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ステレオ投影 - Wikipedia

ステレオ投影

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

地球を、北極を接点とする平面に、ステレオ投影した図
地球を、北極を接点とする平面に、ステレオ投影した図
球を球の下の平面に、北極からステレオ投影する3次元の説明図
球を球の下の平面に、北極からステレオ投影する3次元の説明図

ステレオ投影(すてれおとうえい、英語:stereographic projection)は、球面平面投影する方法の一つ。球面と平面は数学および様々な応用分野で現れるため、ステレオ投影は複素解析学地図学結晶学写真などの分野で重要である。

stereographic projection の訳語は分野によって異なる。ステレオ投影が最も一般的で、主に物理学機械工学において用いられる。数学においては写像という意味で立体射影、地図学では図法という意味で平射方位図法またはステレオ図法と呼ばれる。このように訳語が異なってはいるが、内容は全て同一視できる。

ステレオ投影は、数学的には写像として定義される。定義域は、球の光源を除く全面である。写像は滑らかで、全単射である。また、角度が保存される等角写像である。一方、面積は保存されない。これは光源点付近では、顕著である。

すなわち、ステレオ投影は、いくらかの避けられない妥協を含む、球を平面に描く方法である。実際に、コンピュータや、ウルフネットまたはステレオネットと呼ばれるグラフ用紙などを使って、投影図が描かれる。

目次

[編集] 歴史

画像:RubensAguilonStereographic.jpg
フランソワ・デギュイヨンの著書"Opticorum libri sex philosophis juxta ac mathematicis utiles"のルーベンスの描いた挿絵。 この本で、どのように投影を計算するかが示された。

ステレオ投影は、ヒッパルコスクラウディオス・プトレマイオスに知られていたが、おそらくもっと早くから古代エジプトでも知られていた。これはもともと、平球投影(英語:planisphere projection[1])として知られていた[2]。プトレマイオスの著書"Planisphaerium (英語)"は、ステレオ投影についてかかれた現存する最古の文書である。この投影の最も重要な使い方は星図を表すことであった。[2] 星座早見盤の英語 planisphere のように、今でもそのような図にこの言葉が使われる。

最初の世界地図は、1507年にグアルテリアス・ラドによって、ステレオ投影を基にそれぞれの半球を円盤に投影して描かれたと言われている[3]。ステレオ投影の赤道面への投影するという特徴は、17世紀18世紀東半球西半球の地図を描くのに利用された[4]

フランソワ・デギュイヨンが、彼の1613年の作品"Opticorum libri sex philosophis juxta ac mathematicis utiles"(哲学者と数学者に等しく役立つ6冊の光学の本)で、この投影にステレオ投影と名付けた[5]

[編集] 数学的な定義

単位球の北極から z = 0 の平面への立体射影を表した断面図。P の像が P ' である。
単位球の北極から z = 0 の平面への立体射影を表した断面図P の像が P ' である。

冒頭のように、数学ではステレオ投影の事を写像として立体射影と呼ぶので、この節では立体射影と呼ぶ。 この節では、単位球を北極から赤道を通る平面に投影する場合を扱う。その他の場合はあとの節で扱う。

3次元空間 R3 内の単位球面は、x2 + y2 + z2 = 1 と表すことができる。ここで、点 N = (0, 0, 1) を"北極"とし、M は球面の残りの部分とする。平面 z = 0 は球の中心を通る。"赤道"はこの平面と、この球面の交線である。

M 上のあらゆる点 P に対して、NP を通る唯一の直線が存在し、その直線が平面z = 0 に一点 P ' で交わる。P立体射影による像は、その平面上のその点P ' であると定義する。

コンピューター上で立体射影をするためには、数式で表さなければならない。球面上の直交座標 (x, y, z) とその平面上の (X, Y) を用いると、立体射影とその逆写像は、次の式で与えられる。

(X, Y) = \left(\frac{x}{1 - z}, \frac{y}{1 - z}\right),
(x, y, z) = \left(\frac{2 X}{1 + X^2 + Y^2}, \frac{2 Y}{1 + X^2 + Y^2}, \frac{-1 + X^2 + Y^2}{1 + X^2 + Y^2}\right)

球面上の極座標 (φ, θ) と平面上の極座標 (R, Θ) を用いると、立体射影とその逆写像は

(R, \Theta) = \left(\frac{\sin \varphi}{1 - \cos \varphi}, \theta\right),
(\varphi, \theta) = \left(2 \arctan\left(\frac{1}{R}\right), \Theta\right).

