内視鏡
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内視鏡(ないしきょう、英Endoscopy、Endoscope)とは、主に人体内部を観察するための医療機器のこと。
本体に光学系を内蔵し、先端を体内に挿入することによって内部の映像を手元で見ることができる。一般的なものは細長い形状をしているが、カプセル型のものもある。また、観察以外に、ある程度の手術や標本採取ができる性能をもつものもある。
同様の製品は医療分野にとどまらず、直接に観察しにくい構造物の内部の観察用に学術・産業あるいは災害時の被災者発見などに用いられているが、ここでは医療用に限って説明する(一般に「内視鏡」というと医療用のものを意味する)。
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[編集] 歴史
内視鏡の歴史は古代に遡るが、現在の内視鏡につながる機器としては19世紀にボッチーニが開発したLichtleiter(1805年)、デソルモの膀胱鏡(1853年)を初めとする。「Endoscope」の名はデソルモがつけたものである。19世紀には胃鏡も作られ、クスマウルが生きた人体の胃を初めて観察したのは1868年のことであった。これらは硬性鏡であって、胃鏡は大道芸人(剣を呑む芸をする)を対象とした。軟性胃鏡は1932年にシンドラーによって開発された。これは現在の軟性鏡と異なり、多くの鏡を用いた光学系を利用し、照明は先端部の豆電球によった。
1950年10月28日に東京大学の宇治達郎とオリンパス光学工業(現・オリンパス)の杉浦睦夫、深海正治が完成させた「ガストロカメラ」はきわめて小さなカメラ本体及び光源(超小型電球)を軟性管の先端に取り付けたものであった。同年に3人を発明者として「腹腔内臓器撮影用写真機(ガストロカメラ)」の名で特許が出願されている。この開発の経緯は、1981年に吉村昭が小説「光る壁画」として発表している(1980年に読売新聞の朝刊に連載)。現在でも上部消化管内視鏡を総称して俗に「胃カメラ」と呼ぶことがある。
1960年代になると、光ファイバーを利用したファイバースコープが開発され(ハーショヴィッツ他)、医師の目で直接胃の内部を観察することができるようになった。胃ファイバースコープにはカメラが取り付けられるようになり、客観的な検査結果として他の医師にも供覧できるようになったのである。
1970年代にはスチルカメラ付きファイバースコープが広く用いられるようになったが、電子機器の発達に伴い、スチルカメラにビデオカメラを取り付けた機種や、CCDセンサを取り付けた電子内視鏡(ビデオスコープ)、超音波センサを取り付けた超音波内視鏡が登場した。ビデオ装置を用いると、複数の医師やコメディカルスタッフが同時に病変を確認することができ、診断と治療に大いに役立った。また超音波内視鏡は粘膜下病変を明らかにするのに役立った。センシング技術の向上だけでなく、軟性管部の改良(口径の縮小、材質の改善)、内視鏡的処置を行うためのサブルーメン(チャネルと呼ぶ)の追加など、内視鏡を直接治療目的で応用するための改良も行われた。
2000年代になると、イスラエルのギブン・イメージングや、日本のアールエフ、オリンパスがカプセル型の内視鏡の開発を進めた。2007年4月、日本においてもカプセル内視鏡を用いた画像診断システムが承認・実用化された。
[編集] 構造
一般に以下に大別される。直接接眼レンズをのぞいて、あるいはビデオカメラを接続してモニターに映して観察する。光源は体外の制御装置側にあり、光ファイバーで光を導いて先端部から照射するものが一般的である。LEDを内視鏡先端に内蔵したタイプも実用化されつつある。
- 硬性鏡
- 筒の両端にレンズがついたシンプルな構造のもの。膀胱鏡、胸腔鏡、腹腔鏡などがある。
- 軟性鏡(ファイバースコープ、電子内視鏡)
- 柔軟な素材を用いたもの。グラスファイバーを用いたものと、CCDを用いたものとがある。多くの内視鏡は光学系とは別の経路(チャネル)をもっており、局所の洗滌・気体や液体の注入・薬剤散布・吸引・専用デバイスによる処置などが可能である。また手元の操作で先端の向きを自在に変えられるものが多い。
- カプセル型
- カプセル内視鏡と呼ばれ、デジタルカメラと光源、モーターを内蔵した小型カプセル型のもの。患者が飲み込んだ内視鏡が消化器官を撮影し、画像を体外に送信して体外のモニターに映すもの。
[編集] 種類
[編集] 喉頭内視鏡
一般に「喉頭ファイバー」と言われている。一般に耳鼻咽喉科にて鼻腔、咽頭、喉頭、食道を観察する。
※気管挿管の際に用いられる喉頭鏡(Laryngoscope)とは異なる。
