アヴェスター語
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アヴェスター語とは、ゾロアスター教の聖典アヴェスターに用いられた言語。 インド・イラン語派イラン語東部方言に分類される。
実際に話されていた場所や時代は定かではないが、言語学その他による検証により、 紀元前7世紀頃のイラン東南部の言語とする説が有力。 現存する最古の史料はサーサーン朝ペルシア末期、6世紀頃の物で、それ以前は 口承伝持で伝えられてきたと考えられる。
表記にはアヴェスタ文字が用いられる。 これはパフラヴィー語と同じくアラム文字を元に、6世紀頃創作された文字で、母音や子音の微妙な相違まできちんと表記できる、イラン諸言語で用いられた文字としては唯一の例として知られる。
アヴェスター語は更に、開祖ザラスシュトラ自身の作と思われるガーサー(詩)に用いられるガーサー語と、後年弟子や信者達によって付け加えられた部分に用いられる新体アヴェスター語に分けられる。 ガーサー語はより古い言語、新体アヴェスター語はより新しい言語と思われ、音韻や文法などに若干の相違がある。
インドのサンスクリット語とは極めて近縁の言語で、特にサンスクリットの最古層であるヴェーダ語(リグ・ヴェーダなどに用いられた言語)とは文法的にも酷似している。 そのため、俗に「アヴェスターをヴェーダ語に翻訳するには、一定の規則に従って個々の音を置き換えるだけで良い」と言われるほどである。
サンスクリットとアヴェスター語の音韻上の相違点のうち重要な物を以下に幾つか例示する。 なお、サンスクリットの表記は京都・ハーバード方式による。
- サンスクリットのsはアヴェスター語のhになる。 例) sapta (七) = hapta
- 同じくhはzになる。 例) hasta (手) = zasta
- 無声帯気閉鎖音kh、th、phは摩擦音x、θ、fになる。例) gaathaa (詩頌) = gāθā
- 有声帯気閉鎖音gh、dh、bhはg、d、bになる。 例) bhraatar (兄弟) = brātar
- yやrの前の閉鎖音は摩擦音になる。 例) mitra (ミトラ神) = miθra
- 語中のt等の閉鎖音、n、r等は、後ろにi、yが来ると前の母音にiを生じさせる。
- 例) bharati (彼は運ぶ) = baraiti , vaarya (望ましい) = vairya
- なお、この"i"は、後続のt等の閉鎖音、n、r等の子音がやや口蓋化する事を示す物で、それ自体は発音しない。例えばvairyaはワルヤ、或いはワリヤの様に発音されていたと思われる。
- 語中のt等の閉鎖音、n、r等は、後ろにu、vが来ると前の母音にuを生じさせる。
- 例) auruša (白い) = aruSa
- なお、この"u"は、後続のt等の閉鎖音、n、r等の子音がやや円唇化する事を示す物で、それ自体は発音しない。
- spはzvになる。 例) azva (馬) = aspa
- eはaēになる。例) deva (デーヴァ神族) = daēva (悪神)
- oはaoになる。 例) soma (神酒) = haoma