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意思決定支援システム - Wikipedia

意思決定支援システム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

意思決定支援システム(いしけっていしえんシステム、Decision support system;DSS)とは、コンピュータを利用した情報システムあるいはエキスパートシステムの一種で、その名の通り意思決定を支援する。

目次

[編集] 定義

意思決定には汎用的モデルが定まっていないため、また意思決定を必要とする領域範囲は広いため、「意思決定支援システム」(DSS) の概念も幅広い。DSS には様々な形態がある。最小限の定義をするとすれば、DSS は意思決定をするためのシステムである。意思決定とは、複数の選択肢から予想される価値を判断してひとつの選択肢を選ぶことである。意思決定を支援するとは、この予想および比較を支援することによって選択を支援することに他ならない。実際、DSSと呼ばれるコンピュータアプリケーションの多くは、そのような支援を行う。

「意思決定支援システム」という用語は様々な意味で用いられ(Alter 1980)、執筆者の視点によっては全く異なった定義を与えられる(Druzdzel and Flynn 1999)。Finlay (1994)らは DSS をやや広く捉え、「意思決定のプロセスを支援するコンピュータベースのシステム」と定義した。Turban (1995) は、より限定的に「対話的で柔軟なコンピュータベースの情報システムで、構造的ではない経営上の問題の解決を支援するために開発されたものである。データを利用し、利用しやすいユーザーインターフェイスを備え、意思決定者自身の洞察を考慮する」と定義した。他の定義はこの2つの中間に位置する。Keen and Scott Morton (1978) によれば、DSS は個人の知的リソースをコンピュータの機能と結びつけ、意思決定の質を高める(「DSS は、半構造的問題を扱う経営者のためのコンピュータベースのサポートである」)。Sprague and Carlson (1982) によれば、DSS は「非構造的問題を解決するためにデータとモデルを利用して意思決定者を支援する対話的コンピュータシステム」である。対照的に Keen (1980) は、DSS の全ての面を含む厳密な定義を与えることは不可能であるとした(「意思決定支援システムの定義は、意思決定を支援する、としか言いようがない」)。それにも関わらず、Power (1997) によれば「意思決定支援システム」という用語は有効であり、意思決定に関わる各種情報システムを包含した用語として使用されている。彼は、オンライントランザクション処理システム(OLTP)以外のコンピュータシステムを全て「意思決定支援システム」と呼びたい誘惑にかられるかもしれない、とユーモアを交えて述べた。以上のべたように、DSS の一般に広く通用する定義は存在しない。

参考となる書籍:Druzdzel and Flynn (1999)、Power (2000)、Sprague and Watson (1993)、Power (2002) の第1章、Makaras (1999) の第1章、Silver (1991) の第1章、Sauter (1997) の第2章まで、Holsaple and Whinston (1996)

[編集] 歴史

包括的定義はないが、DSS の歴史を見てみよう(Power, 2003 参照)。Keen and Scott Morton (1978) によれば、意思決定支援という概念は2つの研究から生まれた。ひとつは1950年代末期から1960年代初期にカーネギー工科大学でなされた組織的意思決定の理論的研究である。もうひとつは1960年代にマサチューセッツ工科大学で行われた研究に端を発する対話型コンピュータシステムの技術的成果である。1970年代中ごろには DSS は独自の研究領域を形成するようになり、1980年代には産業への応用が始まった。1980年代中盤以降、経営情報システム(EIS)、グループ意思決定支援システム(GDSS)、組織意思決定支援システム(ODSS)などが生まれた。1990年代初期、データウェアハウスOLAPが DSS の役割も果たすようになってきた。2000年ごろには新たなウェブベースの解析アプリケーションが生まれた。

データベース研究、人工知能マンマシンインターフェースシミュレーション手法、ソフトウェア工学通信など、様々な学問領域にまたがって DSS が形成されていることは明らかである。

DSS は、ハイパーテキストにも若干関連している。バーモント大学のPROMISシステム(医療意思決定支援)やカーネギーメロンの ZOG/KMS システム(軍事および商用意思決定支援)は、意思決定支援システムであると同時にユーザーインターフェイス研究においても重要な意味を持つ。さらにハイパーテキストの研究者は情報オーバーロードとの関連で語られることが多いが、ダグラス・エンゲルバートなどは意思決定支援にも注力していた。

