ダウンサイジング
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ダウンサイジング( Downsizing )とは、技術進歩に伴う高密度化・小型化によって、同じ容積・重量で従来と同機能か、より高性能な物(工業製品)を作る事。または運用コスト削減等を目的として、従来品よりも小型の機器を用いて対応することを呼ぶ。
技術工学分野では主に前者の事を、経済産業分野では主に後者を指してこう呼ぶ。なお組織のダウンサイジングという意味あいにおいてはリストラの項目を参照のこと。
目次 |
[編集] 概要
ダウンサイジングとは、小型化によって利益を生み出すという発想である。広義には生物学上においても、進化の過程に於いて小型化する事で、繁栄する事に成功した種も見られる。大きなシステム(系)は安定性があり、恒常性の維持に役立つが、維持コストが多く掛かる傾向があり、また世代交代がゆっくりであるため、急激な環境の変化に弱い。一方の小さなシステム(系)では、環境の変化に影響されやすく、個体の単位では他に淘汰されやすいが、世代交代が早いために環境への適応も早く、急激な変化に強いとされる。
同語は日本では情報処理業界を中心に、旧態化して設置場所ばかりを占める大型コンピュータを汎用サーバに置き換えるという一連の経緯の中でこのように呼ばれたが、後に一般化して様々な分野での小型化に際しても適用されている。
[編集] 工業製品のダウンサイジング例
[編集] コンピュータ製品のダウンサイジング
古くは1940年代のIBMの機械式装置や電気スイッチを利用した統計装置などを端緒とし、その後、1960年代後半に主流となったEDPS(EIectronic DataProcessing System)処理及び、各種大規模統計処理や企業での業務・経理情報を管理する基幹系処理において、メインフレームと呼ばれる大型コンピュータが使用されてきた。 しかし、このメインフレームと呼ばれる大型コンピュータは専用のハードウェアや専用のソフトウェアを多用して構築された、複数のコンピュータの統合型システムであり、システムとしてのコンピュータ価格と運用・維持コストも膨大な額となることから、次第により安価で運用・保守にも費用がかからない汎用サーバへの置き換えが進むことになった。この置き換えを「コンピュータのダウンサイジング」と呼んだ。
近年では、プロプライエタリなオペレーティングソフト(OS)を使用せず、汎用的な基本構成部材(CPU、メモリ、ディスクなど)を使用した汎用サーバ製品においても、現状の中位程度のメインフレーム以上の性能を持つものも少なくはない。
これらはより高速稼動が可能で強力なプロセッサー・大容量のメモリーや電磁記憶媒体(ハードディスク)・低価格化する各種ハードウェアの発達に伴い、急激な電子工学上の進歩によって、大容量の記憶能力と、高速な計算能力を持つに到った(→ムーアの法則)。
また1980年代後半から2000年代にかけ、従来、強力な画像処理能力への強化などを武器にCAD/CAM分野でのワークステーションなどに使用され、スーパーコンピュータのグラフィカル端末/イメージプロセッサとして使用されていたUNIX系ワークステーションは、安定性と可用性を増して重要な処理を行える信頼性の確保が可能な(オープン系)サーバとして進化し、企業の基幹システムの中核をになうようになった。その後、メインフレームに取って代わり、社会に浸透している。
この進歩はハードウェア面だけでのものではなく、ソフトウェアにおいても多くのダウンサイジングが行われている。例えば、基本ソフトウェアであるオペレーティングシステム(OS)においても、かつての汎用機(メインフレーム)やミニコン・オフィスコンピュータのシステムは企業ごとにカスタマイズされて提供されていたが、より融通の利く汎用OSとしてのオープンな存在であるUNIX系OSやプロプライエタリでありながら汎用性・低価格性を持つWindowsやそれらの上で動作する各種ミドルウェアやアプリケーションソフトウェアのパッケージ化も進み、汎用製品の組合せによるシステム構成にて代用可能となり、コストダウンの一助となっている。
この汎用OSの代表格としては、2000年代初頭からのオープンソース旋風によるオープンソース製品であるFreeBSDやLinuxが有名。これらパソコンでの動作を前提としたUNIX系OSの発達が、従来の汎用機OSや商用UNIX系OSで動作していた高価なサーバ機からシステムを段階的に置き換えて移植する上での助けともなっている点も挙げられる。
さらに応用ソフトウェアであり、業務に合わせて開発されてきたアプリケーションソフトにおいても、各OSとその上での定型処理を切り出し、共通のソフトウェアプラットホームとして使用できるようにされたパッケージソフト/ミドルウェアが作成され、専用に開発するよりも遥かに安価に提供されている。
