杉本博司
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杉本博司(すぎもと ひろし、1948年2月23日 - )は日本の写真家。東京およびニューヨークを活動の拠点としている。その作品は厳密なコンセプトと哲学に基づき作られており、技術的にも、8×10の大判カメラを使い照明や構図や現像なども完璧な仕上がりは評価されている。
立教高等学校、立教大学経済学部卒業。1970年に渡米しロサンゼルスのアート・センター・カレッジ・オブ・デザインで写真を学んだ。1974年にニューヨークに移り、奨学金を得ながら写真作品を制作した。この時期、生活のために古美術商を兼業し、ニューヨークと日本を往復しながら古美術品を買い販売する生活を10年ほど続けた。この経験もあり現在に至るまで日本の古美術の収集を続けており、日本の古代からの美術・建築・文学などに対する造詣も深い。
1976年に『ジオラマ』シリーズを制作し、以後『海景』『劇場』『ポートレート』『蝋人形/恐怖の館』『陰翳礼讃』『建築』など今日まで制作が続くシリーズを発表し続けている。
1977年東京の南画廊で初個展。1981年にはニューヨークのソナベンド・ギャラリーで個展。2001年にはハッセルブラッド国際写真賞を受賞、欧米など世界各地の美術館で個展を開催している。また内装、能舞台、神社など建築に関する作品も手掛けている。
[編集] コンセプト
彼が渡米した時期のアメリカでは、メディアにおける映像の氾濫により現実が変容した状況が指摘され、「あるがままの世界」を写すというストレートフォトグラフィの失効やピクトリアリスムの再評価が主張されるなど、写真においてもモダニズムが問い直されポストモダニズムが勃興する時期だった。彼は構図や照明の計算により絵画的な画面を実現しピクトリアリスムに接近しているが、一方で「ポストモダン時代を経験したポストモダン以前のモダニスト」を自任するなどモダニズムの立場に立ち続けている彼は、写真には嘘をつかせないというモダニズムの倫理を守ろうとしている。また「真実らしさで満ちている世界で、写真が真実を写し出すことはない」としつつ、個人の存在を超えた時間の積み重なりや流れをとらえるためのコンセプトや方法を模索している。
最初のシリーズの『ジオラマ』ではニューヨークのアメリカ自然史博物館の古生物や古代人を再現したジオラマを撮った。精巧なジオラマを本物に見えるよう注意深く撮ったシリーズは、「写真はいつでも真実を写す」と考えている観客には一瞬本物の動物や古代人を撮ったように見えてしまう。1999年からのシリーズ『ポートレイト』では偉人たちや有名人たちの蝋人形を、16世紀の絵画をほうふつさせる照明で撮影し、あたかも生きた本人を撮影したかのような作品に仕上げた。これらのシリーズは迫真性をもって撮りながらその写すものは偽物であるという一方で、時間を超えた存在を写すという主題にもつながっている。
彼の作品シリーズは、厳密なコンセプトを立ててそれを実現するというコンセプチュアル・アートの影響のあるものである。『海景』のシリーズは「海を最初に見た人間はどのように感じたか」という問題提起を最初に立て、世界各地の海を撮影した。大判カメラですべて水平線が中央にくるように撮影された白黒写真のシリーズは、同じ構図を延々と繰り返し制作することにより個別の海という同一性を奪われる。闇の中の一本の和蝋燭が燃え尽きるまでを露光した『陰翳礼讃』は光の帯と影だけという写真の最小限のものだけを写し取った。『劇場』シリーズは映画を撮影したもので、アメリカ各地の古い劇場やドライブインを訪れ、映画上映中の時間フィルムを露光し、結果真っ白になったスクリーンとスクリーンに照らされた劇場内部が写った。時間の経過によって、映画という「嘘」が光に蒸発したさまが撮られている。『建築』では世界の記念碑的なモダニズム建築を、焦点を無限倍にして撮影し、夾雑物が取り除かれた建築の霊のような姿が撮られた。『関数模型』では、芸術的野心なく純粋な合理的思考を形にした模型を撮影している。
[編集] 参考文献
- 『苔のむすまで』新潮社、2005年、ISBN 4-10-478101-0
- 『杉本博司の空間観』、季刊アートイット第9号
[編集] 外部リンク
- official webpage
- Culture Power 杉本博司インタビュー
- Hiroshi Sugimoto KultureFlash interview May 2005
- 2006 Virtual Exhibition at the Hirshhorn
- Interactive web catalogue for "Hiroshi Sugimoto: Photographs of 'Joe' " at the Pulitzer Foundation for the Arts
- Hiroshi Sugimoto at Gagosian Gallery
- Listing at Luminous Lint