[編集] 分類

定義と同様、DSS に関する一般的な分類も存在せず、人によって異なった分類をしている。Hättenschwiler (1999) では判断基準としてユーザーとの関係を使い、「受動型DSS」、「能動型DSS」、「協調型DSS」に分類した。「受動型DSS」は意思決定を支援するものの、明確な示唆や解答を与えない。「能動型DSS」は明確な示唆や解答を与える。「協調型DSS」では、システムの提供する示唆を意思決定者が修正することができ、その後に妥当性検証を行う。システムはさらに示唆を強化・完成させ、意思決定者に示す。このようなプロセスを繰り返し、統合された解決策を生成する。

Power (2002) では判断基準として支援のモードを使い、「通信駆動型DSS」、「データ駆動型DSS」、「文書駆動型DSS」、「知識駆動型DSS」、「モデル駆動型DSS」に分類した。

  • モデル駆動型DSS は、統計的モデル・金融的モデル・最適化モデル・シミュレーションモデルの操作およびアクセスに注目したもの。モデル駆動型DSSはユーザーが提供したデータやパラメータを使用して意思決定を支援するが、データは必ずしも重要ではない。モデル駆動型DSS の例としてオープンソースの Dicodess がある(Gachet 2004)。
  • 通信駆動型DSSは、複数の人間がひとつのタスクを共有している状態をサポートする。例としてはマイクロソフトの NetMeeting や Groove がある(Stanhope 2002)。
  • データ駆動型DSSまたはデータ指向DSSは、時系列データの操作やアクセスに注目したもの。
  • 文書駆動型DSSは、様々な電子化された形式の構造化されていない情報を操作・管理する。
  • 知識駆動型DSSは、特定の問題解決のための事実、規則、手続きなどから構成される。
  • トレードオフ駆動型DSSは、長所と短所などのトレードオフに関して意思決定を行う意思決定支援システム。

Power (1997) では判断基準として範囲を使い、「企業DSS」と「デスクトップDSS」に分類した。「企業DSS」は巨大なデータウェアハウスを使い、企業の多くの管理者が利用する。「デスクトップDSS」は個々のPC上で動作する小さなシステムである。

[編集] アーキテクチャ

DSS の構成要素の取り出し方は人によって異なる。Sprague and Carlson (1982) は DSS の構成要素として (a)データベースマネジメントシステム(DBMS)、(b)モデルベース管理システム(MBMS)、(c)対話生成管理システム(DGMS) を基本として取り出した。Haag et al. (2000) ではこの3要素をさらに詳細に説明している。データ管理部は情報を格納する(情報はインターネットなどから得られるデータと個人の経験から得られるデータに分類される)。モデル管理部はイベント・事実・状況の表現を管理する(様々なモデルを使用。例えば最適化モデルやゴール探索モデル)。ユーザーインターフェイス管理部はシステムとユーザーの対話を管理する。

Power (2002) によれば学者や実業家の議論で DSS を以下の4つの構成要素に分解した。(a)ユーザーインターフェイス(b)データベース(c)モデルおよび解析ツール、(d) DSSアーキテクチャとネットワーク、である。Hättenschwiler (1999) では以下の5つの構成要素としている。(a) 意思決定に関わる様々な役割を持つユーザー(意思決定者、アドバイザー、問題領域の専門家、システムの専門家、データ収集者)、(b) 限定的かつ定義可能な意思決定コンテキスト、(c) 意思決定システム本体、(d) 知識ベース(データベース、データウェアハウス、手続きや手法を格納するメタデータベース、検索エンジンインターフェイスなど)、(e) 意思決定の文書化・解析などを行う環境、である。

Marakas (1999) では汎用アーキテクチャが以下の5要素から構成されるとした。(a) データ管理システム、(b) モデル管理システム、(c) 知識エンジン、(d) ユーザーインターフェイス、(e) ユーザー、である。

DSS アプリケーションの分類にもいくつかの方法がある。ある DSS が必ずしもどれかのカテゴリに完全に適合するわけではなく、複数のアーキテクチャの混合となることもある。

Holsapple and Whinston (1996) は DSS を以下の6つのフレームワークに分類した。テキスト指向DSS、データベース指向DSS、表計算指向DSS、問題解決指向DSS、規則指向DSS、混合DSS である。混合DSS(compound DSS) が最も一般的であり、他の5つの基本構造のいくつかを統合したものを指す。

DSS による支援は3種類に分類される(Hackathorn and Keen, 1981)。個人支援、グループ支援、組織支援、である。

人工知能知的エージェント技術に基づいた意思決定支援を行うDSSは知的意思決定支援システム(IDSS)と呼ばれる。例えば Gadomski et al.(2001) を参照。

