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自己言及のパラドックス - Wikipedia

自己言及のパラドックス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

自己言及のパラドックス(じこげんきゅうのパラドックス)とは、自己を含めて言及しようとすると発生するパラドックスのことである。

目次

[編集] 嘘つきのパラドックス

[編集] クレタ人(エピメニデス)のパラドックス

自己言及のパラドックスの古典として知られるのが、下記の嘘つきのパラドックスである。

  • 「クレタ人は嘘つきである」とクレタ人が言った。

なお、この発言をしたクレタ人はエピメニデスであるとされる。

ここでクレタ人(エピメニデス)自身がクレタ人は嘘つきと言及している為パラドックスが発生してしまう。すなわち、

  • 「クレタ人は嘘つきである」が本当なら、クレタ人であるエピメニデスも嘘つきであるはずで、従って「クレタ人は嘘つきである」という発言も嘘でなければならない。
  • しかし「クレタ人は嘘つきである」が嘘なら、クレタ人であるエピメニデスも正直者である事になる。従って彼の「クレタ人は嘘つきである」という発言も本当でなければならない。

[編集] 解釈

このパラドックスの解釈は色々存在するが、簡単にパラドックスを回避する方法として、 前述の文章に「全ての」、「多くの」といった量化子を導入して解釈しなおす、というものがある。 つまり前述の文章を例えば、

  • 「多くのクレタ人は多くの場合嘘をつく」と数少ない正直者のクレタ人が言った
  • 「全てのクレタ人は常に嘘をつく」とクレタ人のエピメニデスが言った。

のように解釈すると、パラドックスは解消する。 前者でパラドックスが解消しているのは明らかである。 後者は、

  • 実は「クレタ人の中にはたまには本当の事をいう人がいる」のに、エピメニデスは嘘をついて「全てのクレタ人は常に嘘をつく」と発言した。

のだとすれば矛盾は生じず、パラドックスは生じない。しかしこれらのパラドックス回避方法は、

  • 「この文は間違っている」

という同種のパラドックスに対しては何の答えも出していない。

[編集] 出典

このパラドックスの出典は、新約聖書中の「テトスへの手紙」(1章12-15節)である。

彼ら(=クレタ人)のうちの一人、預言者自身が次のように言いました。
「クレタ人はいつもうそつき、
悪い獣、怠惰な大食漢だ」
この言葉は当たってます。だから、彼らを厳しく戒めて、信仰を健全に保たせ、ユダヤ人の作り話や、真理に背を向けている者の掟に心を奪われないようにさせなさい。[1]

[編集] 「この文は間違っている」

クレタ人のパラドックスと同様の理由により、

  • この文は間違っている

という文章もパラドックスを含んでしまう。 しかもこのパラドックスは、クレタ人のパラドックスと違って「全ての」、「多くの」といった言葉を挟んでパラドックスを解消するのはできそうにない。

よって「文章に言及する文章」を矛盾無く取り扱うには「この文は間違っている」という文章をうまく排除する必要がある。 「この文は間違っている」という文章を回避する方法として、言語に階層をいれる、というものがある。 すなわち、言語に「レベル0の文章」、「レベル1の文章」…を以下のように作る。

  • レベル0の文章:(自己言及や他己言及を含まない)「普通の」文章。
  • レベル1の文章:レベル0の文章について言及している文章。
  • レベル2の文章:レベル1の文章について言及している文章。

そしてこのようにレベルづけできる文章だけを(矛盾が生じる危険がないので)取り扱う事にし、その他の文章を扱うのを諦める。 したがって、

  • レベル0の文章の中には偽のものがある。
  • レベル0の文章に言及している文書はレベル1である。
  • レベル0の文章は、全て10文字以下である。

のようなものは扱う事ができる。 (注:扱う事ができるからといって、真であるとは限らない。実際 3 番目の例は扱う事ができるが偽である)

一方

  • この文は間違っている

は排除される。

実際、「この文は間違っている」という文章にはレベルづけできない。 A =「この文は間違っている」として、仮に A のレベルが i であるとすると、 A は「この文 (←レベルi) は間違っている」とレベル i の文章に言及した文章でもあるので、 A のレベルは i+1 であることになり、矛盾する。


[編集] 数学

[編集] 集合論におけるパラドックス

集合論における典型的なパラドックスは次のようなものである。これは特に、バートランド・ラッセルが議論の対象としたことで知られる(ラッセルは述語論理における同様のパラドックスについても議論している)。

まず、様々な集合を2種類に分類する。ひとつは、自分自身を要素として含むような集合で、もうひとつは、自分自身を要素として含まないような集合である。

次に、その分類で、後者に分類されるもの全てからなるような集合を想定する。つまり、この集合は、「自分自身を要素として含まないような集合の集合」ということになる。(便宜上この集合をAとする。)

このような集合Aは、果たして「自分自身を要素として含まないような集合」のひとつであるかを考えてみると、もしも自分自身を要素として含まないのであれば、AにはAが含まれないということを意味する。ところが、Aは定義により、自分自身を要素として含まない集合全てを含むはずなので、AにはA自身が含まれていなければならないはずである。ところが、もしもAにA自身が含まれているとすると、それはAが自分自身を含む集合の一種であるから、Aの一要素として含まれていてはいけないことになる。

以上のように、この集合は自己言及のパラドックスを引き起こすことになる。

[編集] 自己言及とパラドックスの関係

ところで自己言及によって必ずパラドックスが起きるというわけではない。 例えば、

  • 「この文章は正しい」
  • 「自分自身を要素として含む全ての集合の集合」

は矛盾を引き起こさない。

パラドックスを引き起こすためには、自己言及とともに真偽の反転が必要である。相対主義のパラドックスにおいても相対主義の主張が絶対主義的であると考えられるが故にパラドックスを引き起こすわけである。

なお、ゲーデルの不完全性定理の証明に用いられるゲーデル命題は

  • 「この命題は証明できない」

という意味のものであるが、この場合、上記命題が証明できなくとも、それ故に正しいと考えれば、真偽の反転は起きず、パラドックスにもならない。

[編集] 外部リンク

英語

[編集] 参考文献

  1. ^ 「聖書」、新共同訳。日本聖書協会

[編集] 関連項目

以下の2つはその証明中で、自己言及パラドックスに類似した論法をパラドックス解消して「背理法」にした上で用いている。


[編集] 外部リンク


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