ACT (キー配列)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ACT(アクト)は、日本語入力を行うために使用する、ローマ字入力用入力法の一つ。基本となる配列はドヴォラック配列であり、省入力化規則はAZIKの考え方を用いている。
目次 |
[編集] 成立の背景
標準的なけん盤配列を「少しの改定のみで最適化する」試みを続ける木村は、かつてQWERTY配列を最適化するためのAZIKを考案し実践していた。この過程で、AZIKのやり方をドヴォラック配列(Dvorak Simplified Keyboard)へも適用できることに気づいたことが、ACTの原点である。
ドヴォラック配列は、日本語入力用に作成されたSKY配列やM式と同様に、母音が片方の手(ドヴォラック配列では左手)に集中して割り当てられている。母音と子音を交互に使用することが多いローマ字入力を行う場合、打鍵するべきキーも左右の手に振り分けてあるほうが打ちやすいと考えられる。
ところが、ドヴォラック配列は日本語入力用に作成されたわけではないため、そのまま日本語入力用として使うには使いづらい。子音であり拗音でも使用する「Y」と、おなじく子音である「K」が左手にあり、これらに続けて同じ手の母音を打つのは困難である。これらの問題に対して、Aki:zは「Y」の代わりに代替拗音キーを使用する提案を公開し、増田は「K」の代わりに「C」キーを使用する提案を公開している。これらをふまえて、ドヴォラック配列の特性を生かした日本語入力法を作成することとなった。
[編集] 「ACT」という名前の由来
Qwerty配列で「AZIK」と打鍵するには、ホームポジションに指を置いた状態から「左手小指中段→左手小指下段→右手中指上段→右手中指中段」を順に打鍵する。同じ操作をドヴォラック配列で行うと「A;CT」という文字列が得られることから、「ACT」と命名とした。
[編集] この入力法を実現させるための方法
ACTの基本となるDSK配列は、デバイスドライバなどで実装する。実装したDSK配列をACTにする為には、日本語入力システムが持つローマ字変換規則などを定義し直す事により実装する。詳しくは文末リンクを参照のこと。
[編集] ACTの「お約束」
ACTはローマ字入力を基礎としているが、拡張を行うための定義を確保するために、いくつかの規則がローマ字入力規則のJIS X 4063:2000に合致していない。これらの制限とACTの規則をまとめて列記すると、次の差異がある。
- 子音Kキーの代わりにCキーを用いる。
- 捨て仮名の「っ(ltu/xtu)」は、左手小指上段にある専用キー「'」を用いる。ACTでは、撥音・母音拡張のみの場合は子音を重ねても「っ」を入力できるが、より深い定義をすると子音重ねによる「っ」を使うことができないために用意されている定義である。
-
- 紀要文献では右手小指上段にあるキー「L」も用いることとされ、他の捨て仮名は小指外方にあるShiftキーを用いる設計であった。
- 「ん(Nn)」は必ず「N」キーを2回打鍵する。あるいは、左手下段にある撥音拡張キーを用いて一纏めに入力することができる。
- 拗音で用いる「Y」の入力には、けん盤上の「Y」キーを用いることができる。ただし前述の通り、それに続く母音を打ちやすくないため、代わりに子音キーと同じ段に拗音化キーが来るよう設定している。拗音化キーは人差し指と中指の間に境界をおいて設定され、
中指・薬指・小指位置にある子音キーを押した場合の拗音化キーは子音キーと同じ段の人差し指に、
人差し指位置にある子音キーを押した場合の拗音化キーは子音キーと同じ段の薬指に当たる位置にある。左手人差し指で操作する「P」に限っては、右手中段にある薬指を拗音化キーとしている。これらの規則はローマ字綴りとして見ると奇異に写るが、「打ちやすい運指ほど覚えやすい」という経験に基づくアプローチである。 - 左手中段に5つ並んだ母音キー(a/o/e/u/i)に対し、上段には(2打鍵目以降でのみ有効な)母音拡張キー(ai/ou/ei/uu)がある。また下段には撥音拡張キー(ann/onn/enn/unn/inn)がある。
- 拗音と一部の母音拡張(uu/ou)は併用されやすいため、これらはより短縮して打鍵できる様にしている。
子音キーを押したあとの「yuu」キーは子音キーと同じ段の中指に当たる位置に、
子音キーを押したあとの「you」キーは子音キーと同じ段の小指に当たる位置に、それぞれ設定している。一部の外来語にのみ出現すると思われる綴りについては、末尾の「U」を「-」に置き換えているものもある。 - 拗音と「つ」または「く」は併用されやすいため、これらはより短縮して打鍵できる様にしている。
子音キーに続けて拗音化キーを押したあとの「utu」キーは子音キーと同じ段の中指(右手中段中指がTなので)に当たる位置に、
