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ジョアシャン・ミュラ - Wikipedia

ジョアシャン・ミュラ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ジョアシャン・ミュラ(フランソワ・パスカル・シモン・ジェラール画)
ジョアシャン・ミュラ(フランソワ・パスカル・シモン・ジェラール画)

ジョアシャン・ミュラ(Joachim Murat-Jordy、1767年3月25日 - 1815年10月13日)は、フランス軍人元帥。後にナポレオンの義弟となりフランス皇族、ナポリジョアッキーノ1世(在位1808年-1815年)。

目次

[編集] 生涯

[編集] 仕官

旅籠屋を営む傍らタレーラン家の不動産管理人でもあったピエール・ミュラの末っ子(12人兄弟だった)として生まれたジョアシャン・ミュラは、両親の希望で聖職者になるため神学校に入学(このとき後々まで親友となるベシェールと出会っている)するが全く不向きで、1787年に女性と駆け落ちして放校された。無一文で放浪していた時にたまたま出くわした騎兵中隊に飛び入りで参加したことから軍歴が始まり、2年ほどで軍曹にまで出世するが一時帰郷して小間物屋を開く。風采が良く人気者だったため郷里のジャコバン派としてかなり有名になったが、やがて軍に復帰し浮沈を繰り返しつつ若手の騎兵指揮官として頭角を現していった。1792年には少尉になっているが、この頃士官選出は兵士の選挙によっていたので、このことは彼が部隊でも人気者だったことを示している。

[編集] 台頭

1795年のヴァンデミエールの反乱においてパリ市内での大砲奪取任務の参加者を募集していたナポレオン・ボナパルト(当時バラスの副官だった)と出会い、任務に志願して見事成功させ王党派の反乱鎮圧に貢献する。ナポレオンはこの功績で脚光を浴びることとなり、ミュラとの出会いは二人にとって大きな転機となった。その後ナポレオンのイタリア遠征に自ら志願して参加、エジプト遠征では負傷するものの見事な働きを見せ、ナポレオンの側近として、また優秀な騎兵指揮官として名声を確立させた。1800年にはナポレオンの妹カロリーヌと結婚、名実共にナポレオン家の一員となる。1804年には元帥に昇進。数々の戦いでその騎兵指揮官としての能力を存分に発揮し、ナポレオンをして「世界最高の騎兵」と賞賛せしめたが、高位の軍司令官としては判断力、決断力共に欠け、元帥昇進後あたりから失策が目立ち始める。

[編集] 離反

1806年には大公となり、1808年にはナポリ王位を与えられジョアッキーノ1世を名乗る。しかし、こうした栄達は彼を保守的・退嬰的にし、また権力欲が極めて強くかつ頭が回って気も強い妻のカロリーヌに焚きつけられて、自らの王国を守ろうとする態度が露骨になると共に、ナポレオンとの関係もぎくしゃくし始めた。ロシア遠征に参加するが、これが大敗に終わると自らの地位保全のために敵国イギリスやオーストリアと勝手に交渉を始め、1814年に至り完全にフランスから離反する。

[編集] 転落

フランスからの離反の決断とともにイタリア統一を夢想し始めるが、そんな野望が通る筈もなく、ウィーン会議では王位を剥奪されることが決まってしまう。ミュラはひとたび裏切ったナポレオンの元に戻ることを決意し、イタリア方面での抑えを期待したナポレオンもそれを認めたが、ナポレオンがエルバ島を脱出すると独断でオーストリアと開戦し大敗。フランスに逃げ戻ったが激怒したナポレオンからは仕官を認められず、ワーテルローの戦いの後僅かな手勢と共にナポリ奪回の兵を挙げて失敗、逮捕され処刑された。

[編集] 人物像

恐らく同時代に類を見ないほど優秀な騎兵指揮官であり、ナポレオンの戦いには欠かせない貴重な戦力だった。素晴らしい騎手にしてサーベルを扱わせれば天下無双、勇気肝力全く欠ける所が無く、どんな乱戦にも真っ先に飛び込み平然と生還する勇者でもあった。長身で威風堂々とし、甘いマスクと気の利いた弁舌を備えた大変な伊達男で、自らデザインした派手な軍服に身を包み戦場を疾駆するその姿は敵味方問わず感嘆の的だった。

しかし彼の能力は完全にそこまでで、馬を降りれば優柔不断で軽薄で浅はかであり、大軍を指揮する能力も戦略眼も政治外交能力も無かった。ナポレオンはこう評している。「彼は敵と対峙したときは世界でもっとも勇敢な男だろうが、会議の席にでも置こうものなら判断力も決断力もない腑抜けに成り下がってしまうだろう」「彼に授けられた尋常ならざる勇気は、その知性と非常に不釣り合いで、とても一人の人間の中に収まっているとは思えなかった」

元帥同士の人間関係では、上述のベシェールとは親友同士の間柄であったが、ランヌダヴーからは忌み嫌われていた。

自らを中世の騎士になぞらえ、そのサーベルには座右の銘「名誉と貴婦人の為に」を刻み、女性からの賛美の視線を何よりの喜びとした稀代の伊達男の最後は銃殺刑だったが、その折に彼は銃殺隊に「頭は撃つな、まっすぐ心臓を撃て」と命じている。しかし無情にも、数発の銃弾は彼の自慢の美貌を傷つけてしまったという。フランス国王に復位したルイ18世がミュラの処刑を命じたのは、1804年に起こった王族アンギャン公処刑の復讐とも言われている。同僚のミシェル・ネイ元帥も銃殺刑にされている。

[編集] 家族

カロリーヌ・ボナパルトとの間に2男2女をもうけた。長男ナポレオン・アシルはアメリカに亡命し、ジョージ・ワシントンの姪と結婚して、フロリダで農園を経営している。次男ナポレオン・リュシアン・シャルルはイタリア統一戦争の際にはブルボン家に代わるナポリ国王の地位に推されたが実現しなかった。

又、父方の従妹マリー・アントニエッテ・ミュラはホーエンツォレルン=ジグマリンゲン侯カールに嫁いでいる。2人の間にできた孫のレオポルトはスペインの王位継承問題で国王候補に推され、普仏戦争の遠因となった。


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