エンジェル・ハウリング
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
エンジェル・ハウリング | |
---|---|
ジャンル | ファンタジー |
小説 | |
著者 | 秋田禎信 |
イラスト | 椎名優 |
出版社 | 富士見書房 |
掲載誌 | 月刊ドラゴンマガジン |
レーベル | 富士見ファンタジア文庫 |
巻数 | 全10巻 |
■テンプレート使用方法 ■ノート |
『エンジェル・ハウリング』は富士見ファンタジア文庫か刊行されている秋田禎信のライトノベル作品である。イラストは椎名優。
目次 |
[編集] 概要
この作品は奇数巻と偶数巻では主人公が異なる。奇数巻の主人公はミズー・ビアンカという女暗殺者、偶数巻の主人公はフリウ・ハリスコーというハンター見習いの少女である。この両者は普段は全くの別行動をしているものの時々で絡み合いながら、それぞれ未知の精霊アマワを巡る事件に挑んで行く。ミズー編とフリウ編を通して読む事で初めてミズーとフリウがどのような陰謀に巻き込まれていたのかという事が分かるようになっている。
ライトノベルレーベルから刊行されているが、精読を要求する複雑な構成、非常に硬派な人物描写、かなり内省的なカタルシスを抱えたクライマックスなどにより一般のライトノベルの範疇を良くも悪くも大いに逸脱している作品である。
[編集] 登場人物
声はドラマCDの出演者。
[編集] ミズー編
- ミズー・ビアンカ(声:山崎和佳奈)
- 奇数巻の主人公。辺境随一の腕を持つ女暗殺者。剣やナイフといった武器の扱いに秀でているのはもとより、念糸使い(能力は「熱する」)でもあり、加えて強力な力を持った獣精霊ギーアを扱う精霊使いでもある事がその腕をより確かなものにしている。絶対殺人武器を作るという思想に取り付かれたイムァシアの刀鍛冶達によって幼い頃から塔に幽閉され、徹底的に殺人技術を叩き込まれて育った。本当に存在しているのかどうかすら不明だった双子の姉、アストラ・ビアンカの消息を知るために、彼女が契約していたという未知の精霊アマワの謎を追い求める。
- 殺し屋を生業としているが、それはあくまで上述のようにイムァシアで殺人者として育てられ他にすることを知らないから(彼女いわく「もしわたしがあの場所でないところで育っていたらどうなっていただろう、という想像すらできないほど徹底的に今のわたしにさせられた」)であり、彼女自身は(必要とあれば躊躇しないものの)特段好戦的な性格でもなく、また必ずしも殺人という行為に対して肯定的でもない。
- 物語が進むにつれ、殺人武器としての自己がいかに一般的な人間性から遠くなっていたかを思い知らされ、その都度自分に呆れたり嘆いたり、時には悲鳴をあげたりする。
- アイネスト・マッジオ(声:石田彰)
- 神秘調査会の学者。非常に優れたマグスである。好青年風な風貌でおとぼけた性格を装っているが、実年齢は80歳以上であり、イムァシアにミズーやジュディアら念糸能力を持つ子供を引き渡していたのもアイネストである。
- その本性は他人の屈辱を眺めるのを好んだりと、かなり冷徹で曲者。ミズーを神秘調査会の計画に組み込むため、また調査会の目論見とは別に、個人的に彼女が真に硝化し精霊となるのを見たいがために彼女につきまとう。
- その偏執さはミズーをして「一般的な論理の尺度など意味がない。この男は根底からの狂人だ」「焼き尽くしたはずのイムァシアの狂気は未だここに残っている」と言わしめた。
- 干渉することをよしとしない絶対の観察者にして傍観者であることを自負し、全知を目指す。また自身が語るには師ですらも及ばないほどの大マグスである。
- その力は他人を殺すことで自分の尽きかけた命を無理やり伸ばす、といったことまで可能とする。
- あまりにも強いマギの力を持っているため、眠ることができない。もっとも本人いわく「こんな力は学べば誰にでも出来る、手品みたいなもの。念糸のような強力な力にはとても及ばない」と語っている。
