トロール船
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トロール船(トロールせん)とはトロール網を使用した漁業のための漁船のこと。トロール網は漁網の一種で、海底や調定された深度をさらうものである。なお、トロール船の呼称は、トロール船とよく似た形状のプレジャーボートにも使われる。
近代的な「岩飛び式」のトロール網は、網がでこぼこした海底で破れないように、頑丈なゴム製の車輪を付けている。水深55-75mの海中で操業するが、近代的なトロール船は水深900m程度の海域で操業することも多い。実験的な操業が、それ以上の水深で行われたこともある。トロール船には冷蔵設備が設けられており、各船ごとに大きさは異なるが、これがいっぱいになるまで数週間にわたって操業する船もある。
中世において、デヴォン州のブリックスハムはイングランド南西部で最大の漁港であり、一時イングランド全体で最大の漁港であった。このブリックスハムはトロール船が発明された港としても有名である。19世紀にブリックスハムで発明されたトロール船は世界中で模倣され、各地の漁船団に影響を与えた。ブリックスハムの特徴的なトロール船は「Torbay Lass」(訳注:トーベイ(en)の娘っ子というほどの意か)としてよく知られ、その姿に触発された「レッドセイル・イン・サンセット」(en)という曲もある。ブリックスハムは「深海漁師の母」としても知られ、そのトロール船は沿岸中で操業してハル、グリムズビー、ローストフの水産業の発展に寄与した。1890年代の同地にはおよそ300隻のトロール船があって、それらの大部分は船主が船長を兼ねていた。
イングランドにおける最大のトロール漁港は、北東部にある前述のヨークシャー州のハル(キングストン・アポン・ハルとも)である。1970年代からはスコットランド北東のピーターヘッドが ヨーロッパ最大のトロール漁港となっていた。1980年代の最盛期には、500隻のトロール船がピーターヘッドを母港とし、それぞれが一週間の漁労を行っていた。しかし、ここ数十年は乱獲を防ぐために漁船数と水揚げ量に制限が加えられたため、ピーターヘッドはかなり衰退してしまった。
第一次世界大戦および第二次世界大戦中、多くのトロール船が徴用され掃海艇として使用された。これは掃海具を海中に投入し曳航するという掃海活動がトロール船の漁法に似ており、トロール船の設備が転用出来るほか、乗組員もある程度作業に馴れていたからである。
冷戦期には、いくつかの国がトロール船に電子機器を積んでスパイ船に仕立て、敵国の電子情報の収集(シギント)にあたった。