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パンク・ロック - Wikipedia

パンク・ロック

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

パンク・ロック (Punk Rock) は、ロックの1ジャンルとして位置づけられる音楽の様式のひとつ。省略してパンクとも呼ばれる。反システムや反暴力、差別の撤廃などを訴える政治的・社会的なメッセージを込めた歌詞が特徴として挙げられる。ハード・ロックプログレシブ・ロックなどに代表される、極度に理論的、テクニック主義偏重となっていったロックへの反発を基盤に「反社会」の象徴になっていきニューヨークを原初に発展していくこととなる。

ビートルズなどを経てさまざまなミュージシャンアーティストの試行錯誤により音楽的に高度化、洗練された1970年代頃のロックの楽曲は、すでに難解な音楽理論を必要とするものが多くなっていた。ロックの持つ元来の精神性は、若者社会への主義主張が多くを占めていたが、速いテンポでの音数の多いギターソロなどに代表される高度な演奏技術をも使う楽曲を、昨日今日に楽器を始めた若者に演奏できるはずもなく、さらにロックミュージシャン達の軒並みの高年齢化、商業主義による精神性の形骸化も進み、それら若者の主義主張、社会批判手段としてのロックの側面は薄れていく。後にニューヨークから英国へブームメントが飛び火しロンドン・パンクが商業的成功をおさめ、世界的に音楽のみならずファッション面や思想面でも大きな影響を与えた。

日本のパンクバンドについては、日本のパンク・ロックの項へ。

目次

[編集] 音楽的特徴

演奏テクニックや理論を重視する音楽に対する反発から、スリーコード中心のシンプルな曲調を基本とし、テクニックよりも勢いを重視した攻撃的な演奏がメイン。この特徴はパンク・ロックの前に勃興したグラムロックの手法を受け継いでいる面もある。ミドルからやや速めのテンポの曲が多い。また、ブルーズからの影響がまったく感じられないのが、前世代のロックンロールとの最大の差異である。 ボーカル・スタイルとしては、ロックの肉体性を否定するかのような無気力でルーズな唱法が主流。おそらくジョニー・ロットンからの影響が大きく、そのスタイルはバスコックスからジャームスに至るまで散見される。 一般にイメージされる激しいシャウトやダミ声は、主にハードコア・パンク以降のもの。

[編集] 思想的特徴

くしくも、ジョン・ライドンが「思想的アナーキーではなく音楽的アナーキーだ」「僕は決して反キリスト者ではない。むしろその対極の人間だ」と語ったように、そもそも、パンク・ロックの成り立ちにおいては、明確な思想的・政治的な背景があったわけではない。 ニューヨーク・パンクに顕著であるが、音楽的な反骨精神、既存のロックへの反発が、パンク成立の底流にあったと言える。

パンク・ロックの定義に関して、重要視される精神性が後づけされたのは、80年代のハードコア・パンク以降といってよい。その精神の内容は反社会性と自主性である事が多く、アナキズムとの結びつきが強い。DIYDo It Yourself=自分達でやる)という言葉がしばしば標語として掲げられ、マネージメントに依存しないアーティストの自主性が重要視される傾向にある。代表例としては、半自給自足の共同生活を行ない、後のハードコア勢に多大な影響を与えたクラス、自らレーベル「ディスコード」を立ち上げて一切のマネージメントを自ら受け持ったイアン・マッケイ(フガジ、元マイナー・スレット)などが挙げられる。しかし、1980年代以降、反社会性やDIY精神を主題としないパンク・ロックバンドも数多く登場し、そういう面ではパンク・ロック黎明期の状況に戻りつつあるといっていいだろう。

[編集] 歴史

[編集] ニューヨーク・パンクの誕生

パンクのゴッドファーザー、イギー・ポップ
パンクのゴッドファーザー、イギー・ポップ

ニューヨーク・パンクは、1960年代中期から後半にかけてアンダーグラウンドで活躍したガレージロック(オリジナル・パンク)バンド(MC5ヴェルヴェット・アンダーグラウンドイギー・ポップ&ザ・ストゥージズなど)やニューヨーク・ドールズから派生したものである。 ただし、当時はニューヨークで活動するアンダーグラウンド・ロック・バンド全般が十把一絡げにニューヨーク・パンクと呼ばれていたきらいがある。後世への影響云々で判断すればラモーンズ、ジョニー・サンダース&ハートブレイカーズあたりが厳密な意味でのニューヨークのオリジナル・パンクと呼べるだろう。 ラモーンズ、テレヴィジョンなどのニューヨーク・パンク勢はその音楽的な影響の強さにも関わらず、決して世界的な商業的成功を得ることは出来なかった。ポップ色の強いブロンディ、ワールドミュージックに傾倒したトーキング・ヘッズなどニューヨーク・パンクから派生したニューウェーブバンドの一部が、一定の商業的成功をおさめたにとどまる。

