高等学校通信教育
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
高等学校通信教育(こうとうがっこう つうしんきょういく、英: correspondence education of upper secondary school)とは、2007年(平成19年)4月現在において、「高等学校」または「中等教育学校の後期課程」の、「通信制の課程」で行なわれる教育のことである。
広義においては、高等学校通信教育の語の意味に「特別支援学校の高等部」において行われる「通信による教育」も含まれることがある。
目次 |
[編集] 概要
高等学校通信教育の法的な根拠は、学校教育法(昭和22年法律第26号)の第45条(第51条の9で準用する場合を含む。)に基づいて制定されている、高等学校通信教育規程(昭和37年文部省令第32号)などにある。
高等学校通信教育においては、「全日制の課程」と違い、毎日学校に登校する必要はない。主として、自宅や学校が設置する学習センターなどで学ぶことができ、添削指導および面接指導(スクーリング)、ならびに、試験によって単位を修得し、卒業要件を満たすことにより、学校を卒業できる。
高等学校通信教育における学習は、「高等学校」または「中等教育学校の後期課程」の、「通信制の課程」での学習であり、高等学校通信教育によって学校を卒業することは、「全日制の課程」の卒業、および「定時制の課程」の卒業と同一の効力(高卒学歴)を有する。
また、公立学校と私立学校の両者の間においては、入学時期、学費などは異なっている。
高等学校通信教育のほとんどが「単位制による教育」を採用しており、「全日制の課程」や「定時制の課程」しばしば見られる学年・進級という概念は、「単位制による教育」において大きな意味をもたない。
よって、一度、「高等学校」や「中等教育学校の後期課程」を中途退学した人については、過去に在籍していた学校での修得単位も一定の範囲で認定、卒業単位に算入する学校が多い。
高等学校通信教育においては、学校に3年以上在学し、必要単位数74単位を修得すれば卒業することが可能である。
但し、基本的な教育カリキュラムは1988年以前の”4年以上在学”を条件とした当時と変わっておらず、3年で卒業するには、高等学校卒業程度認定試験(略称: 高認、旧: 大学入学資格検定, 大検)で、合格した科目を単位(但し、単位認定は学校の判断)に算入したり、学校の設定する補習スクーリングを受講したりする必要がある。
また、技能連携校や定時制と連携した高校については、高等専修学校や定時制課程での履修を一部卒業単位に組み込むことで3年で卒業できることが多い。
[編集] 歴史
2007年(平成19年)4月現在においては、「高等学校通信教育」は、「通信制の課程」による教育のことを指すが、以前は、異なっていた。
第二次世界大戦が終わったときにおいて、高等学校通信教育とは、高等学校に設けられている教科・科目の一部を「通信による教育」によって行うことであった。当時は、高等学校通信教育のみで、高等学校を卒業することはできなかった。しかし、1955年(昭和30年)の時点においては、高等学校通信教育のみで、高等学校を卒業することができるようになった。
現代の高等学校通信教育は、1971年の「昭和36年法律第166号」(学校教育法等の一部を改正する法律)によって設けられた、高等学校の「通信制の課程」を基礎としている。修業年限は1990年代に「3年以上」に改正された。
なお、修業年限は1971年当時は、「4年以上」とされており、中学校卒業後3年で全日制高校に在籍せずに大学入学資格を得るには、大学入学資格検定(大検)必要全科目の合格しかなく、通信制課程に在学しながら3年以内に大検で大学入学資格を得た場合、高校は中退扱いで大検による単位修得も卒業認定もされなかった。
また、1990年代には、前期中等教育と後期中等教育を一貫して行う中等教育学校が新設された。中等教育学校の後期課程においても、「通信制の課程」の設置が可能とされ、高等学校通信教育の対象は、高等学校のみに限らず、中等教育学校の後期課程にも広げられた。
[編集] 学習の様態
[編集] 入学条件
- 入学時に満15歳以上であること。(ただし、中学校等を卒業していない場合は、学校によって取り扱われ方が異なっている。)
