが活発化する60年代以前は世界的に男らしい事が男性にとっての最大の魅力であったが、フェミニズムやメンズリブ運動で男らしい事が必ずしも魅力では無くなった。現在では、先進諸国では、男らしさ・女らしさよりも、人間らしさや個性が評価される流れがある。だが、現代でも男らしい事が男性の魅力と感じる人も存在する。
[編集] 歴史
産業革命期から第二次世界大戦後における男らしさとは、「男は弱音を吐かない、泣かない、女を守る」といったものから、男性を一方的に仕事や戦争に出すものまで様々な事例が存在し、その代償として男性優位(男性だけが大学などに進学できたり、社会の重要な職業に就くことが出来るなど)を得るものが多かった。
[編集] フェミニズム・保守層
1970年代以降のフェミニズムは「男らしさ」批判を展開し、さらに保守層からは反論がおこった。こうした男らしさをめぐる論争は現在進行形で続いている。
フェミニズムやジェンダー論においては「男らしさ」「女らしさ」を求める事が性差別を助長しているとする。それまでの男性優位の社会構造を改め、雇用や賃金の平等化など、両性平等の原則にのっとった社会政策が実施された。これによって女子の大学進学率などが向上したが、いっぽうで過渡的措置として女子優遇政策をとる場合があり、それも保守層の批判の的となった。しかしながらこの傾向は現在でも続いている。
保守層からの批判とは、フェミニズム政策や「らしさ」の消失によって、少年達に様々な問題が露出しはじめ、少年達は真面目に勉学に励むという事をしなくなり、北欧やアメリカで男子生徒の成績は急激に低下したとするものである(→ガールパワー)。様々な科目で少女達に遅れをとり、大学進学率も低下したと主張し、イギリスはこの男子の学業不振を社会問題として捉え、男らしさに基づいた教育制度が実施される事になった。アメリカでも同様に少年犯罪や学業低下を問題視し、「真に男らしい男とは責任感と弱者をいたわるジェントルマン精神を持つ男である」として男らしさを復活させようという運動がある。
[編集] 「男らしさ」の具体例
地域によって様々な違いがある。男性の精神的特徴(論理的、理知的、リーダーシップ)をとらえて規定するものもあり、肉体的特徴(筋肉質、高身長、強さ)をとらえて規定するものもある[2]。
[編集] 西欧諸国全般
- 主体性、リーダーシップ(頼りがい)、感情を抑えること(論理性)[3]
[編集] イギリス
イギリスでは古くは騎士道にのっとった生き方が男らしい、と思われていた。その後、紳士的(ジェントルマン)であることが最大の男らしさと考えられていた。それを失われつつある現代でも、それが再興することを願っている人もいる。
[編集] フランス
数十年前までは、女性のためにうやうやしくドアなどを開けてあげるなど、女性に対してやたらと優しいのが男らしいと思われていた。その後、ウーマンリブ運動が起き女性の側からの権利主張が多くなり女性が権利を獲得するにつれ、多くのフランス人男性たちは女性を特別扱いするのを馬鹿馬鹿しく感じるようになり、女性のためにドアをあける男性は激減し、現在ではほとんど存在しない。フランスでは早い段階で、男性らしさや女性らしさより、個性や人間らしさが評価されるようになった。
[編集] 中東
イスラム諸国やユダヤ人の間では髭を生やす事が男らしいと考えられている。
トルコなどでは日中は、あまり仕事をせず、男の仲間同士、水タバコなどをふかして世間話をしているのが男らしいと思われている。
[編集] フィリピン
フィリピンでは、男は仕事をしないで日中からのんきに遊んで、妻に働かせて、妻からおこづかいを貰うものだとされ、それが男らしい、いかにも男だ、とされる。
[編集] 日本
戦国時代の武士に生まれたものの間では
幕末、明治時代
第二次世界大戦前などは、例えば、以下のようなもの。
- いさぎよさ
- 我慢強さ
- 無口
- 不言実行
- (あるいは上記と反対に、有言実行)
- 感情を抑えること(論理的、理知的)
第二次世界大戦後、高度成長期など
- 汗をかいて体を動かすこと (これは主として労働者の家庭での観点。父親が学者の家庭などではその反対に、論理や理屈が優先で、形而上の世界に意識が向いていて、あまり身体を動かさない、汗をかかないのが「男らしい」と思っている人がいる)
- 有言実行
- 落ち着いていること
- 女性に対して優しいこと
現代の日本の社会では経済優先(拝金主義)の人が増えたので以下のようなものも見られる。
- 金をかせぐこと(いわゆる"経済力" )[4](これは武士道の観点”金銭に拘泥しないこと ”からすれば全然男らしくないので、違和感を感じる日本人もいる)
