仕掛人・藤枝梅安の登場人物
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仕掛人・藤枝梅安の登場人物(しかけにん・ふじえだばいあんのとうじょうじんぶつ)は、池波正太郎の小説『仕掛人・藤枝梅安』に登場する人物の一覧。
- 藤枝梅安
- 主人公。表の顔は鍼医者であるが、裏の顔は凄腕の仕掛人。詳細は藤枝梅安の項を参照。
- 彦次郎
- 梅安の親友兼相棒。年齢は40歳くらい。浅草で房楊枝作り職人として暮らしており、その品質も良いことから町の評判もあるのだが、裏の顔は吹き矢を得意とする仕掛人で、その世界では梅安と共に名を知られている。以前は妻子ある平凡な町人だったが、無頼の浪人に目前で妻を強姦され、そのせいで心を病んだ妻が子供を道連れに自殺したことをきっかけに仕掛人稼業に足を入れた。梅安の協力を得て妻子の仇を倒した後は、梅安に絶対の信頼を寄せ、彼のサポートを務めることが多くなった。掟に反した「蔓」の田中屋久兵衛を梅安と図って暗殺するなど、時として行動は大胆である。梅安と共に白子屋を敵に回した件で浅草の自宅を失い、以降は品川台町の梅安宅で暮らしている。もともとは短編「梅雨の湯豆腐」の主人公であり、同作品のラストで敵と差し違えて命を落としたが、「梅安」では何事もなかったように復活し、梅安の相棒として活躍した。
- 小杉十五郎
- 梅安の親友である浪人剣士。千住の遊女の家族の仇を討とうとして偶然梅安と知り合う。もともと三ノ輪に暮らしており、牛堀九万之助の牛堀道場のもとで客員ながら師範代を務めていたが、師である九万之助が亡くなるときに小杉を跡目に指名したことから、跡目を狙っていた大身旗本の子弟らに襲われ、結果的に多数の武家人を斬り殺すこととなる。このため江戸でお尋ね者になってしまい、梅安の計らいで大坂の白子屋のもとに逃れたが、当初白子屋は梅安と「仕掛人にはしない」という約束をしていたのにもかかわらず、白子屋が小杉を仕掛人として使ったことから梅安と白子屋が全面的に対立、その後は梅安側に立ち助けている。山城屋伊八との抗争の際に、師匠の師匠である浅井新之助(為斎)と出会い、その縁から松平定信の食客として仕えるようになる。律儀な性格である。余談だが、彼の師匠である牛堀九万之助は元々は同じ池波正太郎の作品『剣客商売』シリーズの登場人物である。
- おせき
- 梅安の身の回りの世話をしている近所の百姓の女房。
- おもん
- 料亭「井筒」で働く30代の女中。夫に死なれてからは一人息子を育てるため井筒で働いている。梅安の情事相手だが、肉体関係以上へは進展していない。「井筒」主人が隠居した後は女主人として活躍する。
[編集] 元締(蔓)
- 音羽の半右衛門
- 表稼業は音羽の料亭「吉田屋」の主人で、裏稼業は小石川一帯の香具師であり仕掛人の元締。年齢40代後半で、小柄で身長も低く、原作上では「矮躯」「好々爺」などと表現されている。妻おくらは身長六尺(約180センチ)もある大女で、半右衛門が駕籠に乗るときにはおくらが抱え上げて駕籠に乗せてやったり、酔って外から帰ってきた夫を抱っこして布団に寝かしつけるなど、描写も面白い蚤の夫婦。しかし元締としての器は大きい。西村左内や峠の千蔵、半田の亀蔵といった仕掛人・密偵を手駒に持つ。もともと「殺しの掟」「強請」「顔」など梅安以外の池波正太郎作品に登場した元締だったが、テレビ版「必殺仕掛人」に登場したことから、その人気を受けて原作「梅安」に逆輸入されたキャラクター。「梅安」以外の作品では、仕掛けをためらう仕掛人の子を誘拐して仕事を強要したり、冷酷な一面を覗かせる怪爺として描かれていたが、「梅安」シリーズでは登場する元締として最も人格のある人物として登場、物語後半は江戸進出を企む白子屋と対立し、梅安側についてサポートを行った。
- 赤大黒の市兵衛
- 赤坂、田町の桐畑一帯の娼家を仕切る顔役。梅安に妹お吉の仕掛を依頼した人物。「梅安」以外の作品「梅雨の湯豆腐」にも登場する。
- 札掛の吉兵衛
