炊飯器
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炊飯器(すいはんき)とは、米を炊いて飯に調理するための器具。
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[編集] 概要
現在、家庭用の物では電気式(電気炊飯器)が主流である。ガス式(ガス炊飯器)もあり、それぞれ電気釜・ガス釜ともいう。業務用ではライス・ボイラーといわれる大型のものや、洗米から炊飯までこなす全自動炊飯器なるものまで多様な種類が存在する。
電気式・家庭用の、いわゆる白物家電に属する炊飯器は、発売当初は日本国内でのみ製造・販売・購入されていたが、日本食ブームに乗って欧米へ、またアジア諸国の米飯を食べる地域でも家庭所得の増大と省力化の波に乗って輸出され、後に現地生産、さらには日本への輸出もされるようになっている。
[編集] 機能・仕様・価格
一般家庭用としては、小は単身者用の1合(180ミリリットル)程度のものから、大は10合(1.8リットル=1升)程度まである。大きさ、機能、使用する素材、原産国によって価格の開きは大きく、5千円~12万円程度までの幅がある。同じ容量で低価格品は電熱ヒーターで内釜を加熱するマイコン式と呼ばれるものであるが、値段の高いものは、釜自体を発熱させる事でより効率よく熱を伝えることのできるIH(Induction Heating)式が採用され(IH式は全てマイコン制御である)、さらには内釜に熱伝導率の高い銅などの金属を張り合わせたり、ご飯のうまみ成分を釜内部に戻したりして、よりおいしいご飯が炊ける機能を持つ。 圧力釜仕様の製品は高圧がかかる事により沸点が高くなり(1.4気圧110℃程度まで)、より高温で炊飯でき、玄米も消化良く炊ける玄米コースがある。 最近の高級高額家電のカテゴリに該当するような物としては、内釜に製造コストのかかる金属以外の素材を使った製品が登場している。
飲食店などの業務用は、ほとんどの場合ガス炊飯器やガスを使った大型の器具で(電気では200ボルトの動力線が必要になり、時間がかかる上に水気の多い厨房では感電や漏電などの危険が大きい)、数十合(数升=数リットル)を一度に炊ける容量を持つ。こちらは炊き上がりよりも所要時間の短縮に注力される場合が多い。また、釜の形状も積み重ねができるものがあるなど、家庭用と違う需要に応えられるようにデザインされている。
[編集] 付加機能
以前は、炊飯機能だけでなく保温機能も備えている炊飯器を炊飯ジャー、ジャー炊飯器等といったが、1980年代以降の電気式はこれが大半であり、殊更そのような呼び方はしなくなった。ガス式でも電気による保温機能を備えているものがある。
普通のご飯だけでなく、おこわやお粥なども美味しく炊けるような付加価値をつけているものも多数あり、さらに機種によってはパンを焼き上げる機能やパン生地、ヨーグルトの発酵に適した温度を維持する機能なども付加されている場合もあり、最近になって急速に多機能化が進んでいると言える。
2000年代に入り、日本国内では、炊飯器でスープや肉じゃがなどの煮込み料理やスポンジケーキなどを調理する事が消費者の間で流行し、炊飯器だけで調理できるレシピを収録した書籍も刊行されている。しかし使用する機種によっては内釜や炊飯器本体を傷める可能性も有るので、調理の際には注意が必要である。特に釜内側にテフロン加工をしてある機種では、中に瀬戸物の食器を入れて調理する際に、その糸底でこのテフロン加工に傷が付くおそれがある。また内釜に焦げ付きが出来たり、内部のパッキングが傷む・匂いが染み付いて炊飯時に臭いが残る等のトラブルも聞かれる(当然、用途以外に使った場合の故障には、無料修理保証は適用されない)。 外国では、そのような機能が日本メーカーの製品も含めて標準となっていて、自動調理電気鍋と化している物もある。
[編集] 歴史
家庭用の電気炊飯器は、初期の開発中のものは、単にヒーターで加熱し一定温度になると切れる、という至ってシンプルな構造のものであった。だが、この方式では外気温の影響を受けやすい(加えて日本では四季により季節の寒暖の差が激しい)ことから、米が生煮えになることが多く、未完成品であった。各メーカーは失敗続きのまま、試行錯誤を繰り返していた。この段階ではおひつの中に電熱線を入れ込んだ試作機すら見られた。
最初に実用的な電気炊飯器を発明したのは、東京の町工場である「光伸社」の三並義忠[1][2]である。釜を三重化する方法を採用することで、実用的な炊飯が可能となった。(これは空気の層による保熱機能で、温度を高めるようにしたもの。)
やがて1955年に自動式電気釜という名で東芝から製品化されたときには、「二重釜間接炊き」[3]という方式が導入された。これはバイメタル技術を利用したもので、自動式で電源OFFにする機能である。このおかげで、いったん電源ONにすれば、あとは自動的に電源OFFになるので、炊飯中に常時見張っている必要がなくなった。さらに、自動的に電源ONになるタイマーも別途併売された。これらにより、電源のON・OFFが自動化されたので、いったんタイマーをかけておけば、夜眠っている間に炊飯されて、朝起きたら炊き上がっているようになった。全自動化されてとても便利だったので、電気釜は大ヒット商品となった。
なお、電気釜の開発と自動化の開発が混同されたり、電気釜の開発と電気釜の製品化が混同されたりして、「東芝が電気釜を開発した」という誤解も世間では広がっているが、これは正しくない。東芝は電気釜の開発過程では、光伸社に協力はしたが、主導したわけではない。