- アストラ・ビアンカ
- ミズーの双子の姉。ミズーと共に塔に幽閉され殺人技術を叩き込まれて育ったが、8年前にミズーと生き別れる。しかしミズーは彼女のことを、塔での辛い経験が生み出した妄想の産物ではないかと疑っている。
- ウルペン(声:藤原啓治)
- 黒衣の変装をした謎の男。念糸能力者(能力は「乾かす」)。自らを契約者、そしてアストラの夫と名乗る。「なにもかもが不確かな世界の中で、確かなもの」を求めてアマワと契約する。ただ眠り続けるミズーの姉アストラを帝より下賜され、彼女を「妻」と呼ぶ。
- シルクの寝間着ほど愚かなものはないというのがポリシーで、妻アストラ(といっても帝都にある彼の自宅でただ眠り続けるだけなのだが)には木綿の寝間着を着せていた。
- 彼がアマワに発した問いは「俺が得られる確かなものはあるか?」。
- 答えは「ない」との一言であり、8年後彼はそれを実感させられることになる。
- アストラとの関係上、彼はミズーにとって義兄にあたる。
- ファニク
- ペイン・ギャングの使い走り。どこにでもいそうな風貌の、何の変哲もないただの若いちんぴらである。
- ミズーが帝都に向かう際、「こいつは便利な奴だし、女ひとりより男と女ふたりのほうが目立たないだろう」と彼のボスであるペインからミズーの手助けを命じられそれ以降ミズーに同行する。
- 気性はいたって温和であり、むしろフリウ編のスィリーに近い雰囲気を持っている。
- 非常に器用でこまめな男であり、その手回しのよさはミズーをして感嘆を通り越して呆れさせてしまうほどである。
- 彼の放ったある一言はファンのツボを妙についてしてしまい、今でも作者のファン同士の会話で使われている。
- ベッサーリ・キューブネルラ
- 帝国を統べる皇帝。兄帝とも呼ばれる。不死を願いアマワと契約した。
- メルソティは彼の実弟である。
- 未知の精霊アマワ(声:西川幾雄)
- 自らを御遣いと名乗る不思議な存在。常に他人の姿を借りて現れる。
- 賢者ガンザンワロウン
- アイネストの師。「断崖の図書館」なる隔絶された世界に住まう偉大なマグスである。
- アイネストは彼のことを「偉大なる大マグスにして愚鈍な我が師」と呼んでいる。
- 詳しいことはほとんど描写されなかった。
- 同作者の「シャンク!ザ・レイトストーリー/ロードストーリー」によく似た名前の人物が登場するが、あちらは「永遠の賢者ガンバンワロウン」であり、彼が創造した世界は「弾劾の図書館」である。両者は似ているが同一ではない(と思われる)。
[編集] フリウ編
- フリウ・ハリスコー(声:榎本温子)
- 偶数巻の主人公。14歳。硝化の森のほとりにある辺境の村で、左目に水晶眼と呼ばれる非常に貴重で強固な天然の水晶檻を持って産まれた。その水晶眼には破壊精霊ウルトプライドが封じられている。また、念糸を扱う事が出来る(能力は「捻じる」)。8年前に破壊精霊を暴走させて何十人もの村人を死なせてしまい、両親をも亡くす。それ以降は村八分にあい、よそ者であるベスポルトに引き取られ村はずれでささやかに暮らしてきた。
- 性格はいたって普通の子供。
- ベスポルト・シックルド(声:麦人)
- フリウの養父。8年前の事件によって孤児になったフリウを引き取り、以来ずっと彼女を育ててきた。元は帝国で打撃騎士の任に就いていたが8年前にそれを辞し、ハンターになるためにフリウの村へとやってきた。未知の精霊アマワに深い関わりを持つ人物。
- ちなみに武術を嗜んだそもそものきっかけは、本人が語るところによれば趣味で始めたことであるとのこと。
- サリオン・ピニャータ(声:小西克幸)
- フリウが住む村の麓にある街の警衛兵。8年前の破壊精霊暴走事件の際に起こったある事がきっかけでフリウに負い目を感じており、フリウを助けるようになる。
