質量保存の法則
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質量保存の法則(しつりょうほぞんのほうそく)は、「化学反応前後で関与する元素の種類とおのおのの量は変わらない」という法則である。元素は固有の質量を持つので、「化学反応の前後で系の総質量は変わらない」と言い換えることができる。
フランスの科学者、アントワーヌ・ラヴォアジエが元素の概念と共に提唱した化学における保存則である。この考えから出発して、定比例の法則と倍数比例の法則が発見され、原子、分子及び化学量論の概念が確立した。これらのことから、質量保存の法則の提唱者であるラヴォアジエは「近代化学の父」と呼ばれる。
ラヴォアジエ以前は四大元素やフロギストンというものがあり、それらの混成によって多様な物性を現わすと考えられていた。それゆえ、混成を変えれば卑金属から貴金属が得られると考えたのが錬金術である。それに対してラヴォアジエは酸素をはじめとして30余種の単体が分離分割不能な元素であると考え、それらの量は化学反応の前後で変化しないと主張した。言い換えると、化学反応によって元素が分裂して増加したり、消滅して減少したり、他の元素に転化したりしないと言ったのである。
英語では "Law of Conservation of Matter"(物質不変の法則)ないしは "Law of Conservation of Mass"(質量保存の法則)と混用されているが、前述のとおりこれらは同じことがらを視点を変えて述べているに過ぎないと言える(日本語では両者とも「質量保存の法則」と訳する)。
物理学の領域において、ニュートン力学(古典力学)では系全体の質量の和が一定であること仮定しているので、このことを指して質量保存の法則と称する場合があるが、特殊相対性理論では質量とエネルギーの等価性が示され、これは核反応生成物の質量欠損を説明する。したがって現在の物理学においては質量保存の法則を保存則には含めない。ただし核反応を伴わない化学反応では、相対論的効果による質量の変化を無視してよい。このことから、化学反応における質量保存の法則は近似的に成立していると考えることができる。