[編集] 現代日本で若者によって思い描かれる「男らしさ」
ここ数年、雑誌などでのアンケート調査では、「好きな男性のタイプは?」との質問に対し、「男らしい人」と返答されてくることが多い。また「男らしい人」と返答した女性に「具体的にはどんな人ですか?」と質問すると、千差万別な答えが返ってくることがSPA!などの記事に取り上げられている。そのため日本においては男らしさのイメージも千差万別であり、万人が認めるような男らしさの概念が確立されているわけではないと考えられる。
[編集] 現代の若者の意識調査
文部科学省の外郭団体である財団法人「一ツ橋文芸教育振興会」と「日本青少年研究所」は、2003年秋に日本・米国・韓国・中国の高校生各千人を対象にアンケート調査を行い、2004年2月にその結果を発表した。この結果にもとづき、読売新聞は、日本では「女は女らしくすべきだ」を肯定した生徒が28.4%であり、他国(米58.0%、中71.6%、韓47.7%)よりも「突出して低い」と報じた。また、「男は男らしく」を肯定した人も43.4%と、4カ国で唯一半数以下であると指摘した[5]
なお、上記の新聞記事が引用し、日本青少年研究所が公開している調査報告書には、単純集計結果と男女別集計結果が記されている。この報告書における男女別集計結果によれば、調査対象者と各項目を肯定した者の男女比は下記の通りである[6]。
日本 | 米国 | 中国 | 韓国 | |
---|---|---|---|---|
調査対象 (男子:女子) | 35.0:64.8 | 47.6:52.1 | 45.7:54.0 | 52.9:47.1 |
女は女らしくすべきだ 肯定 (男子:女子) | 38.9:22.5 | 61.0:55.5 | 75.4:68.0 | 61.3:32.3 |
男は男らしくすべきだ 肯定 (男子:女子) | 49.2:40.4 | 65.1:62.4 | 83.0:79.7 | 67.4:40.9 |
読売新聞2月20日朝刊の社説は、「日本青少年研究所」が公開した4カ国対象の意識調査において、「女は女らしくすべきだ」を肯定した日本の生徒が少なかった事などにもとづき、「教育界で流行している『ジェンダーフリー』思想の影響を見て取ることができる。」とし、その社説の最後で「調査結果は、倒錯した論理が広がったときの恐ろしさを示している。」と結論づけた[7]。
[編集] 男らしさへの批判
[編集] フェミニズム
フェミニストは男らしさ、女らしさを後天的に作られた男尊女卑的な性役割、「男らしさ」なるものは男性が強者としての立場から女性や弱者に一方的な「優しさ」を押し付けるパターナリズムとして否定し「らしさからの解放」を掲げている。
[編集] 教育界
教育界においても「性差で役割を固定するのは良くない、個性をつぶしてしまう」といわれ、現在の教育では画一的な男らしさは殆ど否定されつつある。代わりにジェンダーフリーが導入されているところがある。大学などの教育の場でも、「そもそも、男らしさ・女らしさ、とはいったい何なのか?」ということを考えさせる授業や講義がある。ただ、人によっては、男らしさ・女らしさはあってもいいではないか、という意見も多い。ただ、その男らしさ・女らしさ、というものも人によって見解が異なり、「あなたは男なんだから、不平を言ってはならない」とか、「女のくせに、そんな偉そうな態度を取って……」などといった偏見、教師にとって都合のよい価値観の押しつけになってしまう恐れがある。
[編集] 男性による批判
男らしさは男性の負担になるとして、男性自ら排除しようとする人々も数多く存在する。また、現実として、「女らしさ」の要求はタブー視されるのに、「男らしさ」の要求は当然とする向きが強い。上の調査結果を見ると、すべての国で「男らしくあるべき」は「女らしくあるべき」を上回っている。だが、日本以外の国は、「男らしくあるべき」と回答した男性と、「女らしくあるべき」と回答した男性の率の差と、「男らしくあるべき」と回答した女性と、「女らしくあるべき」と回答した女性の率の差はそこまで変わらない。一方、日本の場合、「男らしくあるべき」と「女らしくあるべき」の女性の回答の差が18%(男性は9%)と際立って多い。その点から見て、日本の女性は自分の「らしさ」からの自由は主張するが、男性には自分の思うような「らしさ」を要求する傾向があり、これを不平等、ご都合主義だとする男性もいる。
[編集] 脚注
- ^ 今から数百年前は、肉体的な性別と、男としてのありかたを区別できず同一視するような論調が世に溢れていたが、近年のジェンダー研究によって(相対的に)文化的な影響が大きいとされるようになってきている。
