98式戦車
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建国50周年記念軍事パレードでの98式戦車 |
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98式戦車 | |
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性能諸元 | |
全長 | 11.0 m |
車体長 | 7.30 m |
全幅 | 3.40 m |
全高 | 2.40 m |
重量 | 52.0 t |
懸架方式 | トーションバー方式 |
速度 | 70 km/h(整地) |
60 km/h(不整地) | |
行動距離 | 650 km(予備燃料タンク使用時) |
主砲 | ZPT-98式50口径125mm滑腔砲(主砲の携行弾数42発) |
副武装 | 85式12.7 mm機関銃 86式7.62 mm機関銃 |
装甲 | 複合装甲 |
エンジン | 水冷4ストローク V型12気筒ディーゼルエンジン 1200 hp |
乗員 | 3 名 |
98式戦車(98式主战坦克・ZTZ-98/WZ-123)は、中華人民共和国の戦車。1986年から10年以上の歳月を費やし、80式戦車から96式戦車までの中国国内開発と、85式戦車や90-II式戦車で行われたパキスタンとの共同開発で得た技術蓄積を活用し、中国人民解放軍陸軍第三世代主力戦車の決定版として開発され、建国50周年記念軍事パレードで公表され、彼の著名なジェーンズディフェンスウィークリーも98式戦車を世界で最も先進的な戦車の一つと評している。当初は21世紀における中国軍の主力戦車となると思われたが、実際は更なる改良が施された99式戦車が代わって正式採用された。
目次 |
[編集] 概要
中国で第三世代戦車の開発が検討されたのは1970年代末である。ただし当時の中国の技術的立ち遅れを踏まえて、第三世代戦車に必要な技術の開発と次世代戦車の目指すコンセプトの確立のために技術実証車を研究開発することから始めた。その後T-72をベースにしたプロジェクトが進められる事になり、1986年に中央軍事委員会により承認された。
加えて、1991年の湾岸戦争でアメリカ軍を始めとする西側諸国の第3世代戦車になすすべ無く撃破されるソ連製や中国製の第1・第2世代戦車は中国にとってはまさに衝撃的な光景であり、西側の戦車に対抗できる本格的な第3世代戦車の自国生産を目標に開発を急いだ。最初に出来た第3世代戦車である90-II式戦車(パキスタンとの共同開発)は輸出用とされ中国軍には配備されなかった。(輸出向け戦車に採用した技術を国内向け車両にフィードバックするという開発手法は、80年代以降の中国戦車開発でよく見られる手法である。)
1980年代に中国は旧西ドイツからレオパルド2の購入またはライセンス生産を検討したが実現しなかった。しかしそれ以降も戦車開発に関してはレオパルド2を強く意識した案が数多くあがった。
1980年後半以降の中国軍の戦車開発コンセプトは、
- 車体は比較的実績があり、信頼性の高い69/79式戦車や旧ソ連のT-72系ベースに開発。
- 西側主力戦車に匹敵するFCS(射撃統制装置)の導入。
- 旧ソ連製2A46M系の125mm滑腔砲をさらに発展した国産滑腔砲と自動装填装置の装備。
- 本格的な複合装甲の採用
開発に際してはドイツのレオパルド2を意識した砲塔デザインと自国の90-II式戦車とソ連のT-72、T-90の砲と車体技術をベースに、1993年に4輌の試作車が造られ1995~1996年にかけて各種テストが実施され更に4輌の試作車輌を加え開発が進められた。そして1996年に正式に98式戦車の名称を受け本格配備が始まった。
エンジンにはイギリス製 パーキンス・コンドーCV12-1200TC V型12気筒水冷ディーゼルを当初採用した。98G式戦車では、ドイツとウクライナの技術を元に自国で開発した1200hpディーゼルエンジンを搭載している。
また、変速機も90-II式戦車から採用されたオートマチック(自動変速)からマニュアル(手動変速)に切り替えられた。