[編集] 応用例

これまで述べたように、理論的には任意の知識領域で意思決定支援システムを構築可能である。

1つの例は、医学診断のための医療診断支援システムである。他に銀行での融資決定、プロジェクトの技術的意思決定、コスト競争力評価などがある。

特定の例としてカナダ国有鉄道のシステムがある。このシステムは意思決定支援システムを使って機器をテストするものである。鉄道が直面する問題の多くは、レールが古くなったためか、レールが不完全なために発生する。結果として脱線が発生する。同じ時期に他の鉄道では脱線の発生率は高くなっていたが、DSS により、カナダ国鉄は脱線の発生率を低減させた。

DSS には様々な応用がある。組織が必要と考える任意の領域で利用可能である。株式市場での意思決定支援や製品のマーケティングなどにも利用可能である。

[編集] 参考文献

  • Alter, S. L. (1980). Decision support systems : current practice and continuing challenges. Reading, Mass., Addison-Wesley Pub.
  • Druzdzel, M. J. and R. R. Flynn (1999). Decision Support Systems. Encyclopedia of Library and Information Science. A. Kent, Marcel Dekker, Inc.
  • Finlay, P. N. (1994). Introducing decision support systems. Oxford, UK Cambridge, Mass., NCC Blackwell; Blackwell Publishers.
  • Gadomski, A.M. at al.(2001) "An Approach to the Intelligent Decision Advisor (IDA) for Emergency Managers.Int. J. Risk Assessment and Management, Vol. 2, Nos. 3/4.
  • Gachet, A. (2004). Building Model-Driven Decision Support Systems with Dicodess. Zurich, VDF.
  • Gomes da Silva, Carlos; Clímaco, João; Figueira, José. European Journal of Operational Research.
  • Haag, Cummings, McCubbrey, Pinsonneault, Donovan (2000). Management Information Systems: For The Information Age. McGraw-Hill Ryerson Limited: 136-140.
  • Haettenschwiler, P. (1999). Neues anwenderfreundliches Konzept der Entscheidungsunterstützung. Gutes Entscheiden in Wirtschaft, Politik und Gesellschaft. Zurich, vdf Hochschulverlag AG: 189-208.
  • Hackathorn, R. D., and P. G. W. Keen. (1981, September). "Organizational Strategies for Personal Computing in Decision Support Systems." MIS Quarterly, Vol. 5, No. 3.
  • Holsapple, C.W., and A. B. Whinston. (1996). Decision Support Systems: A Knowledge-Based Approach. St. Paul: West Publishing.
  • Jiménez, Antonio; Ríos-Insua, Sixto; Mateos, Alfonso. Computers & Operations Research.
  • Keen, P. G. W. (1980). Decision support systems: a research perspective. Decision support systems : issues and challenges. G. Fick and R. H. Sprague. Oxford ; New York, Pergamon Press.
  • Keen, P. G. W. and M. S. Scott Morton (1978). Decision support systems : an organizational perspective. Reading, Mass., Addison-Wesley Pub. Co.
  • Marakas, G. M. (1999). Decision support systems in the twenty-first century. Upper Saddle River, N.J., Prentice Hall.
  • Power, D. J. (1997). What is a DSS? The On-Line Executive Journal for Data-Intensive Decision Support 1(3).
  • Power, D. J. (2000). Web-based and model-driven decision support systems: concepts and issues. in proceedings of the Americas Conference on Information Systems, Long Beach, California.
  • Power, D. J. (2002). Decision support systems : concepts and resources for managers. Westport, Conn., Quorum Books.
  • Power, D.J. A Brief History of Decision Support Systems. DSSResources.COM, World Wide Web, http://DSSResources.COM/history/dsshistory.html, version 2.8, May 31, 2003.
  • Reich, Yoram; Kapeliuk, Adi. Decision Support Systems., Nov2005, Vol. 41 Issue 1, p1-19, 19p.
  • Sauter, V. L. (1997). Decision support systems : an applied managerial approach. New York, John Wiley.
  • Silver, M. (1991). Systems that support decision makers : description and analysis. Chichester ; New York, Wiley.
  • Sprague, R. H. and E. D. Carlson (1982). Building effective decision support systems. Englewood Cliffs, N.J., Prentice-Hall.
  • Sprague, R. H. and H. J. Watson (1993). Decision support systems : putting theory into practice. Englewood Clifts, N.J., Prentice Hall.
  • Stanhope, P. (2002). Get in the Groove : building tools and peer-to-peer solutions with the Groove platform. New York, Hungry Minds.
  • Turban, E. (1995). Decision support and expert systems : management support systems. Englewood Cliffs, N.J., Prentice Hall.

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク


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