情報の散逸
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情報の散逸(じょうほうのさんいつ)とは、ある一定個所に蓄積された情報・記録が、他の情報に紛れ込んで検索不可能に陥ったり、その入れ物が破壊されるなどして、内容の情報・記録が散り散りバラバラとなって、その価値が失われる事。
- なお近年のコンピュータネットワークに於ける情報が無秩序に拡散してしまう現象に関しては情報の拡散を参照されたし。
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[編集] 概要
情報や記録は、必要な時にいつでも取り出して、閲覧可能である事が望ましい。これをもっとも体現してあるのが書物である。書物は紙のページに記載されている情報を、目次に沿って検索し、閲覧する事が可能である。しかし、目次のページが破り取られたり、汚されるなどして判読出来ないようになってしまうと、読者は記載された情報を探すために、最初のページから記憶を頼りに目的の情報を探すことになる。だが人間の記憶とは曖昧なものであり、往々にして書物に記載された情報の中で迷子になることがある。
これはひとえに、人間の記憶が、幾つかの関連性に基づいて整理されているためである。記憶は、関連する事象同士で影響しあって、しばしば覚えやすい形で改竄される(→記憶の干渉)。この改竄を防止するために編み出されたのが「記憶術」であるが、整理されいつでも閲覧できると思っている情報や記録に対して、これら記憶術を行使する者はいない。結果、記録媒体の整理状況に変化が発生した場合に、そこで記憶と記録の間の連続性や関連性が破壊され、情報を探す際に惑うこととなる。これが書物というミニマムな物に限らず、書架や図書館といった規模の物では、その量に比例して、惑い易さは増大する。
また情報や記録は、整理されて保管される段階において、次第に体系化され、その利便性が人を集め、更に多くの情報や記録を集める傾向がある。この過程においては、情報はその量に比例して整理・分類・管理する労働力を必要とするが、こうして築き上げられた集積情報は、更なる論理体系の発達や、技術上の融合を発生させ、文化の進歩に貢献すると思われる。
その一方で、単に一箇所に集積(広場に山積みになっている書籍を想像されたし)されているだけの情報は、他の情報によって攪乱されており、その情報の有効性は極めて低くなる。更にその集積された情報が細分化された場合(前出の本の山が、全てページごとに解体され、そのページの紙が積み上がってる状況を想像されたし)には、情報の有効性は更に減じ、多くの者にとってはごみ同然の価値となってしまう(→フラグメンテーション)。
[編集] 歴史的現象
歴史上、集積され整理された情報や記録が、散逸してしまってその価値を失った事例は多い。その多くは戦争や政治体制の衰退・崩壊といったもので、情報を管理する者が居なくなった結果、それらは散逸し、それに続いて飛語・流言による迷信や妄想が跋扈し、社会が混乱するのが世の常である。
[編集] アレクサンドリア図書館
情報の散逸現象で、歴史上で最も悲劇的とされるのが、アレクサンドリア図書館の崩壊である。紀元前300年に始まった同図書館は、政治権力の庇護の元、旺盛に書物を収集し、最盛期に於いて、その蔵書は70万巻(当時の書物の大半は手書きの巻物である)を超えたとされる。この時代にあっては驚嘆すべき情報量では在るが、これによって天文学分野では早くも、天体の運行を記録した情報から天体の軌道計算が試みられたり、太陽が作る陰の長さを三角法を使って計算、地球の直径を導き出すという研究が成された。
また天文学のみならず地理学・数学・医学の分野に於いても様々な進歩が見られ、後のヨーロッパ文化形成に多大な影響を与えたヘレニズム文化の中心であったが、放火によると見られる火災で建物が被害を受け、後の略奪によって蔵書は散逸、そのまま行方不明になってしまった。これによって天文学がオカルティズムに吸収されてしまい、その後の占星術発達に伴う迷信の支配する時代が長く続いた事もあって、特に天文学分野では1000~1500年分は進歩が遅れたと見なされている。
[編集] 関連項目
- 情報をより良く整理・蓄積するための工学である。
- 情報の散逸によって知識や技術が一度失われ、その後に再発見されるということがよくあるが、これを認めずに超古代文明等の存在した証拠であると主張する者もいる。