映画の著作物
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映画の著作物(えいがのちょさくぶつ)は、主に著作権保護に関する条約や法律における用語であり、著作権の保護対象となる著作物のうち、劇場映画作品その他動的な映像表現を伴う著作物を、他の一般著作物と区別して言い表すために使用される言葉である。映画の著作物は、その創作過程および流通過程に他の著作物にはない特徴をもつことから、その著作権の性質を規定する特別な条項が、条約および各国の法律にみられる。
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[編集] 概要
一般の劇場用映画作品に加えてテレビ番組、ビデオグラム、コマーシャルフィルムなどがこれに該当する。映画の著作物には頒布権という、たとえ著作物(正確には、著作物を収容している記録媒体)が譲渡された後であってもその転売や賃貸、上映等については著作権者の承諾を必要とするという強力な権利が与えられている。
- これは、映画産業の業界慣行として古くから映画館に映画会社が上映用フィルムの譲渡(配給)を行うという商慣習があり、仮に頒布権を認めなければプリントされたフィルムの転売や映画館同士での融通行為が行われてしまうおそれがあるため、上映用フィルム譲渡後においても映画会社がプリントフィルムの中古転売や賃貸等を規制できるようにすることができるよう認められた規定であった。また、映画の著作物は、他の著作物と比較して製作にかかる費用が巨額であり関わる人員も大勢いることから権利保護の要請も高かったことも別途規定が設けられた要因と考えられる。
- あるいは、上映用フィルム自体は動産であるため、民法第192条の規定による即時取得が認められる可能性がある。しかしながら、映画の著作物としてこれを上映するには、頒布権に基づく著作権者の承諾が必要となる。すなわち、何らかの方法で上映用フィルムを正当に入手したからといって、勝手に上映会を開催することはできない、ということになる。
- 同様に、家庭用として販売されているビデオテープやDVD等を使って上映会を開催するには、たとえビデオテープ等の正当な所有者であったとしても、著作権者の承諾が必要となる。
しかし、最近では多様な動画コンテンツが「映画の著作物」であるか否かで頒布権が付与されるか否かが決まることもあり、映画以外のコンテンツ製作者が中古市場等を管理するため、自らのコンテンツを映画の著作物に含めるべきと主張し注目を集めるようになっている。著作権法上、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物」も映画の著作物に含むとされていることから(2条3項。以下、特に断らない限り、引用法令は日本のもの)、映画作品を収めたビデオテープ・DVD等のパッケージソフトや、ゲームソフトなども映画の著作物にあたるとする見解も示されている。
- ただし、裁判の結果「映画の著作物」に当たらないとされたゲームソフトも存在する点には注意が必要である。「三国志III」事件・控訴審(東京高裁・平成11年3月18日判決)では、1992年発売のシミュレーションゲーム作品(頒布形態は5.25インチFD3枚)について争われたが、画面の大半が静止画像であり、連続的な動きを持った影像はほとんど用いられていなかったことから、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる」ものとは認められなかった。
[編集] 映画の著作物に特有の規定
[編集] 著作者
映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。 |
「映画の全体的形成に創作的に寄与した者」とは具体的には、映画プロデューサー、映画監督、演出家、撮影監督、美術監督等が該当する。
[編集] 著作権の帰属
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原則として「映画製作者」(映画の著作物の製作に発意と責任を有する者。2条1項10号)に帰属することにされている。
現在の映像作品の多くは、製作費を出資するテレビ局などの製作会社と、作品の制作を受注する制作会社とに分かれていて、制作会社・制作者には著作権が与えられず二次使用料を受け取れないことが制作側の経営や生活を苦しくしているとの批判がある(放送利権も参照のこと)。
[編集] 頒布権
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頒布権(有償無償問わず、映画作品を販売、貸与、譲渡する権利)は、映画の著作物の著作権者にのみ認められた権利である。
よって、下記の行為は罰せられる。
- 著作権者に無断で海外から映画作品(ビデオやDVDを含む)を輸入・頒布した場合。
- 販売専用作品をレンタルする等、著作権者が定めた方法以外で頒布した場合。
[編集] 保護期間
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映画の著作物の保護期間を、著作者の死亡時ではなく、映画の公表時から起算することとしたのは、映画が様々なスタッフによって製作される総合芸術であるため、自然人である著作者を過不足なく確定することが困難であるからである。
2003年の著作権法改正までは保護期間は50年とされていた。なお改正前に保護期間が切れたものについては改正後も改めて保護の対象とされることはない。この改正の端境期にある作品において保護期間が切れたかどうかに見解の相違が存在したことについては、1953年問題を参照のこと。
[編集] ゲームソフト
[編集] ゲームソフトの頒布権
ゲームソフトの頒布権については、ゲームソフト製作会社のカプコン、コナミ、ナムコ、スクウェア、ソニー・コンピュータエンタテインメント、セガ・エンタープライゼスと中古ゲームソフト販売業者のライズ、アクトが、中古ゲーム販売をめぐって争った事件についての最高裁判例(2002年4月25日)がある。この事件では、映画の著作物に認められた頒布権に基づいて、著作権者が中古ゲームソフト販売の差し止め請求を行なうことが出来るかどうかが争われた。
過去の判例において、ナムコの営業用ビデオゲーム機『パックマン』やコナミのプレイステーション用ソフト『ときめきメモリアル 〜forever with you〜』などのゲームソフトを映画の著作物とする判例が存在することから、製作会社側は「ゲームソフトは映画の著作物であり、頒布権が認められる」と主張。それに対し、中古ソフト販売業者側は「インタラクティブ性(ユーザー操作により毎回異なったストーリーや画面を表示)を持つゲームソフトは映画の著作物ではない」と主張した。
判決では、対象ソフト全て(『バイオハザード2』『ツインビーRPG』『鉄拳3』『パラサイト・イヴ』『グランツーリスモ』『ワールドカップ98フランス 〜Road to Win〜』)について、インタラクティブ性は事前にプログラムされた範囲内のものであるとし、「著作権法2条3項に規定する『映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物』」であり映画の著作物と認められるとした。
しかし、映画の著作物に頒布権が認められているのは、映画が配給制度の下、劇場で上映されるものであることを前提としているためであり、ゲームソフトは「公衆に提示することを目的としない」もので、「いったん適法に譲渡された」(新品ソフトが消費者に販売された)時点で著作権者が持つ頒布権の内の譲渡する権利は「消尽」し、中古ソフトとして再譲渡や販売を行なうことを著作権者がコントロールすることはできないものと判断された。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 最高裁判所第一小法廷判決平成14年4月25日PDF - 「映画の著作物」と見なされたゲームソフトの頒布権についての判例