ただし書き操作
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ただし書き操作(ただしがきそうさ)は、洪水調節を行うダムにおいて、想定された計画洪水量を超える洪水が発生し、このままではダム水位がサーチャージ水位(洪水時にダムが洪水調節をして貯留する際の最高水位)を越えると予想されるときに行われるダム操作である。各ダムの操作規則において通常「ただし、気象、水象その他の状況により特に必要と認める場合」として規定されているため、一般に「ただし書き操作」と呼ばれている。
[編集] 操作の手順
ただし書き操作に至る手順の一例を示す。
- 洪水調節を行っている際に、ダム水位が近くサーチャージ水位(洪水時満水位)に到達することが見込まれる状態(一般に、ダム水位がサーチャージ水位の70~80%に達し、流入量が放流量を上回りつづけている状態)になったことを確認する。
- 関係機関(自治体や水防組織など)および住民に、ただし書き操作を行う可能性があることを予告する。
- ダム管理事務所から管理者(都道府県営ダムであれば都道府県知事(実際には土木部長))に対し、ただし書き操作を行ってよいかどうかの伺いを行い、管理者の承認を得る。
- 関係機関および住民に、ダム水位がただし書き操作開始水位(洪水調節容量の8割程度に相当する水位)に到達した際にはただし書き操作を開始する旨の通知を行う。
- ただし書き操作に移行する。放流量を洪水調節時の放流量から、流入量を上回らない量まで次第に増加させ(ダム水位はサーチャージ水位近くまで上昇する)、以後は流入量と同量の放流量を保つ。(ただし書き操作開始水位まで到達しなければ、ただし書き操作に移行しない場合もある)
- 流入量が下がりはじめ、流入量(=放流量)が洪水調節時の放流量にまで下がったら、洪水調節後におけるダム水位の低下の操作に準じた放流に移行する。(ただし書き操作終了)
[編集] 問題点など
原理的には、ダムが存在せず、洪水がそのまま堰き止められずに下流に流れていく状態に持って行く。つまり、洪水が100流れ込んでいるときに、ダム放流の量を100にする操作である。
この操作において放流する量は流入量を上回らないようにすることになっているので、この操作は、ダムの放流によって下流の洪水を増幅させるものではないが、ダムが洪水調節をすることを前提に河川整備されている場合には、ダムが無い状態での洪水を受けたことになるので、堤防が切れたり浸水する可能性が高くなる。さらに、それまで洪水調節により流入量より少ない量での放流を続けていた状態から流入量と同量の放流量まで増加させる必要があることから、ただし書き操作開始前後で放流量が急増する。このことから、ただし書き操作を行うことが住民等に正しく告知されなければ事故の危険性も高くなる。
しかしながら、それでもダムが無い時と異なり、洪水の来襲の予測を立てられ、来襲までの時間が稼げるので、その間に河川管理者は下流住民に対して迅速な避難誘導、逆流による氾濫を防ぐために樋門を閉じるなどの仕事をすることができる。
なお、逆に洪水調節において下流に一切放流しない放流0トン操作の場合(つまりダムで流入量を全てカット)も、「ただし書き操作」として運用することがある。また、ただし書き操作を行うような大洪水は、多くのダムでは100年から200年に一度程度だといわれている。逆に言えば、頻繁に(数年おきに)ただし書き操作が行われる状態であれば、ダムの計画貯水量の設定が適切ではない可能性が高く、治水計画の抜本的な見直しを迫られることになる。
[編集] ゲートレスダムにおける非常用洪水吐からの越流
放流ゲートを持たず自然調節方式による洪水調節を行うゲートレスダムにおいては、放流操作というものが存在しないため、ただし書き操作も発生しない。しかし、想定された計画洪水量を超える洪水が発生し、ダム水位がサーチャージ水位を越えたときは、非常用洪水吐(ダム堤体のほぼ全体)からの越流が始まり、越流量はそれまでの量から流入量と同量まで急激に増加するため、下流住民に対してはゲートダムのただし書き操作と同様の危険が発生することになる。そのため、関係機関および住民には、非常用洪水吐からの越流の可能性の予告や通知を、ただし書き操作の場合と同様に行う。