ユニタリ作用素
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数学、特に関数解析学におけるユニタリ作用素(ユニタリさようそ、Unitary operator)とは、複素ヒルベルト空間上の線形作用素の一種で、全単射かつ計量(metric, 長さや角度、内積やノルム)を変えないものをさす。とくに全単射でない場合は等距離作用素といい、区別される。物理学の文脈ではユニタリ演算子(ユニタリえんざんし)と呼ばれる。
[編集] 定義
エルミート内積 (·, ·) を持つヒルベルト空間(必ずしも有限次元でない複素計量ベクトル空間) H 上の全単射な線型作用素 U が内積を保つとき、すなわち φ, ψ が H のベクトルであれば常に
- (U(φ), U(ψ))=(φ, ψ)
が成り立つとき、U をユニタリ作用素という。これはエルミート共役をとる対合 * を用いて
- U * U = UU * = Id
と書いても同じことである。但し Id は恒等作用素である。
[編集] 例
- ユニタリ行列:
有限次元複素計量ベクトル空間 V と通常のエルミート内積を考えると、V 上の線型変換は n 次の正方行列として表される。また、エルミート共役は変換行列の随伴行列として得られる。したがって、変換 M がユニタリであるとは、
- M*M = M M* = E
を満たすような行列のことである(ただし、 E は n 次の単位行列)。これをユニタリ行列と呼ぶ。実ユニタリ行列は実直交行列である。
[編集] 性質
ユニタリ演算子の固有値(あるいはユニタリ行列の行列式の値)は全て、絶対値が 1 の複素数となる。
これは、ユニタリ演算子を行列として固有値問題を考え、固有ベクトルを φ, 固有値を ε とすると、
となる。この時、上式の両辺のエルミート共役をとると左辺は、
- (U*U = 1より)
となり、右辺は、
となる(ε と φ は交換可能)。このため左辺=右辺のためには、ε*ε = 1でなければならず、固有値の絶対値は 1 となる。