報道の自由
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報道の自由(ほうどうのじゆう)とは、日本では報道機関が様々な表現媒体を用いて国民に情報を伝える自由として表現の自由の一内容として捉えられている。しかし英語圏ではFreedom Of Press、つまりマスコミなどの報道機関の自由となり報道活動だけでなく取材、さらには報道機関を設立する自由も含む自由と捉えられ、アメリカなどではこの場合、表現の自由は憲法で保障されている権利となっているが、取材活動に関しては憲法的に保障された権利ではなく、取材を制限するような法律は合憲との判断が最高裁判所で出されている。議会の証人喚問で、記者や編集者が合法的には得られない政府の情報のソースの身元の証言を拒否した場合に、その記者が場合によっては服役刑に処せられるのもこのためである。勿論、政府の行為そのものが違法である場合などでは「公共の利益」を根拠に、無罪判決を勝ち取った場合が英国でも存在する。
報道の自由に関しては、個人のプライバシー、企業や国家の機密などに関して報道機関の表現の自由がどの程度法的に制限されるべきか、また表現の自由と別の取材活動などの自由・権利をどの範囲で認めるべきかどうかという議論がなされる。
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[編集] 日本における報道の自由
報道機関の自由は報道に関しては、日本国憲法第21条によって表現の自由の表現の自由のうちでも特に重要なものとされている。その理由として、報道機関の活動は国民の「知る権利」を充足させるのに重要な役割を果たすことがあげられる。ただし、取材活動に関してはあくまでも自由権として一般に憲法に保障されているだけである。
[編集] 評価
上記、国境なき記者団の2005年度の報道の自由度のランキングでは、対象となる167ヶ国中、日本は37位であった。これは、記者クラブ制度による取材活動の制限および、報道内容の検閲が批判されているためである。更に2006年度は「ナショナリズムの隆盛が目立つ」との理由も加わり51位となった。2007年には「過激なナショナリストによる報道機関への襲撃の減少が見られる」という理由から37位に戻っている。
[編集] 実名報道
被害者を傷つけていることや無罪を推定されている被疑者・被告人の犯人視につながること、加害者の更生を妨げているという理由で実名報道に対する批判がしばしばなされるが、一方で実名報道の規制は、報道の自由を侵害するという意見も根強い。しかし、過剰な報道はプライバシーの権利を侵害することにもなりかねない。英語圏では未成年が加害者である場合は、その実名報道には法的な規制がかかる。被害者に関しては、未成年であろうと実名報道が行なわれる。ただし先進国全般を見渡せば、アメリカなどの例外を除くと、芸能人や政治家などの著名人でない一般人の実名報道は自粛される傾向にある。一般の市民の生活を著しく損なうような活動をすれば、たとえ表現の自由に守られているとされるマスコミの報道活動をも規制する法律が立法化される可能性が極めて高いためである。
詳しくは実名報道の項を参照。
[編集] 問題となった事件
- 博多駅テレビフィルム提出命令事件
- 少年法による未成年者の事件報道規制
[編集] アメリカ合衆国における報道の自由
アメリカ合衆国においては、アメリカ合衆国憲法修正第1条において言論の自由・表現の自由が保障されており、報道活動の自由はその一環として保障されている。ただし、報道の自由に関して直接憲法上での言及はなく、裁判所の判断においても、報道であることをして特別の保護が与えられているわけではない[1]。また報道機関のもうひとつの主要な活動である取材に関しては、表現の自由の一部ではないとの判例が出ている。
[編集] 報道の自由の程度の評価
国境なき記者団が2005年10月20日に発表した、2005年度の報道の自由度のランキング(Worldwide Press Freedom Index 2005)では、対象となる167ヶ国中、もっとも自由度の高い報道を行っている国として、デンマーク、フィンランド、アイスランドなど7ヶ国で、逆に自由度のない報道を行っているのは、北朝鮮、エリトリアなどである。 中国、ベトナム、中央アジア諸国など旧社会主義陣営や イラン、リビアなど中東諸国が下位にランクされていることが目立つ結果になっている。
2007年5月2日、ニューヨークを本部に置く非営利団体「ジャーナリスト保護委員会」(CPJ)は「過去5年間で報道の自由が最も後退した10カ国」を1位から順にエチオピア、ガンビア、ロシア(11人の記者を相次いで殺したのが理由)、コンゴ民主共和国(旧ザイール)、キューバ、パキスタン、エジプト、アゼルバイジャン、モロッコ、タイ(2006年9月19日のクーデターが理由)と発表した(前回最下位の北朝鮮は対象外)。
[編集] 取材の自由
報道の自由に関連するあるいは一部である自由として、取材の自由という概念が観念されることがある。すなわち、報道を行うためには報道内容について取材することが必要不可欠であり、したがって取材の自由が十分尊重されなければ報道の自由を確立することはできないことに基づく。
取材の自由と関連して取材源秘匿の権利があげられることがある。これは情報提供者に関する情報、あるいは得た情報そのものの開示を強制されれば、報道機関と情報提供者との信頼関係が崩れて正確な情報を得られなくなる恐れがあるためである。この権利がどこまで保障されるかについても議論がある。
[編集] 日本における取材の自由
ただ取材の自由が日本国憲法第21条によって直接に保障されるかどうかは意見が分かれる。報道の自由の中には取材の自由が当然に含まれるとする意見が有力であるが、判例は「憲法第21条の精神に照らし、十分尊重に値する」と述べるにとどまっている。
取材の自由は、取材対象もしくは関係者の権利保護、公正な裁判の維持、国家機密の保持などさまざまな利益と衝突することがある。この場合、取材の自由が制約を受ける可能性も出てくる。
[編集] 問題となった事件
取材源秘匿との関連では、米国の企業が所得隠しを行っていたとされる複数社の報道に対しNHKや読売新聞、共同通信の記者に対して取材源の開示を要求した訴訟のケースでは2006年3月14日の東京地裁判決が読売の報道について取材源を秘匿すべき事情は認められないと判断した一方、NHKの報道については2005年10月11日の新潟地裁・2006年3月17日の東京高裁判決は取材源の秘匿を認め、同年10月3日最高裁判所決定で確定した。
なお、刑事事件については、民訴法とは異なり証言拒絶ができるとされる職業が限定列挙であり、報道関係者は含まれていないので、取材源の秘匿を理由に証言拒絶ができないこととなっている。
[編集] 放送の自由
テレビ、ラジオなど電波メディアによる情報提供の自由を放送の自由とよぶ。広義には有線放送も含まれる。
[編集] 日本における放送の自由
他のメディアとは異なり、電波メディアには電波法や放送法などによってさまざまな規制が課されている。
[編集] 脚注
- ^ 松井茂記『アメリカ憲法入門』第5版 有斐閣 149ページ
[編集] 関連項目