子音キーに続けて拗音化キーを押したあとの「oku」キーは子音キーと同じ段の薬指(左手中段薬指がOなので)に当たる位置に、
子音キーに続けて拗音化キーを押したあとの「aku」キーは子音キーと同じ段の小指(左手中段小指がAなので)に当たる位置に、それぞれ設定している。 - 頻出文字列は、特殊拡張としてローマ字入力では通常用いない「子音キー同士の2打鍵」に割り当てている。「です(DS)」「ます(MS)」などが主な割り当てであり、第1打鍵目には文字列の音を連想させるキーを割り当てている。AZIKの文献では特殊拡張を音声連想に頼ることの問題点も指摘されていて、似たような出現頻度を持つ複数のかなのうち、どれを頻出文字列としてキーに割り当てたのかが定かではなくなる場合があるとされている。これは「です」「ます」などのように突出した出現頻度を持つかなではなく、「から」「くる」などのように頻度が似た文字列を定義した場合に発生しやすい。なお、同じく特殊拡張を採用しているAZIKでも、またACTでも、特殊拡張は必須ではない。この点については次節で述べる。また、公式サイトの記述と本記事(紀要文献を根拠とするもの)には差異があり、その理由については公式サイトを参照されたい。
[編集] ユーザーによる選択の余地
打鍵数を削減するには撥音・母音拡張を導入することが望ましい。一方で、左手の上下動を減らすためには撥音・母音拡張の両方もしくは片方を使わないことが望ましい。これらは必ず使用しなければならないというわけではなく、どういう打鍵を望むかというユーザーの考え次第で適宜選択すればよい。文献では、ドヴォラック標準・子音キーKの代わりに子音キーCを用いる拡張ドヴォラック・拗音規則のみのACT1・ACT1に撥音と母音拡張を行ったACT2・ACT2に頻出拗音拡張を行ったACT3・省略打鍵を全て有効にしたACT4についての測定結果を示している。
[編集] 入力規則
入力方式を定義するための詳細な規則については、公式サイトを参照されたい。ここでは、指の動きをイメージしやすくするために、ストローク表の体裁を公式サイト・公式文献とは若干異なるフォーマットにしている。
[編集] ACTの基本配列
- 枠内の1段目は1打鍵目、2段目は2打鍵目、3段目は3打鍵目を示す。
(1打鍵目と2打鍵目以降で割り当てが変わるものは、2打鍵目以降を括弧でくくった)
小指 | 薬指 | 中指 | 人差し指 | 伸ばす | 伸ばす | 人差し指 | 中指 | 薬指 | 小指 | 小指伸ばす | |
LTu (ai) (ai) |
、 (ou) (ou) |
。 (ei) (ei) |
P (uu) (uu) |
Y y |
F |
G (y) |
C (yuu) (utu) |
R (y) (oku) |
L (you) (aku) |
右手の2~3打目は同 段子音キーに続き打 鍵する場合のみ有効 |
|
a a a |
o o o |
e e e |
u u u |
i i i |
D |
H (y) |
T (yuu) (utu) |
N (y) (oku) |
S (you) (aku) |
ー(長音) - |
右手の2~3打目は同 段子音キーに続き打 鍵する場合のみ有効 |
ann ann ann |
onn onn onn |
enn enn enn |
unn unn unn |
inn inn inn |
B |
M (y) |
W (yuu) (utu) |
V (y) (oku) |
Z (you) (aku) |
右手の2~3打目は同 段子音キーに続き打 鍵する場合のみ有効 |
|
「P」の拗音化は、右手中段 (拗音化は薬指)を用いる。 |
2打目の(y)は同段中指 ~小指の打鍵後に有効 |
2打目の(y)は同段人 差し指の打鍵後に有効 |
【打鍵例】「ちゃくしょく」は[T(子音T)][H(同段拗音化y)][S(同段aku)][S(子音S)][H(同段拗音化y)][N(同段oku)]と打鍵する。
[編集] ACTの省略打ち配列
灰色付きキー列を1打鍵目に打鍵した場合の文字けん盤を示す。枠内の1段目は注釈である。
枠内の2段目は上段色付きキー、3段目は中段色付きキー、4段目は下段色付きキーに続く打鍵で出る文字である。
(この省略打ちけん盤配列は、Web公開の最新版ではなく、紀要文献のpp134に基づくものである)
- 右手人差し指伸ばすを先押しシフトに用いる省略打ち
人差し指 | 伸ばす | 伸ばす | 人差し指 | 中指 | 薬指 | 小指 |
Pシフト |
Yシフト |
Fシフト ふり |
Gシフト ふる だが びゅう |
Cシフト でき ばら |
Rシフト ふる である びょう |
Lシフト でしょう |
Dシフト ので |
Hシフト ぶつ |
Tシフト だち べつ |
Nシフト ふぁん |
Sシフト です ばく |
||
Bシフト びと |