- 年齢上限なし。
- 高等学校在籍・中退者で、転学、編入学(退学者の場合など)を希望する者。
- 事情により、「全日制の課程」に在学・在籍できない者。
- 事情により、「定時制の課程」に在学・在籍できない者。ただし、「定時制の課程」の教育のみで卒業必要単位をそろえる高等学校のみで、定通連携制度のある高等学校の場合は、必要単位の一部を通信制課程の教育で充てることができる。
[編集] 高等学校通信教育の利点
高等学校通信教育の利点は、事情があって「高等学校」や「中等教育学校の後期課程」において転学したい人や、以前に中退した人にも「高等学校」または「中等教育学校の後期課程」を卒業できる機会があることである。また、毎日登校する必要がないので、在籍者自身の時間を自由に活用することができる。また、芸能やスポーツのプロ、またはプロを目指す人、難関大学を志望しても対応できる学校にいない人、働いて家計を助けたい人、「全日制の課程」「定時制の課程」などにおいて人間関係などでの悩みが解決困難な人、その他の諸々の理由で現在在籍している学校になじめない人、身体的な障害がある人などでも学ぶことができる。
高等学校通信教育は、日本国憲法の第26条第1項に定められている「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」という条文を実施するための制度の1つである。高等学校通信教育によって、学習の機会の均化等が図られていることは、日本の教育を考える上で無視することが難しい。
[編集] 「添削指導」と「面接指導(スクーリング)」
すべての学習が自宅などにおける自己学習で完結するわけではなく、一定の添削指導が終了するたびに試験を受けて、単位を修得する必要があることや、面接指導(スクーリング)があるというのも重要な事項と考えられる。
面接指導(スクーリング)とは、学校が指定する場所で、教員と生徒によって学習活動・教育活動を行うことである。体育等の実技科目はスクーリングによる指導をもとに単位を修得することが多い。
例えば、教科「国語」の科目「国語表現」であれば、単位数は2単位で、添削指導に係わるレポートが6通、面接指導(スクーリング)2時間、教科「数学」の科目「数学Ⅰ」では、単位数3、添削指導に係わるレポート9通、スクーリング3時間という状況となる。面接指導(スクーリング)の方法は、学校によって異なる。毎週1回、あるいは3~5回から、1年間の一定期間(夏休みなど)にまとめて、というところもある。
テストやレポートで合格できなくても、その科目の単位が取得できなかったということで、全日制や定時制のように留年ということにはならない。必修科目の場合はテストやレポートで合格するまで再学習やスクーリングの再受講が必要となる。
卒業に必要な単位が揃わなければ、最短修業年限で卒業できず、実際には卒業時期が先延ばしになる。
[編集] 通信制の課程における教育課程
各教科・科目の添削指導の回数及び面接指導の単位時間(1単位時間は,50分として計算する。)数の標準は、1単位につき次の表のとおりとされるほか、学校設定教科に関する科目のうち普通教育に関するものについては、各学校が定めるものとされている。
各教科・科目 | 添削指導(回) | 面接指導(単位時間) |
国語,地理歴史,公民及び数学に属する科目 | 3 | 1 |
理科に属する科目 | 3 | 4 |
保健体育に属する科目のうち「体育」 | 1 | 5 |
保健体育に属する科目のうち「保健」 | 3 | 1 |
芸術及び外国語に属する科目 | 3 | 4 |
家庭及び情報に属する科目並びに専門教育に関する各教科・科目 | 各教科・科目の必要に応じて2~3 | 各教科・科目の必要に応じて2~8 |
総合的な学習の時間の標準単位数は3~6単位とし、その添削指導の回数及び面接指導の単位時間数については、各学校において、学習活動に応じ適切に定めるものとされている。
面接指導の授業の1単位時間は、各学校において、各教科・科目の面接指導の単位時間数を確保しつつ、生徒の実態及び各教科・科目等の特質を考慮して適切に定めるものとされている。