[編集] ロンドン・パンク興隆

このニューヨークでのアンダーグランドの動きに注目したのは海の向こうの英国である。ラモーンズのロンドン公演などを機に、ロンドンを中心にニューヨーク・パンクを模倣したバンドが多数結成されるようになる。ロンドン・パンクの特徴としては、初期のロックンロールが持っていた攻撃的で反社会的な面や、スリーコード中心の曲調、前衛的な歌詞などが挙げられる。また、その少し前の時期に流行っていたパブロックといわれる音楽もロンドン・パンクに大きな影響を与えている。ファッションにも影響を与え、破れた細いジーンズ、古Tシャツ、革ジャン、よれよれのジャケットなどが若者の間で流行した。イギリスで最も大きな成功を収めたのはストラングラーズセックス・ピストルズであるが、この2大バンドのアメリカ進出は成功とはいえなかった。むしろ後発のクラッシュがアメリカではそれなりの成功を収めた。

ストラングラーズは、1974年ロンドンで結成される。完全に当時の流行を無視した短い髪、細いズボン、短いギターソロ、攻撃的な歌詞と音楽。彼らの斬新さはニューウェーブと呼ばれ次第に人気がでるようになり、アイスクリームバン(アイスクリーム販売用のバン)に楽器を載せ、イギリス中で毎日のようにライヴを行った。反体制のシンボルとして右翼団体の襲撃も受けることもあったが、人気はうなぎのぼり、各アルバムをイギリスのトップ5に送り込んだ。70年代当時、イギリスでも日本でも後述のセックス・ピストルズ以上に人気があった。

アメリカに渡り準メンバーとしてニューヨーク・ドールズに関わったマルコム・マクラレン(後にアダム&ジ・アンツ、バウ・ワウ・ワウのマネージャーを勤める)が、ロンドンで、アートスクールの仲間ヴィヴィアン・ウエストウッドの店SEXに出入りしていた若者を集め、店の宣伝のために、1975年セックス・ピストルズが結成された。テレヴィジョンに所属していた(のちハートブレイカーズ〜ヴォイドイズ)リチャード・ヘルのファッションだった破れたシャツ、安全ピン、逆立てた髪を真似、傍若無人な言動を繰り返す彼らはイギリスで話題になり、パンクがアンダーグラウンドから一躍、メジャーなものとなった。それまで大学のキャンパスでしか口にされることのなかった、Anarchyと言うフランス語源の言葉をポップ音楽の中に取り入れた。

その後、ジェネレーションX(ビリー・アイドルが在籍)などフォロワーが次々に生まれイギリス・パンクシーンは一気に盛り上がった。

1976年、ダムドがデビュー、今までの社会的批判・主張から生まれたパンク・ムーブメントの中にあって、彼らはパンクを楽しんでいた様子で、会的な主張はあまり盛り込まれていない。しかし、その圧倒的なスピード感と激しさで『地獄に堕ちた野郎ども』が大ヒット。ちなみに、最初にシングル、およびアルバムをリリースしたロンドンパンクのバンドである

クラッシュ1976年ロンドンで結成され、翌1977年白い暴動』でデビュー。1st、2ndアルバムは音楽的にパンク色が強いものであったが、コミュニストであり精神的なパンクを追求した彼らはパンクと同じ精神を持つレゲエや、カリプソロカビリーへの接近を試み、パンクの枠にとどまらない3rdアルバム『ロンドン・コーリング』(1979年)を発表して普遍的なロックバンドへと成長していく。大きくレゲエやダブといった当時先進の音楽を取り入れていった彼らは、大ヒットシングル「ロック・ザ・カスバ」によってアメリカでも大成功を収め、スタジアムでツアーを行うようになるが、メンバーの意見の相違により解散する。

他にザ・ジャムが、ネオモッズ・ムーブメントを巻き起こしUKでNo1ヒットを4曲も出すなど82年の絶頂期の解散まで人気バンドとして君臨していた。またスペシャルズマッドネスなどの2トーンスカバンドが人気を博した。キャリアの長いメンバーで結成されたポリスでさえ、デビューアルバムはパンクであった。

