アウトサイダー・アート
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アウトサイダー・アート(英:outsider art) とは、フランスの画家ジャン・デュビュッフェがつくったフランス語「アール・ブリュット(Art Brut)」を、イギリスの著述家ロジャー・カーディナルが英語表現に訳し替えたものであり、その意味は、特に芸術の伝統的な訓練を受けていなくて、名声を目指すでもなく、既成の芸術の流派や傾向・モードに一切とらわれることなく自然に表現したという作品のことをいう。特に、子どもや、正式な美術教育を受けずに発表する当てもないまま独自に作品を制作しつづけている者などの芸術も含む。なお、デュビュッフェの作品をアール・ブリュットに含める場合もある。
デュビュッフェが1949年に開催した「文化的芸術よりも、生(き)の芸術を」のパンフレットには、次のように書かれている。 「アール・ブリュット(生の芸術)は、芸術的訓練や芸術家として受け入れた知識に汚されていない、古典芸術や流行のパターンを借りるのでない、創造性の源泉からほとばしる真に自発的な表現」
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[編集] 評価
デュビュッフェ自身は知的障害者が描いたものとは一切言っていないが、そういう障害者の作品を指していうことがままある。 一般にアウトサイダーアートは精神障害者の描いた絵画と思われがちだが、必ずしもそうではない。
とかく障害者を社会の枠外に置きたがる風潮のなかで、そうした人たちに対して「アウトサイダー」という言い方をする場合、差別的という非難をされてもしかたがない。アウトサイダー・アートを安直に精神障害者のアートと結びつけることも好ましくない。その代わり今日では、そういうさまざまな障害を持った人たちの作品を「エイブルアート」「ワンダー・アート」「ボーダーレス・アート」という呼称で、社会につながりを持つための手がかりとして支援しようとする動きがある。日本では、トヨタ自動車などがその最大のスポンサーとして活動している。
ただし、精神病院内におけるアートセラピーという背景事情があり、作者の多くが「結果的に」精神障害者だったことは事実として認めなければならない。
なお、アウトサイダー・アートの評価であるが、いわばこちら側の視点であちら側の「芸術」を評価しているという構造自体がおかしい、と現在の「評価方法」の根本に疑問を呈する論者もいる(アウトサイダー・アートの価値自体を認めないという立場とは異なる)。これはプリミティブ・アートに対する西欧(文明)からの評価に対する批判と同じ視点である。
[編集] 各国での紹介
日本においては、1993年に世田谷美術館における「パラレル・ヴィジョン」という企画によって、本格的に紹介されている。また、デュビュッフェはこれらの作品を収集し、このコレクションは現在スイス・ローザンヌ市で「アール・ブリュット・コレクション」として所蔵されている。
また、オーストリアのウイーン郊外にあるマリア・グギング国立精神病院内のグギング芸術家の家は、入院患者のうち絵画の才能のある人たちが居住して創作活動を行っており、アウトサイダー・アートの拠点となっている。
2007年には日本各地でアール・ブリュット展が、2008年にはスイスで日本のアール・ブリュット展が行われる予定である。
[編集] 参考文献
- モーリス・タックマン、キャロル・S.エリエル 『パラレル・ヴィジョン―20世紀美術とアウトサイダー・アート』 淡交社、1993年。
- 『アウトサイダー・アート』 求龍堂、2000年。
- 服部正 『アウトサイダー・アート』 光文社新書、2003年。
[編集] 関連項目
- 美術
- 素朴派(ナイーフ・アート、ナイーブ・アート)
- プリミティブ・アート(プリミティヴィズム・未開芸術)
- ヘンリー・ダーガー
- アドルフ・ヴェルフリ
- マッジ・ギル
- アレクサンドル・ロバノフ
- フリードリヒ・シュレーダー・ゾンネンシュターン