顎関節症
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顎関節症(がくかんせつしょう)とは、顎関節に発生する、開口時の疼痛 、開閉口時の関節雑音、また開口制限を特徴とする症候群のことである。英語のTemporomandibular joint disorderから、TMDやTMJDとの略称でも呼ばれる。顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節音、開口障害ないし顎運動異常を主要症候とする慢性疾患群の総括的診断名であり、その病態には咀嚼筋障害、関節包・靭帯障害、関節円板障害、変形性関節症などが含まれる。
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[編集] 症状
一般に、顎運動障害、顎関節痛や関節雑音が単独もしくは複数で、同時ないし定期的に発現する。(これを顎関節症の主要3症状と呼ぶ。) 疼痛は主に顎運動時に生じる。疼痛は関節組織の器質的な障害ではなく、咀嚼筋の異常緊張のために起こるとも考えられる。また、閉口時、特に強く咬合する時に生じる疼痛は関節組織への圧迫刺激によって生じるもので、器質的病変の存在を示す。 雑音には、ゴリゴリという低い音のcrepitusや、パチンという弾撥音であるclickingと呼ばれる特徴的な音を主とするものがある。
[編集] 疫学
子供から大人まで幅広く発生するが、20歳代から30歳代の女性に好発する傾向がある。
[編集] 原因
顎関節症は、異常な開閉口運動や、ブラキシズムなどの顎に加わる異常外力、補綴物異常など多様な原因による咬合異常や筋緊張に起因するといわれている。また、大きく開口するあくび、笑いといった常日頃の何気ない動作や、歌唱、寝違え、頬杖など生活習慣や、仕事の変化と肉体的心理的ストレスの相乗作用によって、原因となる状態を惹起し、症状が出現する場合もあるなど、複合的な要因によって発症することが多い。
[編集] 診断
基本的に顎関節症の主要3症状を検索することによって診断する。顎関節部の画像診断(シューラー法X線撮影法、MRI)や、マンディブラーキネジオグラフ (MKG) の様な顎運動審査を行う。関節鏡による診断も行われる。
診断を進める手順は、
- 変形性関節症(IV型):X線写真において、下顎頭の骨棘形成、エロージョン、骨硬化像、骨皮質の肥厚、多角化などが認められる。
- 関節円板障害(III型):関節雑音、関節雑音に後発する開口障害や閉口障害がみられる。
- 咀嚼筋障害(I型):筋の圧痛がある。
- 関節包、靭帯障害(II型):大開口および噛み締め時の関節痛。
- 上記のI~IV型のいずれにも該当しないもの。(V型)
という順がとられる。顎関節部の炎症症状、及び骨異常を伴う場合、顎関節症とは分けて考えられている。
[編集] 分類
症状は間欠的に現れるのが通常であり、その発現の仕方によって突発型や潜行型のように分類される。主病変が顎関節そのものではなく、咀嚼筋機能の障害によるものである「筋性」と、関節構成組織(下顎窩、関節円板、下顎頭、関節包)の障害のものである「関節性」の二つに大別される。日本において顎関節症の多様な病態に対応するため、日本顎関節学会はI〜V型に分類を行い、広く臨床に使用されている。
- 顎関節症I型:咀嚼筋障害を主徴候とし、その病理は筋緊張と筋スパズム、筋炎である。顎関節部の運動痛と運動障害を僅かに生じることがあり、筋痛を強く生ずる。
- 顎関節症II型:関節包、関節靭帯、円板後部組織の慢性外傷性病変を主徴候とし、顎関節部の運動痛と圧痛を強く生じ、関節雑音を生ずる。筋痛は弱い。関節鏡下で病変を認める。
- 顎関節症III型:関節円板の転位や変性、穿孔、線維化を主徴候とする。クリッキングと呼ばれる関節雑音が顕著である。筋痛はなく、顎関節部の疼痛は弱い。
- III型a:復位性関節円板転位:関節円板の位置関係が復位する時に関節雑音(クリック音)が確認できる。
- III型b:非復位性関節円板転位:関節円板の位置が復位しない。ひっかかりのための開口障害や顎関節の疼痛がおこる。
- 顎関節症IV型:変形性関節症。関節軟骨の破壊、下顎窩や下顎頭の骨吸収や変性・添加、関節円板や滑膜の変形異常などの退行性病変を主徴候とし、クレピタス音と呼ばれる関節雑音が顕著である。X線所見上も大きな異常を認めるようになる。
- 顎関節症V型:上記のI~IV型のいずれにも該当しないが、顎関節領域に異常症状を訴える、心身医学的な要素を含むもの。
[編集] 治療法
顎関節症の治療は原則として、原因や誘因の除去する治療法が主となり、顎の安静や咬合異常の整復を目的とした様々な治療法が存在する。潜行型の場合、薬物療法や、原因となる噛み合せの調整のためスプリントや矯正を行う。関節腔内を洗浄することや、内視鏡下での外科的手術を行なうこともある。
- スプリント療法
- 薬物療法
- 理学療法
[編集] 診療科
- 歯科
[編集] 予後
外科的な手術を行った場合はそうでない場合に比べ、再発の危険性が高い。多くの場合、顎関節症は再発を繰り返しながらも、時間の経過と共に症状は収束に向かう。しかし、およそ10%のケースでは慢性疼痛を伴って悪化する。この少数だが重要なグループについての研究が、今後の課題とされている。
[編集] 認定資格
- 日本顎咬合学会認定医(日本顎咬合学会)
- 日本顎関節学会認定医(日本顎関節学会)
- 日本全身咬合学会認定医(日本全身咬合学会)