イギリスでは、失業者の増加と言う社会問題と相まって社会や体制に対する反抗的な姿勢、怒り、乱暴な演奏などによって大きな社会現象となる。後の音楽はもとより、ファッション、芸術文学に至るまでその波は広がっていくことになる。しかし、話題性とファッションだけが先行し、さらにブームの火付役であったセックス・ピストルズの初のアメリカツアーが失敗に終わり、オリジナルアルバム1枚を残しただけで解散する。その後、セックス・ピストルズ以上に髪を逆立たせ、服を破いたスタイルのロンドン・パンク・ファッションは世界に広がっていった。1980年代のロンドンでは外国からの観光客向けのパンク・ファッションで街頭に立ち、写真を撮られる度にお金をもらうビジネスもあった。(ちなみに日本ではこういった行為は違法である)

セックス・ピストルズのリードボーカルだったジョン・ライドンは、PiL(パブリック・イメージ・リミテッド)を結成。彼本来のルーツである、CANやCAPTEN BEEFHEARTといったサイケデリック・ロック、プログレッシヴ・ロック・バンドの影響が強い前衛的なサウンドと、ダブ的なうねりを巧みにミックスさせた音楽性は、従来のパンク・ロックのファンの間には決して評判は良くなかった。しかし、後世の音楽的な評価は高く、またその独特のサウンドは音響系のルーツといっていいだろう。

[編集] 1980年代のパンク・ロック

1978年のセックス・ピストルズ解散によりパンクは事実上の終焉を迎えた。しかしながら、かつてモッズが70年代にネオモッズとしてリバイバルしたように、イギリスにおいては、1980年代に入り、ハードコア(極端)なサウンドをよりスピードアップされたリズムに乗せて政治的なメッセージを伝えるネオ・パンクバンドが次々と生まれる。いわゆる1981年から82年にかけて起こった「ハードコア・パンク・ムーブメント」であり、ディスチャージ、G.B.H.、ジ・エクスプロイテッドといったバンドが次々に登場、シーンは活性化する。イギリスのハードコアの源泉となったのは、エセックスコミューン出身のバンドクラスだとされる。クラスはメンバーが共同生活し半自給自足の生活を送るなど徹底的な反システム、アナーキズムを貫き、パンク・ロックにより過激な主張を持ち込んだ。

また、ハードコアとは別にイギリスでは、ストリートとより密接に結びついたパンク・リヴァイヴァル/ネオ・パンクの動きOi!パンクが勃興する。シャム69、コックニー・リジェクツなどを中心とするこのムーブメントは、音楽的にはロンドン・パンクのポップさ、キャッチーさを継承しつつも、オリジナル・パンクにあったユニ・セックス的な側面は影を潜め、男らしさを打ち出すバンドが多かった。これは当時のポップミュージックの中心だったニューウェーブに反目する意味合いがあった。

アメリカにおいても、1970年代後半にニューヨーク・パンクやロンドン・パンクに影響を受けたバンドが次々と誕生、ブラック・フラッグやバッド・ブレインズといった有力バンドにより各地でハードコア・シーンが生まれた。局地的・アンダーグラウンド・レベルな現象の全貌を明らかにするのは難しいが、西海岸のファンジンの中には長期にわたって情報センターの役割を果たしたものもある。1977年創刊のロサンゼルスのフリップサイド誌は、ガレージやポスト・パンク等雑多だった時代からのファンジンである。バークリーのカレッジラジオ局のパンク番組マキシマム・ロックンロールがファンジンを創刊する1982年には全米的な規模でハードコアリポートが掲載されるようになった。[1]1980年代半ばには、ハスカー・ドゥやバッド・ブレインズのように大手レーベルと契約するバンドも増え、またSSTディスコード・レコードのような個人レーベルがディストリビューションを拡大していった。

バッド・ブレインズの直接の影響下にあったワシントンD.C.はUSハードコアの中心の一つとなるが、ストレート・エッジを提唱した人気バンドマイナー・スレットの解散後、フロントマンであり自主レーベルディスコードのオーナーでもあったイアン・マッケイは、暴力化・様式化するハードコア・シーンに反発した音楽活動を開始、ディスコードはこの1985年を「REVOLUTION SUMMER」と呼ぶ。思想面での影響はクラスとの交流が大きい。音楽的な実験性は、GANG OF FOUR、WIRE、P.I.L、DEVO(実際、当時パンク・バンドとして紹介されていた)といった、ニューウェーヴ、ポストパンクからジャズやファンク、ヒップホップ、そしてメタルまで、ボーダーレス化した影響に現れている。USハードコアの場合、70年代から活動しているバンドはメタルやレゲエ・ファンクなどパンク以外の音楽的ルーツを残し、音楽的にあまり統一性がないが、ファスト・アンド・ラウド一本だった80年代からのハードコア・パンクスも同様の現象が起きたわけである。