1999年10月の中国人民解放軍の50周年記念パレードで初めてその姿を現すも、それ以降は量産されることはなく、更にエンジンを1500hpに改良した99式戦車が21世紀初めの中国人民解放軍の主力戦車として正式採用された。
[編集] 武装
砲手用照準器にはフランス製のペリスコープ型昼夜兼用システムSAGEM-HL60が採用されている。これはニ軸式主砲スタビライザー2E28と同調し、弾道計算コンピュータ、環境センサーのデータとリンクして極めて高い初弾命中精度を実現している。内蔵されているレーザー測距器は200~5,000mの範囲で正確に測定する事が可能で、データは自動的に弾道計算コンピュータに入力される。暗視システムは熱線映像式で目標の有効識別距離は125mm滑腔砲の最大有効射程を上回る(3,100m)。倍率は4倍と10倍の切り替え式で、前方20度の範囲の視界を確保している。高さ2.7mの停止目標に対しては2,500m、動目標に対しては1,300mの距離で高い命中率を誇るとされている。車長にも主砲用に使用できるパノラマ式照準器SFIM-HL70が装備されている。これと操砲ハンドルを用いて車長が砲手をオーバーライドして主砲を装填、発射する事が可能。HL70は周囲180度に渡り視界を有しており、レクチル内の倍率は7.5倍である。
戦車砲はロシアの2A46Mをベースに威力の向上や砲身命数の向上などの改良を加えたZPT-98式 50口径125mm滑腔砲が採用されている。砲身はサーマルスリーブで覆われており、砲身命数は700発。ZPT-98はベースとなった2A46Mと同じくレーザー誘導式の砲発射ミサイル9M119が発射可能である。自動装填装置はT-72のカセトカ自動装填装置の改良型を採用し、最大発射速度は毎分12発に達する。FCSや外部視察装置は西側の技術が導入されている。HL60照準器はニ軸式主砲スタビライザー2E28と同調し、弾道計算コンピュータ、環境センサーのデータとリンクして極めて高い初弾命中精度を実現している。
一例として、
- 85式戦車では、1,600mでの固定目標に6秒以内に射撃が可能で命中率は90%以上、1,200mでの移動目標に対しては12秒以内に射撃が可能で命中率は90%。 ただし砲身のブレを制動する機能が低いようで行進間射撃能力は期待できない。
- 90-II式戦車では1998年に、パキスタンの砂漠地帯で試作車の評価試験が行われており、この試験の公式発表によると、アル・ハリド戦車は2,000m離れた動目標に対して、40km/hの速度で移動しながら射撃を行い、85%の命中率を発揮したという。
があるが、98式戦車は固定射撃と行進間射撃においてこれら二車種を凌駕する射撃精度をもち、高さ2.7mの停止目標に対しては2,500m、動目標に対しては1,300mの距離で高い命中率を誇るとされている。
[編集] 防護力
中国最大のポータルサイト新浪網の98式戦車特集においては主装甲(前面)の防御力はアメリカ軍のM1A2エイブラムスにおいては車体と砲塔においては最も弱い所で均質鋼板600mm、最も強い所で700mmの均質鋼板に相当し、ドイツ軍のレオパルド2A6は車体と砲塔において弱い所で580mmの均質鋼板に、最も強い所で700mmの均質鋼板に相当し、対する98式戦車は最も弱い所で500~600mmの均質鋼板に相当し、最も強い所で700mmの均質鋼板に相当するとしている、また前述の新浪軍事の過去の様々な特集では98式戦車の開発を担当した人物達に常にインタビューしその本人の写真も公開しているので信頼性は高いと言える。[1]。
装甲以外においては砲塔後部全体には籠状の荷物ラックがあり、対HEAT弾防御も兼ねている。これはチェチェン紛争においてロシア軍のT-72が、爆発反応装甲や複合装甲の無い砲塔後部をRPG-7で狙われ多数撃破された戦訓を取り入れたものと思われる。
近年、中国は工業技術の急速な発展(ニッケルを従来よりも2割安く冶金する技術を世界で最初に開発したのは中国企業であるなど西側にも引けを取らない高い技術を持った企業も出てきている。;NHK「激流中国」より)を成し遂げており、複合装甲開発にも役立てられている。
