永久磁石
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永久磁石(えいきゅうじしゃく、permanent magnet)とは、外部から磁場や電流の供給を受けることなく磁石としての性質を比較的長期にわたって保持し続ける物体のことである。強磁性ないしはフェリ磁性を示す物体であってヒステリシスが大きく常温での減磁が少ないものを磁化して用いる。永久磁石材料に関するJIS規格としてJIS C2502、その試験法に関する規格としてJIS C2501が存在する。
実例としてはアルニコ磁石、フェライト磁石、ネオジム磁石などが永久磁石である。これに対して、外部磁場による磁化を受けた時にしか磁石としての性質を持たない軟鉄などは一時磁石と呼ばれる。
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[編集] 概説
あらゆる物質を構成している原子は原子核と電子から成る。電子は電荷を持つと同時に、スピンという性質をもつ。スピンとは電子の自転運動に相当するもので、このスピンによって電子そのものが磁石としての性質を帯びている。
原子はそれ自身の陽子と同じ数の電子を持っている。例えば鉄原子は26個の陽子を持ち、26個の電子を持つ。これらの電子のスピン同士はお互いを打ち消しあおうとする性質を持つが(フントの規則)、打ち消しきれずに余ったスピンがあると、原子そのものが磁石としての性質を帯びる。例えば、永久磁石を作る上で重要な物質である鉄、ニッケル、コバルトでは3d軌道と呼ばれる電子軌道に余ったスピンが存在している。
多くの物質中では熱擾乱によって原子の内殻電子の向きが乱されるため、物質全体としては磁気モーメントを示さない。物質全体が強い磁気モーメントを示すためには、互いの原子間に強い原子間交換相互作用を持つ必要がある。このような物質を強磁性体と呼ぶ。強磁性体では隣同士の原子に属する電子や伝導電子による「交換相互作用」というものを仲立ちにしてスピンをそろえている。強磁性体を加熱すると磁性を失ってしまうのは、熱擾乱エネルギーが交換相互作用エネルギー、正確に言えばここのモーメントを束ねるマグノン励起エネルギーを上回ってしまうためである。
強磁性体内部は微視的に見ると「磁区」とよばれる多数の領域に分かれている。それぞれの磁区はある方向の磁気モーメントを有しているが、それぞれ磁区の磁気モーメントがばらばらな向きを持っている消磁状態では、お互いが打ち消しあうために、全体としては磁気モーメントを持たない。ただし、一般に人為的な消磁操作を行わずに消磁状態の強磁性体を見ることは稀である。
強磁性体に十分な磁界をかけて一旦すべての磁気モーメントを外部磁界と平行にすると、外部磁界をゼロにしても磁気モーメントを生じる。これを残留磁化もしくはリマネントと称する。残留磁化をゼロにするには逆方向に外部磁界を印加する必要があり、その値を保磁力という。永久磁石では最大の残留磁化Bとそのときの外部磁化の値Hの積BHmaxが性能指針として用いられることもある。 天然に産出する磁石として磁鉄鉱(Fe3O4)(マグネタイト)が挙げられる。古代からよく知られている磁石、磁鉄鉱(乃至は砂鉄)と産出さてれていたのはこの酸化鉄である。現在でも砂浜で永久磁石を砂中にいれれば十分に視認することが出来る。羅針盤の指針を磁化することなどに用いられてきたが、非常に微弱な磁石である。20世紀に入ると、実用に十分な強度を有する磁石が人工的に作られるようになってきた。
[編集] 種類
永久磁石の原料として、3d遷移元素の鉄、コバルト、ニッケルが挙げられる。単体が室温で強磁性を示すのは、これら3つの元素のみである。さらにランタノイドのサマリウム、ネオジムも磁石の原料として挙げられる。単体では強磁性を示さないが、4f軌道に余ったスピンが存在するため、これらを原料とすることで強力な磁石が実現できる。なお、4f軌道電子はスピンと共に軌道運動も磁性に寄与している。
- アルニコ磁石
- アルミニウム、ニッケル、コバルトなどを原料とした磁石である。20世紀半ばまで主流の磁石であったが、やがて安価で造形の容易なフェライト磁石などに主役の座を奪われた。
- KS鋼
- 1917年、本多光太郎らによって発明された磁石鋼。鉄、コバルト、タングステン、クロムなどを含む。1934年には新KS鋼が開発されている。
- MK鋼
- 1931年に三島徳七によって開発された磁石。鉄とニッケルに加えアルミニウムを含み、鋳造後600℃以上で焼き戻す。KS鋼よりも安価で、倍の保持力を持つ。U型磁石、棒磁石、ゴム磁石(弾磁石)、丸磁石、玉磁石など色々な形のものがある。
- フェライト磁石
- 酸化物磁石の一つで、酸化鉄を主原料にして焼き固めて作る。
- 酸化鉄にバリウムやストロンチウムを微量加えたものを焼き、1μmほどの粒子に粉砕したものを成型し焼結する。酸化鉄を主原料としているため安価かつ化学的に安定しており、様々な用途に用いられている。
- 若葉マークに使われているゴム磁石はフェライト磁石を砕いてゴムに混ぜて固めたもの。ゴムが主成分なので容易に切断することが可能。コピー機にはゴム磁石でできたロールが使われている。
- サマリウムコバルト磁石
- サマリウムとコバルトを原料としている。組成比の異なる「2-17系」と「1-5系」がある。「1-5系」は高価なサマリウムの比率が高いため、「2-17系」の登場以降あまり用いられなくなってきた。強い磁力を持ち、高い耐腐食性と良好な温度特性(200℃程度まで使用可能)を有することが特徴である。
- ネオジム磁石
- ネオジム、鉄、ホウ素を主成分とする希土類磁石の一つ。1984年、住友特殊金属(現・NEOMAX)の佐川眞人によって発明された。磁束密度が高く、強い磁力を持つ。鉄を含み錆びやすいため普通は表面に鍍金を施す。熱減磁が大きく-0.12%/K程度。キュリー点は約310℃。非常に磁力が強いため、ハードディスクやCDプレーヤーの駆動部分、携帯電話の振動モーターなどに使用される。