こうして、第一世代によるハードコアは音楽ジャンルとしては終息を迎えて行ったが、1980年代半ば以降アンスラックスらによるスラッシュメタルからのクロスオーバー[2]の影響が強かったニューヨークでは、ユース・オブ・トゥデイらに代表されるハードコアやストレート・エッジの復古的な盛り上がりが、全世界的なヘヴィ・メタルとのクロスオーバーの影響下で、ニューヨーク・ハードコアという新たなブランドを作り出し、たとえば日本では1990年代まで「ラウドロック」の一形態として命脈を保った。[3]しかし、1990年代メタルの衰退に伴いメジャーシーンではヒップホップとの融合としてのミクスチャーに置き換わって行った。

[編集] グランジ・ブーム

アメリカにおけるハードコア・ムーブメントはアンダーグラウンドな動きにとどまったが、その過程において各地のバンド、インディ・レーベルを結ぶネットワークができあがる。そのような状況下、サウンドガーデンやグリーン・リヴァー、マッドハニーといったバンドがシアトルのインディ・レーベルサブ・ポップより次々とデビューし、シアトルのアンダーグラウンドシーンは盛り上がりを見せる。そして、1980年代初めからニューヨークのアンダーグラウンドシーンで活躍していた ソニック・ユースが、1990年にメジャー・レーベルゲフィンよりデビュー、翌1991年にはニルヴァーナが『ネヴァーマインド』でメジャーデビューし、全世界で1,000万枚を売り上げる大ヒットを記録する。その後パール・ジャムなどが次々とメジャーデビューし、グランジ・ブームが訪れる。

しかしながら、1994年にニルヴァーナのリーダーであったカート・コバーンが自殺すると、グランジがオルタナティブ・ロックに呑み込まれる形で、グランジ・ブームは急速に終焉を迎える。

[編集] ポップ・パンク、メロコアの台頭

1980年代後半にバッド・レリジョンが、パンク的なサウンドをよりメロディックにスピーディーにさせたスタイルを確立。NOFXブリンク 182ペニーワイズや、イギリス系パンク・ファッションを継いだランシドなどがその音楽性を発展させ、そのサウンドはポップ・パンクメロディック・ハードコアと呼ばれるようになる。

そして、1994年グリーン・デイのメジャーデビュー、オフスプリングの3rdアルバム『スマッシュ』の大ヒットにより、ポップ・パンクが爆発的なブームを巻き起こす。

はじめはポップ・パンクは従来のパンクファンからの評価は高くなかったが、若者からの絶大な支持、また、2005年にグリーンデイがアルバムアメリカン・イディオットでパンク史上ではじめてグラミー賞の最高賞「最優秀レコード賞」を獲得するなどパンクの音楽界の地位向上に多大な貢献をしている。

[編集] ポスト・ハードコアの時代

世界中でグランジが流行する1990年代前半、イアン・マッケイ率いるフガジは反抗精神とアンチ商業主義を持ち続け、この影響を公言するバンドが現れいつしかその音楽性はエモ・コアと呼ばれるようになる。そして、ポップ・パンク・ブームも落ち着いた1990年代後半からジミー・イート・ワールドやゲット・アップ・キッズ、アット・ザ・ドライヴインなど数々のフォロワーが生まれ、現在に至る。

[編集] 主にパンク・ロックに分類される日本国外のアーティスト

日本のパンクバンドのリストは、日本のパンク・ロックの項へ。

[編集] 関連項目

[編集] 脚注

  1. ^ マクシマム・ロックンロール2号のニューヨーク発リポートではハードコア・バンドだったビースティー・ボーイズの自主制作盤発売が伝えられている。
  2. ^ ハードコアバンドによるメタルという意味でのクロスオーバー(・スラッシュ)は、D.R.I.(Dirty Rotten Imbeciles)の同名アルバム(1987)以降一般化したとみられる。
  3. ^ オールドスクール・ストレートエッジに対する「ニュースクール」が、日本ではさらにNYハードコアの二分法として使われるようになった。


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