カロリック説
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カロリック説(Caloric theory)とは、物体の温度変化をカロリック(熱素、ねつそ)という物質の移動により説明する学説。日本では熱素説とも呼ばれる。
[編集] 概要
物体の温度が変わるのは熱の出入りによるのであろうとする考えは古くからあったが、熱の正体はわからなかった。18世紀初頭になって、カロリック(熱素)という目に見えず重さのない熱の流体があり、これが流れ込んだ物体は温度が上がり、流れ出して減れば冷える、とするカロリック説が唱えられた。カロリックはあらゆる物質の隙間にしみわたり、温度の高い方から低い方に流れ、摩擦や打撃などの力が加わることによって押し出されるものとされた。近代初頭、たとえばアントワーヌ・ラヴォアジエやジョン・ドルトンも、熱を物質(あるいは元素・原子)として考えていた。
[編集] カロリック説の否定
18世紀末、アメリカ人ルムフォードは、大砲の砲身を造る際に大量の熱が出る現象から、摩擦熱を研究し、熱は運動である、との説を発表した。ほぼ同じ頃、イギリス人のデービーも、氷を摩擦すると熱が発生して溶解する事を発見している。19世紀にはマイヤー・ジュール・ヘルムホルツらによって、熱はエネルギーである事やその保存法則が明らかになった。これらの業績によってカロリック説は否定された。その後、熱が分子の運動であることが分かり、熱力学の台頭とともに消滅した。