となる。ただし、R = 0 の場合は、φ = π と解釈する。

また、三角関数の等式を用いて、この式を書き直す方法がたくさんある。球面上の円柱座標 (r, θ, z) と平面上の極座標 (R, Θ) を用いると、立体射影とその逆写像は、

(R, \Theta) = \left(\frac{r}{1 - z}, \theta\right),
(r, \theta, z) = \left(\frac{2 R}{1 + R^2}, \Theta, \frac{R^2 - 1}{R^2 + 1}\right)

となる。

[編集] 特性

前の節で定義されたように、ステレオ投影は、"南極" (0, 0, -1) を (0, 0) に、赤道を単位円に、南半球をその円の内側に、北半球をその円の外に射影する。

この変換は N = (0, 0, 1) では定義されない。この点の近傍は、平面の(0, 0) より遠い部分集合に射影される。P を (0, 0, 1) に近づけるほど、像は (0, 0) より遠くなる。これの性質により、一般的に (0, 0, 1) の射影は、平面の無限遠点であるとされ、またその全球面は平面に無限遠点まで完全な平面を射影している。この事実が、射影幾何学複素解析で有用である。単にトポロジー的なレベルでは、それは球面が、いかに平面の一点コンパクト化に対して位相同型であるか、を示している。

平面上の10×10の 正方格子は、球の上では歪んでいる。格子線は射影後も互いに垂直だが、 格子内の正方形の面積は北極に近いほど縮んでいる。
平面上の10×10の 正方格子は、球の上では歪んでいる。格子線は射影後も互いに垂直だが、 格子内の正方形の面積は北極に近いほど縮んでいる。
平面上の半径 5 の極格子は、球の上で歪んでいる。格子曲線は射影後も互いに垂直だが、 格子内の面積は北極に近いほど縮んでいる。
平面上の半径 5 の極格子は、球の上で歪んでいる。格子曲線は射影後も互いに垂直だが、 格子内の面積は北極に近いほど縮んでいる。

ステレオ投影は等角写像、つまり曲線同士が互いに交わる角度が保存しているのである(図参照)。しかし、ステレオ投影は面積は保存していない。一般に球面の範囲の面積は平面に投影した面積に等しくない。点 (X, Y) での面積要素は次のようになる:

dA = \frac{4}{(1 + X^2 + Y^2)^2} \; dX \; dY.

X2 + Y2 = 1の単位円の円周上は、面積の歪みは見られない。(0, 0) 近傍では4倍縮められ、無限遠点近傍では無限に拡げられる。

角度と面積を同時に保存する球面から平面への投影は存在しない。それがあるなら、それは局所的等長写像で、ガウス曲率を保存しているはずである。球面と平面は違うガウス曲率を持つので、これは不可能である。

ステレオ投影の等角性は、いくつかの有用な幾何学的特性を示す。光源点を通らない球面上の円は、平面には円として投影される。光源点を通る球面上の円は、平面には直線として投影される。このような直線は、無限遠点を通る円や無限大の半径を持つ円とみなされる事がある。

平面上のすべての直線は、ステレオ投影の逆写像により球面上の円に投影されると、光源点(平面上の無限遠点)で交わるようになる。平面上の平行線は、平面上では交わることはないが、球面上に投影されると光源点で接するようになる。このように、平面上のすべての直線は、球面上のどこかで交わる—2点で横断するか、光源点で接するかである。(似たような特性は実射影平面でも成り立つが、交点の関係はそれとは違っている。)


球面上の等角航路を平面上に移した曲線は次の式で表される。

R = eθ / tan(Β),

ここでΒは、等角航路の方位角である。よって等角航路は、等角螺旋になる。等角航路が常に子午線と同じ角度で交わるのと同じように、この螺旋は平面上の放射線(子午線の投影像)に常に同じ角度で交わる。

[編集] ウルフネット

ウルフネット(またはステレオネット)。手でステレオ投影図を書くときに使われる。
ウルフネット(またはステレオネット)。手でステレオ投影図を書くときに使われる。

ステレオ投影は、前節で与えたような数式を用いて、コンピューターに算出させることができる。しかし、手でグラフを描くには、これらの数式は扱いにくい。代わりに、目的に特化して設計されたグラフ用紙を使うのが一般的である。このグラフ用紙を作るには、半球上に緯線と経線の格子を置き、それらを円盤の上にステレオ投影した曲線を描く。これをステレオネットまたはウルフネットという。ウルフネットの名は、ロシア人鉱物学者であるジョージ・ウルフ(George (Yuri Viktorovich) Wulff)[6]に由来する。

このネットの中心付近の区画と端の方の区画を比べることで、ステレオ投影の面積が歪む特性を見ることができる。この二つの区画は球面上では同じ面積を持っていた。円盤上では、端の方の区画は中心の区画の4倍近くの面積を面積を持っている。球の上の格子の目が細かければ細かいほど、その面積の比は4倍に近づく。

格子線を見ることで、この投影の正角性も見ることが出来る。球面上の緯線と経線は直角に交わるが、ウルフネット上のそれらの像も同じく直角で交わっている。

ウルフネットに点を描くときの書き方
ウルフネットに点を描くときの書き方

ウルフネットの使い方の例を説明する。 まずウルフネットが描かれた薄い紙を2枚用意し、片方をもう片方の上に重ね、互いの中心を揃えて鋲で止める。 仮に、下側の単位半球面上の点(0.321, 0.557, -0.766)を描くとする。この点はx軸正の方向から60° 反時計回り(またはy軸正の方向から30° 時計回り)の方向にあり、z = 0の水平面より50° 下である。これらの角度を知れば、次の4 ステップで描ける。

