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スペクトル密度 - Wikipedia

スペクトル密度

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

スペクトル密度: Spectral density)とは、定常過程に関する周波数値の正実数の関数または時間に関する決定的な関数である。パワースペクトル密度(英: Power spectral density)、エネルギースペクトル密度(英: Energy spectral density)とも。単に信号のスペクトルと言ったとき、スペクトル密度を指すこともある。直観的には、スペクトル密度は確率過程の周波数要素を捉えるもので、周期性を識別するのを助ける。

目次

[編集] 概要

物理学の観点では、信号とは波動であり、電磁波音波がある。波動のスペクトル密度に適当な係数をかけると、その波動で運ばれる周波数当たりのになる。このため、それを信号の「パワースペクトル密度」(PSD) あるいは「スペクトルパワー分布」(SPD)などと呼ぶ。パワースペクトル密度の単位はヘルツ当たりのワット (W/Hz) か、ナノメートル当たりのワット (W/nm) で表される(後者は周波数の代わりに波長を用いる)。

信号がどのような物理的次元を伝わるのかは問題ではないが、以下の議論では時間と共に変化する信号について解説する。

[編集] 定義

[編集] エネルギースペクトル密度

エネルギースペクトル密度 (ESD) は、信号や時系列のエネルギーが周波数についてどのように分布するかを示す。f(t) が有限エネルギー信号であるとき、その信号のスペクトル密度 Φ(ω) は、信号をフーリエ変換したときの大きさの二乗である(ここで、エネルギーは信号の二乗を積分したものであり、その信号を電圧として1Ωの負荷に加えたときの物理エネルギーに等しい)。

\Phi(\omega)=\left|\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int_{-\infty}^\infty f(t)e^{-i\omega t}\,dt\right|^2 = \frac{F(\omega)F^*(\omega)}{2\pi}

ここで ω角周波数(周波数に をかけたもの)であり、F(ω)f(t) の連続フーリエ変換、F * (ω) はその複素共役である。

信号が離散的で、値が fn で表されるとした場合、無限に続くとするならエネルギースペクトル密度は次のように得られる。

\Phi(\omega)=\left|\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\sum_{n=-\infty}^\infty f_n e^{-i\omega n}\right|^2=\frac{F(\omega)F^*(\omega)}{2\pi}

ここで、F(ω)fn離散時間フーリエ変換である。

定義された値が有限個しかない場合、本来エネルギースペクトル密度は定義されないが、周期的なものであるとすれば離散フーリエ変換を使って離散スペクトルを作成できるし、値がない部分をゼロで補って、無限の場合と同様に計算可能である。

連続スペクトル密度と離散スペクトル密度は同じ記号で表されることが多いが、それらの次元や単位は異なる。連続の場合、時間の二乗が関わっているが、離散の場合はそうではない。これらを同じ単位にするには、測定間隔を単位時間とすればよい。

いずれにしても 1 / 2π という係数は絶対的なものではなく、フーリエ変換での正規化定数の定義に依存する。

[編集] パワースペクトル密度

上述のエネルギースペクトル密度の定義は、信号のフーリエ変換を必要としており、信号は二乗可積分あるいは二乗可加算である。より扱いやすい定義としてパワースペクトル密度 (PSD) があり、信号や時系列のが周波数についてどのように分布しているかを示す。ここでいう力とは具体的な物理的力であり、抽象的な信号についてもそれを電圧の波形と見て、1Ωの負荷にそれをかけたときの電力として信号の二乗の値と定義される。このとき、ある一瞬の力は次のように与えられる。


P = s(t)^2\ .

力の平均がゼロでない信号は二乗可積分ではないので、この場合のフーリエ変換は存在しない。幸いにもウィーナー・ヒンチンの定理が単純な代替手法を提供する。その信号が定常過程として扱える場合、PSD は信号の自己相関 R(τ) のフーリエ変換となる。

これにより、次の方程式が得られる。


S(f)=\int_{-\infty}^{\infty}\,R(\tau)\,e^{-2\,\pi\,i\,f\,\tau}\,d \tau.

ある周波数帯域における信号の力は、正の周波数と負の周波数について積分することで計算できる。


P=\int_{F_1}^{F_2}\,S(f)\,d f + \int_{-F_2}^{-F_1}\,S(f)\,d f.

信号のパワースペクトル密度は、その信号が広義の定常過程であるときだけ存在する。信号が定常的でない場合、その自己相関関数は2つの変数の関数となるため、PSD は存在しないが、似たような技法で時と共に変化するスペクトル密度の近似を求めることができる。

[編集] 特性

  • f(t) のスペクトル密度と f(t)自己相関は、フーリエ変換対を形成する(PSD と ESD とで、自己相関関数の異なる定義が使われる)。
  • スペクトル密度の近似を求めるのに一般にフーリエ変換が使われるが、ウェルチ法や最大エントロピー原理といった他の技法を使うこともできる。
  • フーリエ解析の1つの結果としてパーセバルの定理がある。それによると、エネルギースペクトル密度の曲線の面積は、信号の振幅の自乗すなわち全エネルギーの面積に等しい。
\int_{-\infty}^\infty \left| f(t) \right|^2\, dt = \int_{-\infty}^\infty \Phi(\omega)\, d\omega.
この定理は離散的な場合でも成り立つ。同様にパワースペクトル密度の積分したものは、それに対応する信号の全エネルギーの平均に等しい(それはまた、遅延ゼロでの自己相関関数である)。

[編集] 関連する概念

  • 周波数分布を示すグラフは、ほとんどの場合スペクトル密度を表している。完全な周波数スペクトルを描く場合、振幅と周波数のグラフ(スペクトル密度に相当)と位相と周波数のグラフ(スペクトル密度以外の情報)で表される。信号 f(t) の波形は、完全な周波数スペクトルがあれば再現できる。信号 f(t) をスペクトル密度情報だけから再現することはできない。
  • スペクトル密度関数の中点を、その信号のスペクトル重心と呼ぶ。すなわち、その周波数を分割点として、上と下でエネルギーが拮抗する。
  • スペクトル密度は周波数の関数であって、時間の関数ではない。しかし、長い信号の非常に短い期間のスペクトル密度を計算することもでき、それらを時系列に並べることもできる。そのようなグラフをスペクトログラムと呼ぶ。これは、短時間フーリエ変換ウェーブレット変換などのスペクトル解析技法の基本である。

[編集] 応用

[編集] 電子工学

信号のパワースペクトル密度は電子工学の基本概念の1つであり、特に電子通信システム(無線、レーダーなど)で重要である。電気信号のパワースペクトルを測定して表示する機器としてスペクトラムアナライザがある。

スペクトラムアナライザは、入力信号の短時間フーリエ変換 (STFT)の絶対値を測るのが基本である。解析対象の信号が定常的ならば、STFT はパワースペクトル密度のよい近似となる。

[編集] 測色法

のスペクトルとは、色に対応した各周波数で運ばれる力を示したものである。光スペクトルは周波数よりも波長で表されることが多く、厳密にはスペクトル密度ではない。分光測色器によっては、1から2ナノメートル単位の分解能を持つ。値は他の用途に使われたり、光源のスペクトル属性を示すために図示されたりする。これを使って光源の特性を解析する。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク


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