- なんとかしてフリウの力になりたいと常に考えているが、精霊や念糸使いといった強力な能力者たちが跋扈する物語の展開の中でただの警衛兵にすぎない彼は無力であり、活躍するシーンは最後まで皆無。また彼自身自らの無力さに常に悩み続けていた。
- 実際、サリオンの内面描写は心労と苦悩でもってつづられるのが大半であり、挿絵でも笑顔を見せることはほとんどない(常に困り顔)。
- しかし少なくともフリウにとっては彼は数少ない理解者であり、フリウは彼を指して「この世界にあって唯一優しいもの」「サリオンがいなかったら、あたしはこんなつらいことにきっと耐えられなかった」と述べている。
- スィリー
- 人精霊。手のひらサイズで全身は青色の金属光沢をしており、4枚の羽を生やし常に飛行している。ただし羽で飛行しているわけではないらしい。
- 偶然硝化の森でフリウと遭遇し、それ以降哲学的な理由によりフリウと行動をともにする。が、時々気紛れにいなくなる。
- 主に人生についての教訓めいたことを喋る。
- とにかく周りの状況など気にせず、何があってもひとりで勝手に喋り続けるため、フリウに鬱陶しいと思われることも多いが、それゆえ感謝されることも極めて稀にある。
- なぜかやたらと動物に食べられかけることが多い。フリウ曰く「あんたなんか美味しそうな匂いでも出してんじゃない?」とのこと。
- リス・オニキス
- 弟帝に仕える念糸能力者の老人。性格は非常に厳しく、偏屈とも言えるほど容赦がない。また老いてはいるが身体能力や念術能力は極めて優れている。
- 彼の念糸の効果は「もどす」。射出されたボウガンの矢に念糸をまきつけることで装填状態にまで逆戻りさせるといったことが可能。
- 元は帝国に征服された下級民で、奴隷として軍に徴集されたという。
- かつては筆頭軍属精霊使いであり、弟帝の護衛を務めていたが8年前の帝都の火事で公式には死亡したとされた。
- ベスポルドは彼の直護衛武官だった。
- 現在は公式には死亡したことになっているという身分を活かして影から弟帝のために活動しており、また契約者ではないがアマワについて知る数少ない人物の一人である。
- アマワを破壊するためフリウを利用しようとし、帝都からの追っ手から彼女を護りつつも帝都へ導く。
- マリオ・インディーゴ(声:川澄綾子)
- 弟帝に仕える気の強い少女。カリニスとエングという二体の鋼精霊を操る精霊使いだが、実戦経験が余り無い。
- フリウ編とミズー編の両方を行き来する人物でもある。
- 念糸の効果は「斬る」。念糸で触れたものを切断する。
- 黒衣の候補生だったが、訓練課程で脱落しそうになるところを弟帝に目をかけられ彼に拾われる。
- しかし彼女に与えられた任務はつまるところ使い捨ての時間稼ぎの駒であった。
[編集] 用語
- 精霊
- 帝国辺境にある硝化の森に生息する不可思議な存在。その多くが特にといった姿を持たない無形精霊である。こうした精霊はハンターによって捕獲され、様々なエネルギー源として活用されている。また、数は少ないが有形精霊は強力な力を持った精霊であり、こうした精霊は捕獲されると訓練されて軍用に使われる。
- 水晶檻
- 丸い水晶のような玉で、内部に精霊を閉じこめることができる。中に精霊が入っている時は淡く発光する。檻の開閉ができるのは念糸使いだけである。傷つけられると拘束力が弱まり、強い爆発とともに精霊を解放する。
- 水晶眼
- 瞳孔及び虹彩が無色の眼球で、通常は視力は無い。硝化の森近隣に住む人々の中に極々稀にこの眼を持った者が産まれる事がある。天然の水晶檻とも呼べる代物で、どんなに精巧に作られた水晶檻よりも強力に精霊を封じる力があり、また、精霊を引き寄せ、封じずにはいられない性質も持っている為、持ち主が誕生した時には、既に精霊が入っている。
- 入っている精霊の多くは力の弱い無形精霊で、水晶眼の封印の力の強さゆえ、水晶眼を外部から破壊する以外の手段では、外へ出る事は適わないが、強力な精霊が入っている場合は、開門式を唱える事で、力を伴う影のみを自身の視界範囲へと出す事なら可能。また、その間は視力が戻る。持ち主が死亡しても、潰されさえしなければ、腐る事無く永遠に残るという。
