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交響曲第8番 (ブルックナー) - Wikipedia

交響曲第8番 (ブルックナー)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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アントン・ブルックナー交響曲第8番ハ短調は、ブルックナーの交響曲のみならず、古今の交響曲における最高傑作に挙げられることもある名作である。演奏時間にして80分を越す長大な曲であり、後期ロマン派音楽の代表作に挙げられる。


目次

[編集] 作曲の経緯

作曲が開始されたのは1884年7月で、交響曲第7番の初演準備をしていた期間である。第8番は作曲が進められ、1887年に完成する(第1稿)。

ブルックナーは指揮者ヘルマン・レヴィに交響曲の完成を報告した。手紙で、第8番の完成を「私の芸術上の父」レヴィに報告したいと述べられている。レヴィがブルックナーからこれほどの敬愛を受けるようになったのは第7番のミュンヘン初演を成功させ、この作品をバイエルン国王ルートヴィヒ2世に献呈するというブルックナーの希望を実現させたためだった。

レヴィは第8番にも関心を示した。しかしブルックナーから送られた総譜を読むと、「演奏不能」と感じた。

レヴィはブルックナーの弟子であるフランツ・シャルクを通して「演奏不可能だ」との返事を送った。ブルックナーはひどく落胆したが、第8番の全面改訂を決意する。ブルックナーは他の作品にも大規模な改訂を施し始める。交響曲第4番第3番が改訂された。

第8番に関しては1889年3月4日から5月8日にかけて第3楽章から改訂され、続いて第4楽章の改訂が年7月31日まで行われ、さらに第2楽章スケルツォが改訂され、そして第1楽章、1890年3月10日に改訂は終了した。

これが「1890年・第2稿」であり、現在の演奏はほとんどこの稿を採用している。

[編集] 楽器編成

(*)3番ファゴットは第1・4楽章でコントラファゴットに持ち替える。
(**)5~8番ホルンは第1・3・4楽章でワグナーチューバに持ち替え、テノールとバスを各2本使用する。

なお「1887年・第1稿」では、第3楽章までは2管編成で書かれ、第4楽章で初めて3管編成となる。その他3番フルートが第3・4楽章でピッコロに持ち替える。

[編集] 楽曲の構成

[編集] 第1楽章

Allegro moderato

ハ短調。2/2拍子。3つの主題を持つソナタ形式。(注意:解説は、ノヴァーク版第2稿に基づく。)

弦楽器トレモロで始まり、低弦に重苦しく悲劇的な第1主題が現れる。第1主題のリズム・動機は全曲を支配する。第2主題はト長調、楽譜にも breit und markig (明るく、はっきりと)という発想がある叙情的な主題である。この主題も転調を繰り返す。

オーボエの経過があり、第3主題は変ホ短調、弦楽器のピチカートで示される。せわしない動きの後に、強烈な下降音型が登場する不気味なものである。提示部は124小節からの変ホ長調の壮麗な全合奏により終わる。提示部では主調であるはずのハ短調の要素は少なく調的に不安定である。

展開部は第128小節から始まり、第1主題が模倣され、第1主題・第2主題が下向きに反転された形で展開されるが、ここは短い。反転された第2主題のブルックナー・ゼクエンツを繰り返した後、第225小節で2つの主題を重ねた激しく不協和なfffに達する。

長めの経過句があり、再現部は第291小節から第1主題が登場するがかなり変形され短い。第2主題と第3主題は型どおりに再現される。第369小節で第1楽章のクライマックスが訪れ、金管楽器群によってハ音が繰り返される。ブルックナー自身は、この信号のような強奏を「死の予告」と説明した。

それが静まり、第393小節から第1主題が消え入るような形で第1楽章を締めくくる。ブルックナー自身はpppのコーダを「あきらめ」と説明した。


[編集] 第2楽章

Scherzo. Allegro moderato

ハ短調、3/4拍子、A - B - A の3部形式。スケルツォ主部(A)とトリオ(B)もそれぞれ3部形式を取るため、このスケルツォ楽章は複合三部形式となる。

スケルツォ主部(A)の主要主題を、ブルックナーは「ドイツの野人(ミヒェル)」と説明した。この架空のキャラクターを通して、ブルックナーはこのスケルツォ楽章について多くの説明を試みている。「野人(ミヒェル)」とは“鈍重な田舎者”の意味合いが込められたものと言われている。