学校が、その指導計画に、各教科・科目または特別活動について計画的かつ継続的に行われるラジオ放送、テレビ放送その他の多様なメディアを利用して行う学習を取り入れた場合で、生徒がこれらの方法により学習し、その成果が満足できると認められるときは、その生徒について、その各教科・科目の面接指導の時間数又は特別活動の時間数のうち、各メディアごとにそれぞれ10分の6以内の時間数を免除することができるとされている。ただし、免除する時間数は、合わせて10分の8を超えることができないとされている。
特別活動については、ホームルーム活動を含めて、各々の生徒の卒業までに30単位時間以上指導するものとされている。
[編集] サポート校
(詳しくは、サポート校を参照のこと。)
高等学校通信教育におけるサポート校というのは、高等学校通信教育を通して積極的に学校を卒業するための教育施設である。
全日制の課程のように毎日・週決めで登校できる学校も多数ある。また、「専門教育に関する教科」としての「音楽」等の芸術関係や、近年人気が上昇している職業につながる教科や科目が設けられて、「大学」、「専修学校の専門課程」、「各種学校」におけるい学修・学習につながる教育もなされている。
サポート校の種類として、サポート校には、生徒の自主性を尊重し、進学の支援に力を入れているものや、不登校の支援を得意とする学校、個性を伸ばし、能力を伸ばすことに重きを置くものなど、さまざまな性質を持つの教育施設がある。
サポート校の初年度の入学金と学費などに加えて、「高等学校」または「中等教育学校の後期課程」の初年度の入学金と学費が必要となる。このため、サポート校の学費に関して誤解している人も見られる。つまり、サポート校だけに学費を払えば良いということではなく、イメージとしては、学習塾への通学やダブルスクールを想像すればよい。
[編集] 主なサポート校一覧
- 大阪自由学院
- 渋谷高等学院
- 東京共育学園高等部
- 東京国際学園高等部
- 東京文理学院高等部
- フリースピリット音楽芸能学園
- 代々木高等学院
- TOKYOスポーツハイスクール
[編集] 広域の通信制の課程
[編集] 定義と実施状況
「広域の通信制の課程」とは、高等学校の「通信制の課程」のうち、当該高等学校の所在する都道府県の区域内に住所を有する者のほか、全国的に他の都道府県の区域内に住所を有する者を併せて生徒とするもの、その他政令(学校教育法施行令)で定めるもののことである(学校教育法第45条第3項を参照)。「広域の通信制の課程」を設けている学校には、分校、協力校、学習センターなどが設けられている。
日本全国を対象とする「広域の通信制の課程」を設けている学校には、日本放送協会学園高等学校(NHK学園高等学校)、八洲学園高等学校、八洲学園大学国際高等学校、クラーク記念国際高等学校、つくば開成高等学校、さくら国際高等学校、代々木高等学校、ウイッツ青山学園高等学校、などがある。また、関東地方限定の「広域の通信制の課程」を設けている学校には、鹿島学園高等学校、学芸館高等学校などがある。また、愛知県以西の22府県を募集対象とした「広域の通信制課程」を設けている学校には、近畿大学附属福岡高等学校がある。
[編集] 分校・協力校・学習センター
広域制の学校では、通学の利便性を図るために分校、学習センターなどを設けていることも多い。また、全日制の高等学校等の施設を借用し、協力校としてスクーリングを行っている学校や、高等専修学校を協力校としている学校もある。
[編集] 学校法人でないものが設置する学校
[編集] 株式会社立の学校
小泉内閣の構造改革特別区域として経済産業省に認定されている高校。アットマーク国際高等学校、ルネサンス高等学校、ウイッツ青山学園高等学校などがある。高校の名前らしくないカタカナや読まれにくい漢字の校名が多い。
[編集] 特定非営利活動法人(NPO法人)立の学校
構造改革特別区域の制度においては、大学等を除いて特定非営利活動法人(NPO法人)も学校を設置できる。人々の多様な学習活動に対する要望に応えるために、特定非営利活動法人(NPO法人)立の学校も作られ始めている。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 高等学校通信教育規程(昭和37年文部省令第32号)(法令データ提供システム、総務省行政管理局)