- 精霊使い
- 有形精霊を扱う特殊な訓練を受けた念糸使い。
- 硝化の森
- 帝国の辺境に広がる不思議な森。この森の植物や水など、自然物は全て鋭利な硝子で出来ている。また同時に非常に寒冷な気候である。そのため精霊以外の生物は全く生存していない。硝化の森に立ち入るには防寒や耐刃に優れた特殊な装備が必要になるが、それらで身を固めてもなお一度転んだだけでも命を落としかねない非常に過酷な環境である。また、年々森の範囲は広がり続けている。精霊の生まれる場所であり、最初に森が発生した地、すなわち森の最奥には最古の精霊が住んでいると言われている。
- ハンター
- 硝化の森で精霊を捕らえ、売ることで生計を立てている人々。
- 念糸
- 意思の力で紡がれた糸。念糸を繋げたものに対して様々な魔法の様な効果を起こす事が出来る。念糸を使える者は生まれつき素養がある者に限られており、念糸によってもたらされる効果も人によって様々である。また、有形精霊を捕まえられる程の強固な精霊檻は念糸がなければ開閉することが出来ない。
- 念糸使い
- 念糸を使える者は数少ないため、念糸を使える子供は全て帝国に保護される事になっている。しかし極稀に帝国にその存在を悟られず、在野にとどまっている念糸使いもいる。強固な精霊檻の扱いの関係上、精霊使いになれるのは念糸使いのみである。
- 帝国
- 広大な領土を持つ国。帝都イシィカルリシア・ハイエンドを首都に置く。
- 黒衣
- 帝直属の特殊暗殺部隊。優れた戦闘技術と念糸能力を持つ。全身を黒いマントと仮面で覆い、言葉はおろか足音や吐息に至るまで、一切の音を立てないと言われている。あらゆる司法を超えた処刑権限を持ち、その不気味さから帝都の住民にも忌み嫌われている。滅多に帝都から出る事は無い。
- 神秘調査会
- 有能なマグス達で構成される学者集団。この世の全ての謎を解き明かすことを掲げており、一般人からはスパイ集団として嫌われている。
- マギ
- 魔法の様なことを起こせる技術。学べば誰でも身につける事が出来る。マギを使う人間をマグスと呼ぶ。
[編集] 既刊一覧
エンジェル・ハウリング(全10巻)
- 獅子序章 -from the aspect of MIZU ISBN 4829113049
- 戦慄の門 -from the aspect of FURIU ISBN 4829113405
- 獣の時間 -from the aspect of MIZU ISBN 4829113839
- 呪う約束 -from the aspect of FURIU ISBN 4829113952
- 獲物の旅 -from the aspect of MIZU ISBN 4829114452
- 最強証明 -from the aspect of FURIU ISBN 4829114649
- 帝都崩壊(1) -from the aspect of MIZU ISBN 4829115858
- 帝都崩壊(2) -from the aspect of FURIU ISBN 482911603X
- 握る小指 -from the aspect of MIZU ISBN 4829116315
- 愛の言葉 -from the aspect of FURIU ISBN 4829116560
[編集] 関連商品
- エンジェル・ハウリング 硝化の声―椎名優画集 ISBN 4829191309
- エンジェル・ハウリング1 獅子序章―from the aspect of MIZU MMCC-4029 (2002年7月25日発売)
- エンジェル・ハウリング2 戦慄の門-from the aspect of FURIU MMCC-4031 (2002年9月25日発売)