トリオ(B)は変イ長調、2/4拍子に変わり、 Langsam (ゆっくりと)の演奏標語がある。ブルックナーによれば、このトリオは「野人(ミヒェル)が田舎を夢見る」となっている。トリオではハープが大きな役割を果たすが、ノヴァークはハープを「できれば3台」の指示がある。トリオの第45小節から始まる中間部の最後、第57小節-第60小節にある低弦の旋律は「野人の祈り」を指しているという。

このトリオは「1887年・第1稿」から「1890年・第2稿」への改訂過程で、大幅に書き直されたものである。「1887年・第1稿」ではハープが使用されていない。

やがてスケルツォ主部(A)が戻り、第2楽章を締めくくる。

[編集] 第3楽章

Adagio. Feierlich langsam, doch nicht schleppend

変ニ長調、4/4拍子“Feierlich langsam, doch nicht schleppend”(荘重にゆっくりと、しかし引きずらないように)。A - B - A - B - A の5部形式。どちらの主題も2つの要素から構成され、より細かく A1・2 - B1・2 - A1 - B1・2 - A1・2 と図示できる。

第1主題(A)は第3楽章の冒頭で、 A1 の主要旋律は第1ヴァイオリンによって提示される。最初に A2 の要素が登場するのは第21小節で、ハープが登場し、上昇型のアルペッジョ分散和音)を奏でる。2つの主題要素がもう1回繰り返される。

第47小節から第2主題(B)に入る。B1 の主題はチェロで2回繰り返され、B2 の主題はワグナーチューバによって演奏され、第67小節から始まる。第81小節で一時的に3/4拍子に変わりA1 の主要旋律が木管楽器群により変ロ短調で演奏されて、音楽は次の部分へと移行する。

第1主題の再現は、第95小節から始まる。激的な転調へと続き、ハープを伴う A2 の要素は登場しない。ここは短く、第129小節から副次主題の再現に移るが poco a poco accel. (少しずつ、だんだん速く)の速度標語があり、調性を多少変える形で、2つの主題要素 B1 - B2 は前とほとんど同じ形で再現される。これが静まると、ヴァイオリンヴィオラによるピチカートをバックにした経過句を経て、すぐに次の部分へと移行する。

第1主題の2回目の再現は第185小節から始まり、楽譜は12/8拍子の記譜に変わる。ここにも a tempo (wie anfangs) の速度指示があり、終始、弦楽の6連音符に支えられて進行し、第205小節で一斉に第1主題主要部を強奏する。この時点で弦五部はバックグラウンドの6連音符を担当し、他の楽器によるトゥッティが変ロ短調で第1主題を奏でるが、弦五部だけによる静かな経過部分があり、やがて突然の休止により途切れる。(第226小節)

流れを再開し、第239小節でシンバルトライアングル、ハープも加わって最高潮を迎える。ここには Etwas bewegter (やや動きを加えて)の指示もあり、文字通り第3楽章最大のクライマックスを構成する。2回目の再現では A2 の部分も戻る。ハープがフェルマータで止まった後、4小節の経過句を経て、第259小節からコーダに入る。


[編集] 第4楽章

Finale. Feierlich, nicht schnell

ハ短調、2/2拍子。ソナタ形式

弦五部が前打音つきの4分音符を連打する中から、第1主題が金管のコラールと、トランペットファンファーレで奏でられる。コラールのようなこの第1主題は、ブルックナー自身によれば「オルミュッツにおける皇帝陛下とツァーリの会見」を描いたものであり、「弦楽器はコサックの進軍、金管楽器は軍楽隊、トランペットは皇帝陛下とツァールが会見する時のファンファーレを示す」。

休止が置かれ、弦楽器を主体とする第2主題が変イ長調で始まる。その途中(第93小節以後)から、交響曲第7番で用いられたモチーフが取り入れられる。

第3主題は変ホ短調のジグザグとした旋律でこの主題には nicht gebunden (音をつながずに)という標語もある。

第3主題が休止で中断すると、159小節からホ長調のコラールが入る。すぐに第1主題の荒々しい行進曲「死の行進」が入る。この後ソナタ形式の展開部に入るが、ほとんど第3主題と第1主題の交替で進む。

再現部は第437小節から始まり、第2主題は第547小節から、第3主題がハ短調で再現される。これは短く、すぐに第1楽章の第1主題が第617小節から全合奏で再現される。再び第3主題のリズムと交代しながら、コーダへと移行する。

