パイオニア・アノマリー
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パイオニア・アノマリー (パイオニア異常、Pioneer anomaly) とは、太陽系外に脱出した惑星探査機の実際の軌道と理論から予測される軌道との間に食い違いが見出された問題を示す。 パイオニア効果、パイオニア減速問題などとも言う。 この名前は、この現象が惑星探査機パイオニア 10 号と11 号ではじめて報告されたことにちなんでいる。 現在のところ、この現象に対する一般的に受け入れられた説明は存在しておらず、その原因をめぐって、単なるガスもれから新しい力学理論までさまざまな可能性が検討されている。
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[編集] 問題の概要
この現象がジェット推進研究所のジョン・アンダーソンらによって1998年にはじめて報告されたのは太陽系の脱出速度を獲得した最初の 2 つの探査機であるパイオニア 10 号と 11 号に関してであった。 1980年ごろ探査機の太陽からの距離が 20 天文単位 (およそ天王星の軌道) を越えたあたりより、これらの探査機が送信する電波のドップラー効果などを観測することによって得られる速度と距離に関する情報の内に、非常に小さくはあるが、探査機に働くと予測されるすべての力を考慮したとしても無視できないズレが見出された。
探査機に働く重力以外の力として代表的なものは太陽からの光による放射圧である。 これはパイオニアの場合、20 天文単位の距離で太陽の反対側へ向かう 5 × 10-10 m/s2 以下の加速となり、遠ざかるにしたがい逆二乗で減少するものと期待される。 アンダーソンらはパイオニアにこれよりも大きく向きが反対の加速があることを検出した。 パイオニア 10 号はおうし座の方向へ、11 号はわし座の方向へ向かっておりその進行方向は大きく異なっているため、単一の未知の天体の重力によるとするような簡単な説明はできない。 その後の観測によって、この食い違いは、どちらの探査機に対してもほぼ一定で太陽の方向を向いた (8.74 ± 1.33) × 10-10 m/s2 の大きさの加速があるとして説明されることが見出された。 なお、2003年までにはこれらの探査機は交信を絶ったため、現在はもはや新しい観測データは得られていないが、1987年以前のデータを用いた検討が継続している。
同様に太陽系の脱出軌道にある 2 つのヴォイジャー探査機はパイオニア探査機とは異なり 3 軸制御を用い定常的なガス噴射で安定な姿勢を保っているため、この効果を正確に測定するのは困難である。 パイオニアと同様、スピン制御を用いているガリレオ探査機とユリシーズ探査機から得られたデータは同様の食い違いを示しているが、これらは太陽系を脱出するものではなく、太陽までの相対距離の近さから確固たる結論は導かれていない。 またカッシーニ探査機のデータからも今のところ確定的な帰結は導かれていない。 冥王星の観測をめざして2006年に打ち上げられたニュー・ホライズンズ探査機はスピン制御を用いており、今後パイオニア・アノマリーの測定に用いる可能性が期待されている。
[編集] 検討されている説明
この問題の原因として以下のようなものが候補として検討されてきた。
- 観測誤差。
- カイパーベルト天体や暗黒物質など未知の対象が及ぼす重力。
- 惑星間に存在するチリや太陽風、宇宙線などによる摩擦。
- 探査機の原子力電池から洩れ出すヘリウムなどのガスによる推力。
- 太陽光、探査機の無線通信、原子力電池の熱などによる放射圧。
- 探査機が帯電したことによる電磁気力。
- 宇宙全体が作る重力場と膨張によるその変化がもたらす原子時と暦表時の間の時間のずれ。
さらに、これが既存の物理法則では説明できない新たな現象である可能性を含めて、以下のような非標準的理論のもとでの説明も試みられている。
ロシアジャーナル C ニュース (2005)[1]は、これら 2 つの候補、 MOND およびヨハン・マルリェーの SEC が最も妥当な説明だとしている。
[編集] 参照
- ^ ロシアの C-news パイオニアの異常に関する記事 (2005, ロシア語)
[編集] 参考文献
- Anderson, J. et al. "The Strange Acceleration of Pioneer 10 and 11", The Planetary Report, Nov/Dec 2001
- Masreliez C. J., [1] The Pioneer Anomaly. (2005) Ap&SS, v. 299, no. 1, pp. 83-108