算術級数の素数定理
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算術級数の素数定理(さんじゅつきゅうすうのそすうていり)は、初項 a と公差 d が互いに素である等差数列に含まれる素数で、x 以下のものの数を πd,a(x) で表すとき、
となるという定理である。
[編集] 歴史
gcd(a,d) = 1 である自然数 a, d に対し、dn + a (n は自然数)と書ける素数が無限に存在することは古くから予想されていた。
ユークリッドは素数が無限に多く存在することの証明を変形し、 4n+3 の形の素数が無限に多く存在する事を証明した。オイラー はフェルマー数 Fkはどの2つも互いに素であること、Fkの素因数は n 2k+1+1 の形をしていることを示したが、これから任意の整数 k に対し、n 2k+1の形の素数が無限に多く存在することがわかる。ルジャンドルは一般の円分多項式の値の性質から、 dn + 1 の形の素数が無限に多く存在する事を証明した。これらの証明はいずれも初等的であるが、一般の初項に対しては拡張できない。
1837年にディリクレがL関数 L(s,χ) を導入し、 を示す事で初めてgcd(a,d) = 1 である自然数 a, d に対し、dn + aの形の素数が無限に多く存在する事、さらに、 x 以下の該当する素数の逆数の和はを満たすことを示した。
算術級数の素数定理
はド・ラ・ヴァレー・プーサンによって証明された。彼は素数定理を証明したのと同様の方法をディリクレのL関数に用い、 t が0でない実数で、a < c / logt のとき となる定数 c が存在することを示すことによってこの定理をより強い形
(ここで c1 は d に依存する正の定数)で証明した。
[編集] 算術級数の素数定理の拡張
算術級数の素数定理が証明された後、πd,a(x) の誤差項の改善が大きな課題となった。
ウィノグラードフ(1958年)は指数和の評価を用いて誤差項を O(xexp( − c1(logx)3 / 5(loglogx) − 1 / 5)) に改善した。これが現在知られている最良の誤差項である。
一方、ゴールドバッハ予想などの数論上の問題の研究の過程で、dに対する依存の評価がより重要であると考えられるようになった。このときに問題となるのはL(s,χ)は χ が実指標のとき、s > 1 − c / logt を満たす零点を持つ可能性を除外できないことである。ただし、正の実数 s に対して L(s,χ) = 0 となる事例はあるとしても1個しか存在しない。
ディリクレの類数公式から、任意の正の ε に対して (L(1,χ)) − 1 = O(d1 / 2 + ε) であることがわかり、これからL(s,χ) の実の零点 s は s < 1 − c / t1 / 2 + ε を満たすことが従う。ここで c は計算可能な正の定数である。
ジーゲルは二次体の類数についての研究結果から任意の正の ε に対して (L(1,χ)) − 1 = O(dε) を示し、これから s < 1 − c / tε を 示した。ただしこのときは c は計算可能ではない。これは後にエスターマンによって複素函数論の基礎的な定理のみを用いて証明された。この結果から、任意の正の ε に対して、x > expkε ならば
(ここで c1 は ε にのみ依存する正の定数) が成り立つ事が示される。
[編集] 参考文献
K. Prachar, Primzahlverteilung, Springer-Verlag, 1955, 1978. H. Iwaniec and E. Kowalski, Analytic Number Theory, American Mathematical Society, 2004.