- 本郷から下谷一帯を仕切る香具師の元締。梅安に度々仕掛けを依頼した人物。
- 萱野の亀右衛門
- 目黒・渋谷・麻布を仕切っていた香具師の元締。現在は隠居し、目黒の碑文谷に妻おさいと共に農業を営む老人。昔のしがらみで梅安に仕掛けを依頼することがある。
- 羽沢の嘉兵衛
- 本所・両国一帯を縄張りにしている香具師の元締。第一作「おんなごろし」で部下の五名の清右衛門を通じて梅安に仕掛を依頼した。『梅安』以外にも『鬼平犯科帳』シリーズや『剣客商売』シリーズ、その他多数の池波正太郎の作品にも度々登場している。
[編集] 白子屋一味
- 白子屋菊右衛門
- 大坂から京都にかけての香具師の元締で、池波正太郎の別作品「鬼平犯科帳」にも登場する。梅安と相互に信頼も厚い人物で、牛堀道場の跡目事件で江戸を追われた小杉十五郎を保護するなど信頼出来る人物として描かれていたが、後に梅安との約束を破って小杉を仕掛人として使おうとしたことから両名と対立し、己の威信に賭けて梅安抹殺を企んだ、本作最大の仇敵。尾張柳生など様々な刺客を送り込んだ。さらには江戸進出を目論み、江戸最大の元締である音羽の半右衛門と対立する。後に自ら江戸に自ら乗り込んできて陣頭指揮を執ろうとしたところ、大胆にもアジトに乗り込んできた梅安によって殺された。
- 山城屋(笹屋)伊八
- 江戸・神田明神下で旅館「山城屋」を営む男だが、白子屋の腹心。山城屋の店は白子屋の江戸におけるアジトだった。白子屋が暗殺された後は千住大橋の船宿「笹屋」の主人となり白子屋の仇討ちに燃えるが、最期は梅安と小杉の一計によって倒される。
- 切畑の駒吉
- 大阪における白子屋の腹心で、白子屋亡き後の実質的な後継者。仇討ちのため様々な刺客を江戸に送り込んだ。後に白子屋同様江戸進出を狙い、障害となる音羽の半右衛門を暗殺しようと企む。
- 鵜の森の伊三蔵
- 白子屋が梅安暗殺のために送り込んだ刺客。患者に化けて梅安への騙し討ちを狙い、あと一歩だったが失敗。後に老女に化けて再度梅安を狙ったが返り討ちにあった。
- 北山彦七
- 白子屋が梅安暗殺のため送り込んだ刺客。男色で同じく白子屋の手の者である田島と関係を持つ。白子屋が江戸に来た後は彼の身辺警護を行っていたが、山城屋に梅安が乱入した際、すでに梅安側に付いていた田島と差し違える形となって死亡。
- 田島一之助
- 白子屋が梅安暗殺のため送り込んできた若い刺客。辻斬りしながら江戸へ向かうなど冷酷な若者だが、途中で猛烈な腹痛を起こして苦しんでいたところを偶然旅途中だった梅安本人に助けられ、以後梅安に恩義を感じて彼の身を守ろうとする。最後は山城屋に単身乗り込んだ梅安を救うため(結果的にそうなってしまった)、北山彦七と差し違えて死亡。
- 三浦十蔵
- 駒吉が送り込んだ刺客。小細工をせず真正面から責める剣客で、梅安の自宅に堂々と突入して襲った。梅安をあと一歩まで追いつめるが、偶然帰宅した小杉のせいで失敗し、以後梅安自宅直近で内偵を行っていた(作者急逝のためその後が描かれていない)。
- 石墨の半五郎
- 駒吉が梅安暗殺のため三浦十蔵と共に送り込んだ刺客。三浦とは別行動を執り、患者の振りをして梅安に接近し不意打ちで暗殺しようと目論むが、実は以前に同じ手で伊三蔵が失敗していたことを知らなかったため、警戒していた梅安に簡単に気取られてしまいあっさり返り討ちに遭ってしまった。
- 平尾要之助
- かつて白子屋の護衛だった平尾源七の弟で、駒吉によって江戸に送り込まれた刺客。兄の仇を討つために梅安を狙うが、実はは梅安が白子屋を討ち取った際の混乱で梅安に与していた田島一之助によって殺されていたことは知らない。だが梅安宅を襲わんとしたとき、居合わせた浅井為斎に傷を負わされ、さらに梅安に腕を折られてしまう(作者急逝のためその後が描かれていない)。
- おしま
- 音羽の半右衛門の密偵で、山城屋の情婦として潜入しており、さらに山城屋亡き後は平尾要之助に接近して内偵を進めるも、彼らに情が移り翻身、梅安らの敵に回ってしまった。