後の1956年には、松下電器も電気炊飯器を製品化している。松下電器製のものは鍋と釜を二層構造とする事で、比較的外気温に影響されない炊飯が可能であった(この方式を二層形電気釜という。その後二層形は炊飯に時間がかかることや消費電力が大きい欠点があり、1960年代以降は次第に廃れていった)。
この当時の炊飯器は保温機能を備えておらず、最後におひつに移す作業が必要で、またすぐに冷めてしまっていた。そうした中で、象印マホービンが1965年に半導体による電子制御の保温機能を備えた電子ジャーを発売。同商品は年間200万個を売る大ヒット商品となった(開発の際には、もう米を見るのもイヤになった開発者もいるという)。その後、三菱電機が1967年に保温機能を備えた炊飯器を発売する[4]。
これらの登場によって、従来、家庭において洗米から水張り・火加減を行って、最後におひつに釜から移すという主婦の作業を軽減させる事にもつながり、洗濯機と並んで日本の家庭の必需品とまでなっている。1960年代を通してタイマーにより前夜にセットしておけば、早朝に炊飯する手間が省ける機能を備えた機種が登場、普及を見せた。東芝では保温機能を持つ機種を「保温釜」、持たないものを「電気釜」と呼んでいたが、純然たる「電気釜」は業務用を除き1990年代までに絶滅し、東芝の商品一覧からその名を消している。さらに「保温釜」の呼び名も近年ではできるだけ使わないようにしている。
1980年代よりマイコン制御を取り入れる機種が登場して多機能化(時計を内蔵し、タイマー設定も2つまで記憶できるなど)も進み、1990年代にはマイコンによる各種機能によって好みの炊き加減(硬い、柔らかいなど)が選択出来るように成った他、玄米や麦飯など、健康ブームにも関連して、様々な食品が調理できるものも登場している。中には蒸し器としても利用できる機種もある。
なお1980年代末には早くもIH(Induction Heating)方式による加熱を採用した機種も登場したが、これらでは様々な設定の組み合わせて加熱を細かく制御する事により、よりおいしいご飯が炊けるような工夫をしている。IH炊飯器には心臓ペースメーカーに影響を与える機種もあるので、両方を使用する人は注意が必要である。圧力釜仕様の製品では1.2気圧~1.7気圧程度(家庭用は法規制で1.4気圧程度迄)の圧力がかかるようにして沸点を100℃より高くしたり、高価な機種ではスチーム加熱などの機能を備えている事が多い。
1990年代には、中国で、機能は限られるが安価な炊飯器が大量に生産されるようになり、日本を含む各国に輸出されるようになった。このため、日本のメーカーは商品の機能を増やすなど、付加価値をつけることで対抗することとなった。
2000年代になり、内釜に金属以外の素材を使用し、遠赤外線の作用などによって、ご飯の風味が良くなることを特徴とした高級品が出現し、注目を集めている。三菱電機は「本炭釜」と称する炭素材削り出しの内釜を使用した高額商品を販売した。また、有田焼などの陶器の内釜を使用した商品もある。陶器を使用した粥や生薬用の電気調理器具は中国に1980年代からあり、近年は炊飯器も製造されている。
[編集] 海外から見た日本の炊飯器
1980年代以降、中国、韓国など、米食を主体とする海外でも、電気炊飯器が製造・販売されているが、価格競争重視のため単純な炊飯機能のみの単機能モデルがほとんどであった。
このため、日本に観光目的でやってくる高所得者層から出稼ぎでやってくる労働者まで、上手に美味しく炊ける日本国内向けの多機能炊飯器を土産に選ぶケースも多かった。しかし、日本国内向けに販売されている炊飯器はほぼ全て100V専用品のため電圧の差などの関係で日本国外ではそのまま使用できないケースもあり、注意が必要である。
また、これらの炊飯器は、日本の粘り気のある米(ジャポニカ米)を炊くために加熱パターンなどを最適化しており、特にインディカ米(タイなど東南アジアなどで広く栽培されている長粒種)をこれで炊くと、美味しく炊けない場合が多い。これは1993年米騒動の際に日本の消費者にも広く知られることとなったが、この問題では炊飯器が古くからの伝統的な食生活を崩していると見る者もいる。
本来、インディカ米には鍋で沸騰させた湯に投じて茹で、煮上がった所で湯を切って蒸らす湯取(ゆとり)という調理法を取る。これは日本の水加減を調節するやりかたとの違いが大きいが、これを炊飯器で再現させる事が難しい。このためインディカ米を日本の米と同じように(やや水を多めにして)炊く事となるが、伝統的な調理法と比べると、どうしても風味が違ってしまうようだ。特にチャーハンのように炒めて食べる場合には、炊飯器を使うと、出来た飯の炊け具合が良くない(表面がベタベタする)と言われている。
また、西アジアなど、内釜の底におこげができることを好む地域の場合、日本国内向けの商品では満足できない場合がある。このため、メーカーもこのような地域には、加熱パターンが異なる製品を投入している。
[編集] 生産量
2005年の世界の家庭用電気炊飯器の生産量は約8500万台といわれ、内、中国が約6000万台で、大多数は広東省湛江市と廉江市で製造されている。他は、日本、韓国が主な産地である。
ちなみに、中国語では「電飯煲」というが、これは本来広東語の言い方で、最後の漢字も方言字であるが、広東省が生産基地のため、従来の「電飯鍋」という言い方を淘汰させてしまったものである。
[編集] 製造メーカー
[編集] 脚注
- ^ プロジェクトX 挑戦者たち
- ^ プロジェクトXの詳しい紹介
- ^ 東芝科学館
- ^ 2007年10月14日産経iza『お米文化”救った 「電子ジャー」開発の秘密』
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 快適にくらすための家電選び:炊飯器(東京電力くらしのラボが提供している選び方ガイド)