コーダは第647小節から始まる。第1・第2ヴァイオリンが上昇音型を始め、テノールチューバが荘重さを強める。まず最初に、第679小節からホルンによって第2楽章のスケルツォ主題が戻ってくる。やがてハ長調で、全4楽章の4つの主題の音形が重ね合わされる。第1楽章の主題はファゴット、第3・第4ホルントロンボーン、ヴィオラ、コントラバス、バス・チューバが、第2楽章の主題はフルートクラリネット・第1トランペット、第3楽章の主題はヴァイオリンと第1・第2ホルンが、そして第4楽章の主題要素は第1楽章のものと織り合わされて、全曲を力強く締めくくる。これが「闇に対する光の完全な勝利」と称賛されるゆえんである。

[編集] 版問題

作曲者自身による作曲・改訂の経緯からみると、この曲はまず1887年に完成され、のち1890年に改訂されたと言われている。前者を1887年版または第1稿、後者を1890年版または第2稿と称する。

それとは別に、出版の経緯から見ると、次のようになる。まず第2稿を元に、ブルックナーの弟子であったヨーゼフ・シャルクが手をいれたものが出版された(1892年)。これは「初版」または「改訂版」と称される。次に第1次全集としてハース版が出版された(1939年)。出版当初は単に「原典版」とも称されることもあった。その後第2次全集として、第2稿に基づくノヴァーク版(ノヴァーク版第2稿、1955年)、さらに第1稿に基づくノヴァーク版(ノヴァーク版第1稿、1972年)が出版された。

ハース版は第2稿を基にして校訂された楽譜であるが、ノヴァーク版第2稿と比べると第3楽章・第4楽章では多くの相違点がある。第3楽章では1箇所の相違があり、ハース版は他のものより10小節長い。第4楽章は問題が複雑になり5つの相違がある。これらは、ブルックナーの自筆楽譜で第1稿から第2稿に改訂する際に「×」で消された箇所である。ハースはこれらの部分をほとんど復活させたものだが、一方ノヴァークは「×」で消された部分をすべてカットした。ノヴァークはハースの校訂態度を「複数の稿を折衷するものである」と、強く批判した。

第1稿と第2稿を比較すると、全楽章で多数の相違がある。第1楽章は、第2稿は短調のまま静かに終わるが、第1稿には第1主題に基づく長調のフォルティッシモのコーダがあり、明るく力強く締めくくられる。第2稿では削除された経過句やオーケストレーションなどの相違も多い。

なお、第1楽章で、第1稿では139~143小節にトランペットが重なっており、このトランペットは第2稿では採用されていないが初版(改訂版)では採用されている。これをもって、初版に高い正当性を見出す見解を示す意見もある(初版については、弟子が勝手に改竄したと評価されることがしばしばある)。

ハース版出版以前は、もっぱら初版(改訂版)が演奏に用いられた。ハース版出版後しばらくは、ハース版が演奏の主流であったが、現在ではノヴァーク版第2稿の使用頻度が高い。ハース版に対する、ノヴァークの否定的見解も、その一因と思われる。ただし、朝比奈隆ギュンター・ヴァントをはじめ、音楽的な内容からハース版を支持する演奏者も少なくない。

第1稿はめったに演奏されないが、指揮者でこれを録音した人にはエリアフ・インバルゲオルグ・ティントナーウラジミール・フェドセーエフデニス・ラッセル・デイヴィスなどがいる。

なお、第3楽章については、以上の版の他、第1稿・第2稿の間の時期(推定1888年ごろ)に書かれたと思われる異稿が存在する。これは1999年になってはじめてその存在が発見されたものである。現時点で国際ブルックナー協会からの出版には至っていないが、一部のオンラインサイト上でスコアが紹介されている。また、初演(後述)のライブ演奏CDが残されている。

[編集] 演奏時間

演奏時間は、演奏や稿、版により差があるが、いくつかの演奏実例を元に、演奏時間を以下のように紹介する例がある。

  • 第1楽章=14~17分程度
  • 第2楽章=13~16分程度
  • 第3楽章=24~28分程度
  • 第4楽章=21~25分程度

全楽章通して、第一稿が約90分で、第二稿が約82分と紹介する例もある。ここでは国際ブルックナー協会の出版カタログから掲載した。

なおハース版スコアには「約78分」と明記されている。

[編集] 献呈・初演 

  • 第3楽章の異稿(1888年ごろ作曲)については、2004年、東京にて、内藤彰指揮、東京ニューシティオーケストラによって初演された(この異稿楽章を含む形で、交響曲第8番が演奏された)。

[編集] 関連項目

[編集] 参考文献

  • 音楽の手帖『ブルックナー』青土社1981年
  • ブルックナー協会版スコア「交響曲第8番1887年稿」(ノヴァーク版第1稿、1972年出版)の序文(ドイツ語原文Leopold Nowak、英訳Richard Rickett、和訳なし)

[編集] 外部リンク


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