Mシフト ふむ でも |
Wシフト |
Vシフト |
Zシフト |
【打鍵例】「ふるでしょう」は[FR(ふる)][DL(でしょう)](もしくは[FG(ふる)][DL(でしょう)])と打鍵する。
- 右手人差し指を先押しシフトに用いる省略打ち
人差し指 | 伸ばす | 伸ばす | 人差し指 | 中指 | 薬指 | 小指 |
Pシフト |
Yシフト |
Fシフト |
Gシフト ふる |
Cシフト ひゅう みゅー |
Rシフト ひとり まる |
Lシフト ひょう みょう |
Dシフト ほど まで |
Hシフト ひと |
Tシフト ごと また |
Nシフト こく もの |
Sシフト がく ます |
||
Bシフト |
Mシフト おも |
Wシフト |
Vシフト |
Zシフト ひじょう |
【打鍵例】「ひとりごと」は[HR(ひとり)][GT(ごと)]と打鍵する。
- 右手中指を先押しシフトに用いる省略打ち
人差し指 | 伸ばす | 伸ばす | 人差し指 | 中指 | 薬指 | 小指 |
Pシフト |
Yシフト |
Fシフト とり |
Gシフト として |
Cシフト ついて |
Rシフト から とく われ |
Lシフト ところ |
Dシフト かた という |
Hシフト |
Tシフト こと わたし |
Nシフト こく との われわれ |
Sシフト かく わく |
||
Bシフト かんがえ ても |
Mシフト ため |
Wシフト |
Vシフト とき |
Zシフト てき |
【打鍵例】「かんがえても」は[CB(かんがえ)][TB(ても)]と打鍵する。
- 右手薬指を先押しシフトに用いる省略打ち
人差し指 | 伸ばす | 伸ばす | 人差し指 | 中指 | 薬指 | 小指 |
Pシフト |
Yシフト |
Fシフト れる なり |
Gシフト なか |
Cシフト について |
Rシフト られ なる |
Lシフト なら |
Dシフト など |
Hシフト |
Tシフト たち |
Nシフト ろく ん |
Sシフト らく |
||
Bシフト れば なく |
Mシフト なくても ことな |
Wシフト なくては |
Vシフト おなじ |
Zシフト なった |
【打鍵例】「なくなった」は[NB(なく)][NZ(なった)]と打鍵する。
- 右手小指を先押しシフトに用いる省略打ち
人差し指 | 伸ばす | 伸ばす | 人差し指 | 中指 | 薬指 | 小指 |
Pシフト |
Yシフト |
Fシフト れる さり |
Gシフト して |
Cシフト した じゅう |
Rシフト られ する ざる |
Lシフト させ |
Dシフト され |
Hシフト |
Tシフト じつ |
Nシフト ろく ぞく |
Sシフト らく ざく |
||
Bシフト れば さく |
Mシフト しも |
Wシフト |
Vシフト |
Zシフト それぞれ |
【打鍵例】「じゅうじつした」は[ZC(じゅう)][ZT(じつ)][SC(した)]と打鍵する。
- 左手Pキーを先押しシフトに用いる省略打ち
人差し指 | 伸ばす | 伸ばす | 人差し指 | 中指 | 薬指 | 小指 |
Pシフト |
Yシフト |
Fシフト ぷり |
Gシフト ぷる |
Cシフト |
Rシフト ぷろ |
Lシフト |
Dシフト |
Hシフト |
Tシフト |
Nシフト |
Sシフト |
||
Bシフト |
Mシフト |
Wシフト |
Vシフト |
Zシフト |
- 左手Yキーを先押しシフトに用いる省略打ち
人差し指 | 伸ばす | 伸ばす | 人差し指 | 中指 | 薬指 | 小指 |
Pシフト |
Yシフト |
Fシフト |
Gシフト |
Cシフト |
Rシフト |
Lシフト |
Dシフト |
Hシフト |
Tシフト |
Nシフト |
Sシフト |
||
Bシフト ゆび |
Mシフト |
Wシフト いわれ |
Vシフト |
Zシフト |
[編集] 外部リンク
- 拡張ローマ字入力『AZIK』/『ACT』(考案者自身による解説サイト)
- ACT配列(Mx版)(ACT利用者による変更例(作成中)、拡張ルールを整理している)
- 情報処理学会でのACTに関する発表の様子
[編集] Qwerty配列をドヴォラック配列へ変更するソフトウェアまたは定義
[編集] ドヴォラック配列をACTへ変更するソフトウェアまたは定義
[編集] Qwerty配列をACTへ変更するソフトウェアまたは定義
[編集] 参考文献
書式はWikipedia:出典を明記するによる。
- 木村清ほか 『情報処理学会研究報告 94-CE-33』 情報処理学会、1994年。(詳細はノートを参照)
- 木村清ほか 『尚絅短期大学研究紀要』 尚絅女学院短期大学、pp.129-141、2002年。(詳細はノートを参照)
- 日本工業標準調査会 『JIS X 4063 仮名漢字変換システムのための英字キー入力から 仮名への変換方式 』 財団法人 日本規格協会、2000年。