  1. ここでは格子の間隔は10° である。格子を使い、点(1, 0)から60° 反時計回り(または点(0, 1)から30° 時計回り)のネットの端に印を付ける。
  2. 上側のネットを回し、付けた印を下側のネットの点(1, 0)に合わせる。
  3. 下側の格子を使い、印を付けた点から中心に向かって50° のところに、点を打つ。
  4. 上側のネットをさっきとは逆方向に回し、下側のネットと揃えた元の位置に戻す。ステップ3 で打った点が、目標の点のステレオ投影である。

60° や 50° のような切りのいい数字ではない角度の点を描くには、近い格子の間を補間しなければならない。10°より目の細かいネットの方が使いやすく、格子間隔が2° のものが一般的である。

このステレオ投影点を元にして2点間の球面上の中心角を見つけるには、ウルフネットをその上に被せて、2点が同じ経線に載るまたは近くなるまで互いの中心を合わせて回す。その経線に沿って格子線を数えることで、中心角を測ることができる。

[編集] その他の表式と一般化

単位球の北極からz=−1の平面へのステレオ投影を表した断面図
単位球の北極からz=−1の平面へのステレオ投影を表した断面図

[編集] 数学での応用

[編集] 複素解析

[編集] 平面と線の可視化

Animation of tilt traverse between 4 of the 8 <111> zones in an fcc crystal. Planes edge-on (banded lines) intersect at fixed angles.
Animation of tilt traverse between 4 of the 8 <111> zones in an fcc crystal. Planes edge-on (banded lines) intersect at fixed angles.


[編集] その他可視化

[編集] 他分野での応用

[編集] 地図学

ステレオ投影は地球の地図を描く時も使われる。極付近を描く時が多いが、その他の点をとることもある。
ステレオ投影は地球の地図を描く時も使われる。極付近を描く時が多いが、その他の点をとることもある。

地図学では、球面である地球を平面の地図に投影する図法の一つとして、ステレオ投影のことを平射方位図法またはステレオ図法と言う。角度(形)と面積を保って、球を平面に投影する地図は無い、という事実が地図学の基本的問題である。一般的に、統計学は積分をする傾向があるために、正積投影は、統計向きである。一方、正角投影は航海目的に好ましい。平射方位図法は正角投影に分類される。地球のどちらかの極を中心に投影したとき、経線は原点から放射状にのび、緯線は原点を中心とする円になるという、望ましい特性が付加される。

[編集] 結晶学

[111]方向のダイヤモンド格子の結晶軸の図
[111]方向のダイヤモンド格子の結晶軸の図


[編集] 地学

[編集] 写真

平射投影を用いた球面パノラマ投影
平射投影を用いた球面パノラマ投影

[編集] 脚注

  1. ^ 訳注:本文中にもあるように、planisphereは「星図」の古い呼び名なので、星図投影とも読める。
  2. ^ a b Snyder (1993).
  3. ^ According to (Snyder 1993), although he acknowledges he did not personally see it
  4. ^ Snyder (1989).
  5. ^ According to (Elkins, 1988) who references Eckert, "Die Kartenwissenschaft", Berlin 1921, pp 121--123
  6. ^ Wulff, George, Untersuchungen im Gebiete der optischen Eigenschaften isomorpher Kristalle: Zeits. Krist.,36, l-28 (1902)

[編集] 関連項目

[編集] 参考文献

  • Apostol, Tom (1974). Mathematical Analysis, 2, Addison-Wesley. 
  • Brown, James and Churchill, Ruel (1989). Complex variables and applications. New York: McGraw-Hill. ISBN 0070109052. 
  • German, Daniel; Burchill, L.; Duret-Lutz, A.; Pérez-Duarte, S. ; Pérez-Duarte, E. and Sommers, J. (June 2007). “Flattening the Viewable Sphere”. "Proceedings of Computational Aesthetics 2007", 23--28, Banff: Eurographics.
  • Do Carmo, Manfredo P. (1976). Differential geometry of curves and surfaces. Englewood Cliffs, New Jersey: Prentice Hall. ISBN 0-13-212589-7. 
  • Elkins, James (1988). “Did Leonardo Develop a Theory of Curvilinear Perspective?: Together with Some Remarks on the 'Angle' and 'Distance' Axioms”. Journal of the Warburg and Courtauld Institutes 51: 190--196. DOI: 10.2307/751275.
  • Oprea, John (2003). Differential geometry and applications. Englewood Cliffs, New Jersey: Prentice Hall. ISBN 0130652466. 
  • Pedoe, Dan (1988). Geometry. Dover. ISBN 0-486-65812-0. 
  • Shafarevich, Igor (1995). Basic Algebraic Geometry I. Springer. ISBN 0387548122. 
  • Snyder, John P. (1989). An Album of Map Projections, Professional Paper 1453. US Geological Survey. 
  • Snyder, John P. (1993). Flattening the Earth. University of Chicago. ISBN 0-226-76746-9. 
  • Spivak, Michael (1999). A comprehensive introduction to differential geometry, Volume IV. Houston, Texas: Publish or Perish. ISBN 091409873X. 

[編集] 外部リンク



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