しかし、企業の基幹系システムや金融機関/社会インフラ系システムにおいては、業務に特化したソフトウェアが必要であり、各種共通的な処理においてはパッケージを利用しつつも、昔ながらの手段で開発されたアプリケーションソフトによるサービスの提供が欠かせないのも現実である。
[編集] アメリカの自動車におけるダウンサイジング
従来(1960年代まで)、米国における自動車は、消費者の好みもあって大排気量・大型・広い室内を特徴としていた。こういったアメリカにおける自動車トレンドの中、1970年代のオイルショックを契機に広まった低燃費への問題意識と、1960年代からアメリカの自動車ユーザを欺き続けた安全性軽視に対し、FF(前輪駆動)による悪路走破性や安全性・信頼性を重視し、燃費の良い日本製小型車への移行が、大きなムーブメントとなっていた。(『覇者の驕り』D・パルバースタム著参照)
この動き以降、何度かこういった動きが顕著となり、2006年現在、高騰した原油価格と高燃費への欲求により、安全性・信頼性の高い日本車やドイツ車へのユーザの切り替えが進んでいる。また、低価格という売りで韓国車も売り上げを伸ばしていたが、日産やトヨタの小型車投入により、市場から退場しつつある。
特にこの動きは中小型車を中心に動いており、大型車からの移行を考えると、ひとつのダウンサイジングといえる。
[編集] 携帯電話におけるダウンサイジング
携帯機器に於けるダウンサイジングが、(2005年における)過去20年において最も進んだ分野としては、携帯電話が挙げられる。1980年代の持ち運び可能な電話機は、ショルダーホンと呼ばれる、バッテリー込みで20kgはある装置であった。これが1980年代末には片手で持てる約1kg程度の機器となり、1990年代を通して小型・高性能化、今日では携帯電話による通話機能は元より、電話帳機能・メールによる文字情報の送受信・留守番電話機能に加え、電子手帳や携帯情報端末の市場を侵食する結果となったスケジューラー機能やインターネットへの接続機能を標準的に備え、更にはデジタルカメラ機能はなおのことデジタルオーディオプレーヤーを搭載した機種も多数発売され、生活に取り込まれている。
なお、単純な小型化に伴う操作性の悪化も、年々増える傾向があり、逆に操作性向上を求めて大型化した製品(NTTドコモの「らくらくホン」やauの「A101K」など)も出てきている。特に小型化に伴い、より扱い易い操作系を開発・搭載する必要もあると思われる。
[編集] ダウンサイジングの功罪
ダウンサイジングの進行により、様々な分野での設備面での刷新や、一般社会での利便性の向上、あるいは各種サービスの高度化が進んでいる。ただ、これらのダウンサイジングは必ずしも利益ばかりでは無い側面を含んでいる。
先に挙げた携帯電話の小型化による操作性の低下もあるが、他方では多機能化による利便性向上の陰でデジタル万引きと呼ばれる携帯電話内蔵カメラによる著作物の不許可複製の問題や、あるいは盗撮といった問題も顕著化、美術館などではシールを配布して観覧中は写真撮影出来ないようカメラ部分の封印を求めるところも出てきているほか、サウジアラビアでは2004年3月に、同国内でのカメラ付き携帯電話の販売と使用を禁じたりといったニュースも聞かれ、盗撮問題顕著化以降には「撮影の際にそれと判る音がする」ような改良が行われた。また小型携帯性の向上にて「うっかり洗ってしまい浸水(その後のショートによる電池爆発などを含む)」などといった事故もしばしば起こっている。
コンピュータ関連のダウンサイジングでは携帯可能な機器の記憶容量の拡大も同時進行しており、また各種業務をパソコンで代行するようになっているが、これが個人情報流出などの被害拡大を招いている傾向があることも否定出来ない。安価軽量で大容量の機器はより多くの人が大量の情報を持ち歩けるようになったが、これが情報の拡散を助長しやすい背景ともなっている。また様々な分野でコンピュータの利用が進んだ結果として、逆にコンピュータのトラブルにて問題が噴出しかねない事態ともなっている。
また、大組織の情報システムにおける過度のダウンサイジングにより、多数のサーバ等の情報機器を管理・運用する必要があり、その効率の悪さ(例えば利用頻度が極端に低下した業務用サーバでも、必要がある限り稼動を続けなければならず、運用コストを増加させる、など)が目立つようになった。 これらの問題に対し、2007年頃より統合・共有されたサーバ・ストレージ等から、必要なだけのリソースを分割して使用し、常に需要に適合した仮想的なリソースが得られるような仮想化機能が注目されている。
ただ、これらデメリットを差し引いてもダウンサイジングによりさまざまな分野で恩恵が発生しているため、今後とも様々な分野でダウンサイジングは進行することが予測される。