今でも、かつてと同じように単純に生物学的差異(例えば脳の性差、ホルモンの違いなどの性格の傾向への影響)を強調(あるいは混同)する人もいる。
無論、人間のありかたについては、文化的要素/生物的要素、その他様々な要素が、それぞれそれなりに影響を与え絡みあっているので、それらの影響の相対的な割合については、様々な学者から様々な指摘がなされている。 - ^ 『「男らしさ」の人類学』 デイヴィッド ギルモア (著)
- ^ 注.近年の西ヨーロッパ全般に、男女ともに個人主義が普及しているので、個人主義は「男らしさ」とは考えられていない。また、「個人主義」という言葉を誤用せぬよう同項を熟読のこと。
- ^ http://allabout.co.jp/finance/stockbeginner/closeup/CU20050628A/
- ^ 2004年2月17日読売新聞朝刊
- ^ 高校生の生活と意識に関する調査 (日本青少年研究所 2004.2)
- ^ 読売新聞2004年2月20日朝刊:社説
[編集] 関連項目
[編集] 関連文献
- 村中 兼松『性度心理学―男らしさ・女らしさの心理』帝国地方行政学会 (1974) ASIN B000J9X20W
- 村中 兼松『男らしさ・女らしさからみた職業・結婚・人間関係』ぎょうせい (1977/03) ASIN B000J8Z2JW
- Sネイフ、 G.W. スミス『ユリシーズ・シンドローム―“男らしさ”のジレンマ』三笠書房 (1986/09) ISBN 4837954286
- 佐佐木 綱『女らしさ・男らしさ―計画の視点より』淡交社 (1989/05) ISBN 4473010953
- 森 隆夫 (編集), 斎藤 幸一郎『豊かな個性―男らしさ・女らしさ・人間らしさ』ぎょうせい、1991.12、ISBN 4324030219
- 青木 やよひ、磯田 三雄 『ちょっと変じゃない?―「女らしさ」「男らしさ」ってなんだろう』小峰書店、1992.10、ISBN 4338104015
- 伊藤 公雄『「男らしさ」のゆくえ―男性文化の文化社会学 』新曜社、1993.09、ISBN 4788504596
- デイヴィッド ギルモア『「男らしさ」の人類学』春秋社、1994.09、ISBN 4393424522
- 中村 正『「男らしさ」からの自由―模索する男たちのアメリカ』かもがわ出版、1996.02、ISBN 4876992266
- メンズセンター『「男らしさ」から「自分らしさ」へ』かもがわ出版、1996.06、ISBN 4876992479
- 伊藤 公雄『男性学入門』作品社、1996.08、ISBN 4878932589
- 豊田 正義『オトコが「男らしさ」を棄てるとき』飛鳥新社 、1997.05、ISBN 4870312980
- トーマス キューネ『男の歴史―市民社会と「男らしさ」の神話』柏書房、1997.11、ISBN 4760115536
- 関 智子『「男らしさ」の心理学―熟年離婚と少年犯罪の背景』裳華房、1998.11、ISBN 4785386940
- 沖縄タイムス社『男に吹く風―「らしさ」の現在』沖縄タイムス、1998.11、ISBN 4871275051
- 藤岡 良『「主夫」っていいかも―「男らしさ」のしがらみを超えて、気楽に元気に生きる本』彩流社、1999.06、ISBN 4882026570
- 「男らしさ」の神話―変貌する「ハードボイルド」講談社 、1999.09、ISBN 4062581663
- 多賀 太『男性のジェンダー形成―〈男らしさ〉の揺らぎのなかで』東洋館出版社、2001.01、ISBN 4491016798
- 蔦森 樹『男でもなく女でもなく―本当の私らしさを求めて』朝日新聞社、2001.02、ISBN 4022613238
- 森永 康子『女らしさ・男らしさ―ジェンダーを考える』 (心理学ジュニアライブラリ) 北大路書房、2002.11、ISBN 4762822841
- 『男らしさ・女らしさって何? (こんのひとみ心の言葉)』ポプラ社、2003.03、ISBN 4591076237
- 伊藤公雄 『「男らしさ」という神話―現代男性の危機を読み解く (NHK人間講座 (2003年8月~9月期))』日本放送出版協会、2003.07、ISBN 4141890901
- 渡部昇一著『男は男らしく 女は女らしく』ワック (2004/12) ISBN 4898315275
- 熊田 一雄『“男らしさ”という病?―ポップ・カルチャーの新・男性学』風媒社、2005.09、ISBN 4833110679
- 『男性史〈3〉「男らしさ」の現代史』日本経済評論社、2006.12、ISBN 4818818860