市販されているほとんどの軍事系雑誌では拘束セラミック複合装甲(これらは、アップデートと交換が容易であり、複合装甲の上から重量が増加してしまうERAなどの能動型の増加装甲、もしくは楔型装甲のように大容積で大重量となる受動型の増加装甲をわざわざ装着する必要性は低い。事実、90式戦車やルクレール改修型であるルクレール・アジュールというタイプでも既存の主複合装甲の強化を目的に重量増加を招く増加装甲は装着されていない。分かりやすい例として、ルクレールを開発・生産している旧GIAT・現NEXTERでは、ルクレール・アジュールの増加装甲の装着箇所を色分けした公開画像が存在するので参照されたい[1][2]。緑色が既存の状態で水色が増加装甲の箇所である。主複合装甲強化のために増加装甲を装着していない事が明確に分かる。ただし、レオパルド2A6は拘束セラミック複合装甲を導入しているが受動型の楔型増加装甲を採用している。)が使用されていると記述しているが一部ではそれは実用化できず、代わりに重金属系素材を複合装甲の主体として使用しているとの主張が存在する。
その根拠として、装甲が傾斜しているのと98式戦車ではベースとなった90-Ⅱ式戦車の48トン(非戦闘重量は46t)と比べて多少砲塔は大型化したが、重量は4トンも増えているためとしている。(日本で出版されてるコミック社の「戦車大百科」では98式戦車を48tとしている。)
※※(参考として劣化ウラン、タングステンなどの重金属系素材は、複合装甲に適用する場合、セラミックス素材と比較して容積あたりの重量がかなり増加する欠点はあるが、加工技術や低コスト実現の面から高度な工業技術が要求されるセラミックスよりも、技術的にはハードルが低く済むために、安価かつ比較的容易に複合装甲に適用可能とされる。ちなみに中国は世界最大のタングステン採掘国である。)
※90式戦車の項によると、装甲を傾斜させると前面投影面積あたりの重量が増加するために傾斜装甲という構造上重量増加は止むを得ない面がある。
※※また、98式戦車(主砲の携行弾数42発)はサイズ面から言うと90式戦車(主砲の携行弾数32発)とルクレール(主砲の携行弾数40発)の中間に位置し、使用している砲と砲弾が両車よりも大型であり、複合装甲の割合によっては52tという重量はそれほどの重量ではないという意見もある。
※※※前述のように拘束セラミック複合装甲を導入しているレオパルド2A6でも主装甲の強化に大重量の増加装甲を導入している事例があり、80年代にドイツなどからも技術を導入している中国の戦車開発の歴史と98式戦車がレオパルド2を意識している面も考える必要があるであろう。
総合的に見て、傾斜している主複合装甲という外観だけで今までセラミックス主体だった中国の複合装甲が急に本車でセラミックスを使用しなくなり、代わりに重金属系素材を主体として使用するようになったという判断は性急過ぎる感がある。
中国製対戦車ミサイル(投稿者によるとHJ-9)により複合装甲に対する耐弾試験を行う98式戦車の映像が公開されている(外部リンク参照)。[2]
この不鮮明な映像では、98式戦車の複合装甲が対戦車ミサイルに対して貫通もしくは耐弾しているのかどうかは不明である。そして使用された対戦車ミサイルに関しても、不鮮明な映像からは、ランチャーの形状が似ているHJ-8対戦車ミサイル(垂直に立てた厚さ800mmの均質鋼板を貫通する威力)やHJ-9対戦車ミサイル(垂直に立てた厚さ1,200mmの均質鋼板を貫通する威力)のどちらであるのか、断定をすることはできないであろう(対戦車ミサイルの威力に関する一例としてアメリカのヘルファイア対戦車ミサイルは1,400mmの均質鋼板を貫通する威力がある)。
[編集] 生存性