[編集] 気管支鏡
詳細は気管支鏡(Bronchoscopy)を参照。一般に呼吸器科にて用いられ、気管および気管支を観察する。
[編集] 上部消化管内視鏡
詳細は上部消化管内視鏡(Esophagogastroduodenoscopy)を参照。かつては胃カメラとも言われた。一般に消化器科にて用いられ、食道、胃、十二指腸までの上部消化管を観察する。
[編集] 小腸内視鏡
詳細はダブルバルーン小腸内視鏡(Double-balloon enteroscopy)を参照。一般に消化器科にて小腸を観察する。
[編集] 大腸内視鏡
詳細は大腸内視鏡(Colonoscopy)を参照。一般に消化器科にて直腸~結腸を観察する。
[編集] カプセル内視鏡
詳細はカプセル内視鏡(Capsule endoscopy)を参照。
[編集] 胸腔鏡
詳細は胸腔鏡(Thoracoscopy)を参照。胸腔内を観察する。肋骨の間を約1cm切開し内視鏡を挿入する。胸腔鏡を用いた肺や縦隔の手術(VATS)は切開創が小さく体への負担が比較的軽いとされる。
[編集] 腹腔鏡
詳細は腹腔鏡(Laparoscopy)を参照。腹腔内を観察する。硬性鏡が使用される。多くの場合はへその横を1~2cmほど切開し内視鏡を挿入する。腹腔内はスペースがないため、気腹(腹腔内にガスを送り込んで腹を膨らませること)が行われる。
[編集] 膀胱鏡
詳細は膀胱鏡(Cystoscopy)を参照。 尿道および膀胱の内腔を観察する。硬性鏡が使用される。尿道口から挿入する。前立腺肥大症や膀胱腫瘍では内視鏡手術が広く普及している(TUR-P、TUR-Bt)。
[編集] 胆道鏡
詳細は胆道鏡(Cholangioscopy)を参照。一般に経皮的と経口的があり、胆管の内腔を観察する。胆道病変に対し行われることがある。
[編集] 関節鏡
詳細は関節鏡(Arthroscopy)を参照。関節腔の観察・処置を行う。
[編集] 血管内視鏡
詳細は血管内視鏡(angioscopy)を参照。冠動脈の観察・処置を行う。冠動脈内病変に対し行われる。
[編集] 内視鏡手術
[編集] 内視鏡手術の利点
内視鏡手術は、一般的に外部から切開し病巣部へ到達するときに、切開部分が従来の開腹手術に比べ小さく、侵襲性の少ないことが利点としてあげられる。このため、従来の外科手術時のように、大掛かりな麻酔やスタッフの拘束がなく、しかも被施術者自身の術後の臥床期間を短縮することができる。こういった事情から、被術者の心理的抵抗を一般に軽減することができるので、近年、多くの外科手術で、普及している。
[編集] 内視鏡手術の問題点
日本で一般に内視鏡手術の普及してきたここ10年の間に、様々な医療事故も発生している。有名な事例では、2003年に東京都葛飾区の東京慈恵会医科大学附属青戸病院でおきた腹腔鏡を使った前立腺がんの切除手術で、患者の男性が死亡したケースがある。これらの問題は、ひとえに、内視鏡手術による手術の術野が、大変、狭いことによるものと考えられている。それゆえに、内視鏡手術を行うケースにおいては、十分な術前の検査と検討が必要であり、内視鏡操作に十分に精通している術者が行うことが必須条件である。また、万一、内視鏡操作中、不具合が生じた場合には、直ちに開腹手術などの従来の手術に切り換える勇気も必要である。
[編集] 医療保険との関連
内視鏡手術は開腹手術ではないと言われることがあるので注意が必要。一般生命保険会社の解釈と旧簡易保険(かんぽ生命で承継)の解釈でも違いがある場合があるので、入院費をもらいそこねないように注意が必要。
[編集] 関連項目
- オリンパス http://www.olympus.co.jp/
- オリンパスメディカルタウン医療従事者専用 http://www.medicaltown.net/
- 株式会社町田製作所 http://www.machida-eds.co.jp/
- ペンタックス http://www.pentax.co.jp/
- フジノン東芝ESシステム http://www.ft-es.co.jp/ - 販売・サービス会社
[編集] 外部リンク
- 内視鏡の歴史
- 内視鏡の適用
- 消化管内視鏡を育てた人々
- RF Systems Lab. - カプセル型内視鏡 NORIKA3/SAYAKAの開発元
- アールエフ社長インタビュー(イノベーティブワン)
- 内視鏡の適応拡大と進化を目指すカプセル内視鏡と周辺技術を開発 - オリンパスでも開発中
- 日本心臓血管内視鏡学会
- 財団法人内視鏡医学研究振興財団
- 杉浦研究所 - ガストロカメラ開発者の杉浦氏がオリンパスを退社して設立
- 株式会社町田製作所