ソウルフード
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ソウルフードとは、一般にその地域や集団に属するの人々のアイデンティティーに直結し、強い郷愁を喚起させる食材・あるいは食物を指す言葉である。
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[編集] 原義
アメリカ・マンハッタンのハーレム地区は、いわゆる黒人居住区として知られているが、そこでは黒人が主として食する食材が広く扱われている。かつてアメリカの南部地域において、まだ黒人が奴隷として扱われていた時代、多くの白人が食材としては使わなかった・いわば『余りもの』の部分(鶏の内臓・豚の足や牛の腸など)を、料理する方法を見つけて食材の地位に高めたのである。こうした食材を彼ら黒人たちは、ソウルフード (Soul Food=魂の食べ物) と呼んだ[1]。
同様の例は各国にみられ、日本においては被差別部落に伝えられるさいぼしやあぶらかすなどがこの意味におけるソウルフードに該当する。
[編集] 派生
ここから、ある民族や地域・個人単位で、幼少の頃から慣れ親しんできた食べ物のことを転用して「ソウルフード」と呼ぶことがある。
一種のスラングとしては、その人たちにとっては欠かせない食事を指す(例: いわゆるギークにおける、ファストフード類やスナック菓子など)。
[編集] 各国のソウルフード
[編集] アジア
- 主食としてのコメ、おにぎり、お茶漬けなどをあげる人は多い。うどんやそばといった麺類も候補に挙げられる。沖縄人にとっての沖縄そばや、香川の讃岐うどんなどはまさしくソウルフードの代表格である。
- 梅干しや納豆、漬物、味噌などは日本国外で手に入りにくく、これらを海外旅行に携帯していく人は少なくないため、一種のソウルフードと呼べるかもしれない。実際には日本国外でも、最近は健康ブームの影響で醤油や豆腐など和食の食材が手に入りやすくはなってきている。
- また、他の国に比べて伝統的に魚介類を多く食する傾向にあるため、各種の海産物や寿司、さらに地域によっては鯨料理に対して強い郷愁を感じる人もいる。他、日本料理を参照。
- 諸説はあるが、日本人に親しまれているソウルフードにラーメンやカレーを挙げる意見もある。
- 何をおいても、キムチを外す事はできない。毎日の食事に、キムチを欠かさないという人は多い。詳しくは、キムチの項目を参照のこと。
- 現代においては欧米などで動物虐待と非難されることが多くなり、若い世代を中心に食べられることが少なくなってきているが、犬を食用とするのも伝統的な文化である。中でも補身湯と呼ばれる鍋料理は、夏場の滋養強壮として広く親しまれている。
- これ以外には、チゲ、あるいはビビンバなども庶民に親しまれている。また調味料としての唐辛子とにんにくは韓国朝鮮人にとって欠かせないものである。他、韓国料理を参照。
- 中華料理の項目にもあるが、扱う食材が多岐に渡る・また地域によって趣向が大幅に異なる(北京料理・四川料理・上海料理・広東料理などに大別される)ため、一概にこれと呼べるものを探すのは難しい。庶民には点心などが親しまれている。
- 主食としてはコメ。スープ料理ではトムヤムクンが広く食されている。他に豚肉や鶏肉が食されているが、一部地域ではイスラム教徒が居るため豚肉は禁忌である。また北部のイーサーン料理は辛味が強いことでも有名。地域によっては昆虫食も盛んである。
[編集] 中東
- インド料理を参照。基本的にはカレーに代表されるスパイスを用いた料理だが、主食としてはそれを付けて食べるチャパティやナンが彼らのソウルフードと呼べるだろう。ただしインドの一部で信仰されているジャイナ教では、肉食は一切禁止である。
- 主食としては、『ホブス』と呼ばれる平べったく薄いパンがある。
- ただし宗教上の理由から豚肉・アルコールは禁忌である。また基本的に、食材はハラールと呼ばれる「イスラム教で許可されたもの」でなければ、口には入れられない。他にもラマダーンの期間中は「日の出から日の入りまで」は食事をしないなど、食に関する制限は多い。
[編集] ヨーロッパ
- 庶民のおやつとしてはフィッシュ・アンド・チップス、そして飲み物としては紅茶が親しまれている(アフタヌーン・ティーでは『お茶受け』としてスコーンが出される)。「イギリス料理に旨いものなし」などと揶揄されることも多いが、キドニーパイやヨークシャー・プディングなど独自の料理も数多い。
- ニシン・スモークサーモンなど、自然に生きる動物を加工したものが多い。ちなみにスウェーデン発祥のシュールストレミングは、バルト海で取れるニシンを発酵させた缶詰だが、前述のキムチと同じように飛行機内部への持込みが禁止されているケースが大半である(気圧差で破裂するおそれがあるため)。
[編集] 北中米
- その成立に多数の移民が関わっている国である事から、ニューイングランド料理(東部)・フランス料理(中南部)・西海岸の海の幸を使ったコースト料理・メキシコ料理・フライドチキンのような南部料理(元々の意味での「ソウルフード」)などの種類がある(アメリカ料理のレシピ集)。
- 大衆食としてはファーストフードであるホットドッグやハンバーガー、ピザ、コーラなどの炭酸飲料、アイスクリーム、コーヒーなどが普及している。特にホットドッグは国技である野球との関わりもあって、アメリカ人にとって特別な食べ物と位置づけられることが多い。
- また感謝祭に家族揃って食べる七面鳥や、仲間同士でグリルを囲むバーベキューもアメリカ人共通の思いの込められた料理である。他、アメリカ料理も参照。
- アメリカと同じく移民の国であるため、固有の食という概念は薄い(逆に言えば、世界の食が味わえるということでもあるが)。サケやロブスターなどの自然の食材を生かした料理はある。また、メイプル・シロップはカナダの味として名高い。
- トルティーヤと呼ばれるトウモロコシや小麦粉を原料とした薄焼きパンに具を盛り、サルサやフリホレスで調味してタコス、ブリトーなどとして食べる。ほかに蒸留酒であるテキーラもよく飲まれる。メキシコ料理も参照。
[編集] 南米
- 畜産国であるため、肉料理やそれに付随するワインが親しまれている。
- ブラジル料理の項目にもあるが、アメリカと同様に多民族国家であるため、さまざまな文化をルーツとした料理が発達している。特徴としては、多種多様な種類の豆を使った料理が多いこと。豆や肉を煮込んだ料理は「フェジョアーダ」と呼ばれ、ブラジルでは国民食として親しまれている。
[編集] アフリカ
- 「コシャリ」と呼ばれる混ぜご飯や、「アエイシー」という平べったいパンに何かを付けて食べたりする。
[編集] オセアニア・太平洋
[編集] その他
- 1997年公開のジョージ・ティルマン・Jr監督、脚本のアメリカ映画「ソウルフード」(原題 Soul Food)は、家族愛で結ばれた黒人の一家が共に囲む食卓を一家の絆としていく物語。アメリカ南部の伝統的な料理が登場する。
[編集] 出典
- ^ 吉田ルイ子『ハーレムの熱い日々』より