ジェット燃料
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ジェット燃料(英:Jet fuel)とはジェットエンジン航空機のために設計された燃料の一種である。
JET A-1 | |
引火点: | 38 °C (100 °F) |
自己発火温度: | 210 °C (410 °F) |
氷点: | −47 °C (−40 °C for JET A) |
Open air burning temperatures: | 260–315 °C (500–599 °F) |
Maximum burning temperature: | 980 °C (1796 °F) |
密度 at 15 °C (60 °F): | 0.775–0.840 kg/L |
目次 |
[編集] 概要
ジェット燃料はケロシン系とワイドカット系に大別される。
最も一般的なケロシン系の燃料は JET A-1(別名:AVTUR)である。市販されている灯油とほぼ同じような主成分を持つが、要求される環境条件が厳しいため添加剤や不純物に関する規格が民間用の灯油に比べて厳しい。そのため、値段は市販のガソリンよりも高価である。
最も一般的ワイドカット系の燃料は JET B である。 JET Bは 比重が軽く、低温・高空での着火性が良いことが特徴である。そのため極低温地域で使用されている。
ジェット燃料は燃料として「発熱量が高い」「燃焼性が良い」「揮発性が高い」「腐食性がない」「貯蔵安定性が良い」「熱安定が大きい」と言った条件が要求される。さらに、高度 1 万メートルの低い気圧で蒸発しないことや、マイナス 50 度でも凍結しないことが要求される、凍結しないことに関しては成分のごく一部分でも凍結してしまうと燃料配管が詰ったりするので、水分などの凍結しやすい成分が取り除かれていることを要求される。
ジェット燃料の単位はガロン、リットル(体積)ではなくポンド、キログラム(重量)で計算される。 これは外気温の影響によって燃料の体積が変化するため、アラスカとハワイのように気温差が60度以上になるような状況では体積で計算すると10%近くも違ってしまうためである。
航空機の単位は長年アメリカ基準の重量ポンドで計算されてきたが、近年ではメートル法への切り替えが進んでいる。 この切り替え時に単位の変換ミスによって、燃料を20,400キログラム搭載するところを20,160 ポンド(9,144 キログラム)しか搭載しなかったために、燃料切れで不時着事故が起きたことがある。
- 事故の詳細はエア・カナダ143便滑空事故を参照
アメリカ軍では未だに重量ポンド方式で運用されている。
ジェット燃料は国連番号1863(タービンエンジン用航空燃料)第3分類 引火性液体 包装等級Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの危険物に分類されている。
[編集] 添加剤
- 酸化防止剤
- アルキル化されたフェノール類にによって酸化を防止する。AO-30、AO-31 または AO-37
- 帯電防止剤
- 静電気を消して火花が出るのを防止するためにジノニルナフチルスルホン酸を活性成分とするデュポン社製の STADIS-450 が添加されている。
- 腐食抑制剤
- 燃料がタンクや配管を腐食させない為に添加される、一般では DCI-4A が軍用では DCI-6A が使用されている。
- 氷結防止剤
- 燃料に含まれている微量の水が凍結して配管を塞ぐのを防止するために添加される。
- JP-5 用 ジエチレングリコールモノメチルエーテル
- JP-4 用 エチレングリコールモノメチルエーテル(商品名:ハイソルブ MC)
- 殺生物剤
- 燃料系の内部で細菌などが繁殖しないようにするために添加される。
[編集] Jet A
Jet A は 1950年代からアメリカの標準的なジェット燃料タイプであった。 氷点が JET A-1 のマイナス 47 度に対してマイナス 40 度であることを除けばほぼ同じ性質である。
[編集] 軍用ジェット燃料
- JP-1
- 1944年に制定された初期のジェット燃料である。現在は使用されていない。
- JP-4
- 1951年に制定された。1951~1995年代の主要な米空軍ジェット機の燃料として使用された。
- 航空自衛隊、陸上自衛隊では戦闘機、ヘリコプター等で現在も使用されている。
- MIL規格:MIL-J-5624E
- JP-5
- 1952年に制定された。発火点が高く火災への安全性を要求される空母艦載機のジェット燃料として使用されている。
- MIL規格:MIL-PRF-5624S
- JP-6
- XB-70超音速重爆撃機専用燃料。
- JP-7
- SR-71ブラックバード専用燃料。
- 詳細はJP-7を参照。
- JP-8
- 2008年現在の空・海軍統合ジェット燃料。
- 詳細はJP-8を参照。
- JPTS
- U-2 (偵察機)専用燃料
- 超高高度用として非常に高い安定性を持っている。
- U-2 に燃料を入れるためだけに年間 1,000万ドルの維持費をかけてアメリカ合衆国の 2 つの精油所でのみ生産されており、1 ガロンあたりの値段は JP-8 の 3 倍以上と言われている。
[編集] 税金
日本ではジェット燃料に対して航空機燃料税が掛かる。ジェット燃料購入時に消費税のみを支払い、給油した航空機の所有者又は使用者が後日申告により納付する仕組みになっている。このため、ジェット燃料の購入価格は購入時に税金を加算されている灯油より安く見える。