98式戦車ではカセトカ自動装填装置[3]を大幅に改良した自動装填装置を採用している(中国最大のポータルサイト新浪網での西側戦車との自動装填装置の相違を比較した軍迷談兵つまりは「軍事マニア兵を語る」を参照されたい[4])が、湾岸戦争時のT-72やチェチェン紛争におけるT-80などの東側戦車と同様に自動装填装置の構造(弾薬庫と自動装填装置は砲塔内の戦闘室底部に位置する)から、被弾時には98式戦車に誘爆の危険性を指摘する意見があるが弾薬庫を砲塔後部バスルに移し、さらに砲塔後部バスル上部に爆風を上方へと逃がすブロー・オフ・パネルが採用されていない事を背景にしているものの、「軍事マニア兵を語る」では、この事を否定している。「軍事マニア兵を語る」を参照するとブロー・オフ・パネルが採用されているレオパルド2を例にとると砲塔パズル内にある弾数は15発、残り27発は車体内の操縦士のいる位置の左側に収納されている。つまり、西側戦車の砲弾は全て砲塔パズル内にあるわけではなく多くは車体内にあり、湾岸戦争時のT-72同様、車体を打ち抜かれれば砲塔が丸ごと吹き飛ぶ事になる。しかしながら、ブロー・オフ・パネルの装備とその他設備によって、砲塔内に移した砲弾が誘爆しても生存性を悪化させる事なく車体内の砲弾を移した事によって同じ体積のままで装甲を強化できる等様々な利点が得られる。
しかしながら、ただ単に砲塔パネルに砲弾を移すと逆に大幅に生存性を下げる事になってしまう。事実、「軍事マニア兵を語る」で砲塔パネルと戦闘室の間の装甲が薄いと被弾時に爆風が装甲を突き破り装甲の破片が乗員を殺傷する危険性があり加えて、統計上40~50%の撃破された戦車の被弾は砲塔である事が上げられている(また、本文ではM1エイブラムスが戦闘時には装填がし易いように砲塔パネルから砲弾がすぐに取り出せるようにするためにパネルと戦闘室の間の装甲が常に開かれているおり被弾時には爆風が戦闘室に流れ込む危険性がある事を指摘している)。98式戦車はそもそも砲塔内には砲弾はなく砲塔の爆風が弾薬庫に流れ込まないようになっている(詳細は「軍事マニア兵を語る」を参照)。
「軍事マニア兵を語る」を参照すると西側戦車の砲弾を砲塔パズルに移しブロー・オフ・パネルを採用した理由は主に砲塔の平衡を保ち、砲の全ての方向における精度と安定性を保つ事であると言う。
また、「軍事マニア兵を語る」においてレオパルド2とメルカバが世界で最も生存性が高いと言われる所以は自動消火装置と爆発抑制装置の性能が他を圧倒している事であるとしている。T-72が湾岸戦争で誘爆が続発した理由に自動消火装置すら装備していなかった事が大きいと言われている。ただし、爆発抑制装置を装備していないと消火が間に合わない場合の乗員脱出の時間を稼ぐことができない。98式戦車は自動消火装置と爆発抑制装置を両方とも装備しているため旧来のロシア式戦車よりも生存性は高くなっている。
ただし、今までブロー・オフ・パネルを装備しなかった東側戦車でも近年新たに登場したウクライナの改良型T-80(T-84)やロシアのチョールヌィイ・オリョールなどでは即応弾の弾薬庫や自動装填装置を西側第三世代戦車のように砲塔後部バスルに移すようになっている。
西側の第三世代戦車ではブロー・オフ・パネルを採用していない例外として韓国のK1 (戦車)/K1A1があるが、後継となるK2 (戦車)では、他の西側第三世代戦車と同じく自動装填装置や即応弾の弾薬庫を砲塔後部バスルに移し、さらに砲塔後部バスル上面にはブロー・オフ・パネルも採用している。
[編集] 評価
M1A1及びM1A2を導入したサウジアラビアでは98式戦車の基礎となった90-ⅡM式戦車のパキスタン仕様(ライセンス生産)であるアル・ハリドのトライアルを実施しているという。試験結果が良好と判定された場合には6億ドルで150両を調達する可能性が伝えられているとされる事からも、98式戦車は総合的に見て先進的な性能を有していると思われる。
[編集] アクティブ防御システム
本車の最大の特徴はJD-3と呼ばれる中国軍独自のアクティブ・レーザー防御システムを搭載しているという事である。これは敵車両からのレーザー照準を感知し警告を発し、敵のレーザー照準機に対し攪乱・破壊レーザーを発する事で攻撃を防ぐシステム。レーザー通信機能も兼ねるとされる。
また、中国側はこのレーザーは発射された砲弾や対戦車ミサイルの迎撃能力もあり、対空兵器としても効果があると謳っているがその能力は定かではない。改良版の99式戦車にもある程度の改良を加えつつも引き継がれている。
[編集] 開発者インタビュー
[編集] 外部リンク
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