仙台市地下鉄東西線
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仙台市地下鉄東西線(せんだいしちかてつとうざいせん)は、宮城県仙台市太白区の動物公園駅(仮称)から同市若林区の荒井駅(同)を結ぶ、仙台市交通局(仙台市地下鉄)にとって2本目となる建設中の地下鉄路線である。正式名称は仙台市高速鉄道東西線(せんだいしこうそくてつどう-)。2015年(平成27年)開業予定。
経路は、市の南西から仙台市都心部を経由して市の南東へとほぼ東西に市を貫く。
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[編集] 路線データ
- 路線距離:13.9km
- 軌間:1435mm
- 駅数:13(起終点駅含む)
- 複線区間:全線
- 電化区間:全線(直流1500V・架空電車線方式)
- 地下区間:
[編集] 経緯
現在の地下鉄東西線建設計画は、江戸時代からの下町で狭小路線・屈曲路が多くラッシュ時の渋滞が激しい仙台市東南部、および、青葉山丘陵と広瀬川がつくる急峻な地形によりボトルネックが多数ある同市西南部(八木山地区)の東西両地域と仙台市都心部との間のアクセス向上を目的としている。特に八木山地区と都心部を結ぶ道路は、数が少なく狭いために、その改善は仙台市にとって課題であった。
東西線の構想は、1970年代から検討されはじめた。しかし、当初は現在の計画とは異なっており、以下の3つの計画が並立していた。
- 六丁の目新交通システム構想(都心から南東方向)
- 国鉄(当時)仙石線の地下化および仙台駅~西公園間の地下鉄線整備(都心の地下を東西に貫く)
- 仙台市営モノレール南西線(西公園から南西~西方向)
都心地下部分は国鉄(JR)および直通する地下鉄による事業を見込んでおり、それに繋がる形でモノレールや新交通システムなどの地上軌道を接続する構想により、市の南東部および南西部の渋滞緩和対策としていた。上記の計画のうち、仙石線の地下化は、連続立体交差事業として実施され、2000年に完成した(仙台トンネル、あおば通駅も参照)。
仙台駅~西公園間の地下鉄線整備については、地下化する仙石線をそのまま西公園まで延伸する案もあったが、当時の国鉄(後にJR東日本)の資金調達が困難だったことから、仙石線と直通する市営地下鉄新線を建設する案が模索された。また、仙台市は、旧宮城町や旧秋保町など、合併した西部地域と都心との接続の高速化も迫られ、モノレール南西線計画においては、青葉山・八木山・茂庭台などを経由して西の副都心として期待された旧宮城町愛子に至る路線構想も発表した。これは、仙台市営地下鉄南北線の泉中央駅延伸が北部の旧泉市へのバーターであったのと同様、西部の旧2町へのバーターの面が強い。
しかし、モノレール南西線と地下鉄線の乗り換えの不便が予測されること、短い地下鉄線やそれに続くモノレール南西線では採算が見込めないことを理由として、仙台市は計画を再検討し、1991年(平成3年)3月、当時の仙台市長石井亨が旧計画の断念を発表。新たに、都心の南東方向に延びる六丁の目新交通システム構想と連動した八木山~六丁の目間の東西交通軸を検討することを発表した。その後、石井がゼネコン汚職事件で逮捕され、藤井黎新市長が東西線計画を継承した。藤井の下で東西線計画は検討が進められ、東西線は仙石線と分離した完全な独立路線となることになり、西部の旧2町への路線区間は削減され、旧仙台市部分のみに計画路線長は短くなった。また、モータリゼーションが一層進んだことにより、モノレールや新交通システムよりも高速移動ができる鉄軌道に計画は変更され、マイカーからの乗り換え促進を目指す方向となった。
1998年(平成10年)8月には、具体的な東西線のルート案が公表され、2000年3月にルートが正式決定された。同時に、掘削費用削減を理由に、トンネル径が小さくて済む鉄輪式リニアモーターカーを採用することも決定。車両の規格が異なるために仙台市営地下鉄南北線及びJR各線との直通運転は不可能となった。
2005年(平成17年)の仙台市長選挙では、東西線の建設問題が争点となったが、勇退する藤井市政の継承と東西線の建設推進を公約とした梅原克彦が当選し、反対派や慎重派の候補は落選した。しかし、反対派と慎重派の候補の得票を合計すると、推進派の梅原の得票を超えていたため、「市民の判断は建設推進ではないのではないか?」との考えが現在に至るまで残っている。ただし、反対派と慎重派の候補が乱立して市民の意見集約ができなかった選挙戦略の稚拙さのため、選挙後は反対派・慎重派だった市民の注目は急速に衰え、東西線の建設は新市長の下で急速に推進された。
総事業費2735億円、需要予測は11万8000人としている。運賃については南北線と一体の運賃体系となる予定である。ただし、初乗運賃を東西線開業時点で220円とするといった運賃改定が東西線事業の収支計画で想定されており、南北線を含めて現在の地下鉄運賃より割高な運賃設定になることが見込まれている。初期の計画では初乗運賃は260円と想定されていた。
[編集] 建設への疑問および反対意見
市民の間には地下鉄東西線事業に対する疑問や反対意見がある。主に、杜の都・仙台の象徴であるケヤキ並木の一部伐採および、青葉山のオオタカ(準絶滅危惧種)の保護など環境に関するものと、建設費や維持費などの税金の使い道に関するもの、需要予測の正確性や費用対効果に関するものである。地下鉄ではなく建設費や運営費が地下鉄のそれらに比べて安いライトレールで東西交通軸を実現すればよいという意見もある。また、現在の日本の地下鉄建設において一般的なシールド工法を採用すればケヤキ並木を破壊せずに建設できるという意見もある。なお、青葉通りでは2008年1月28日から3月3日頃にかけてケヤキの伐採作業が施行された。 仙台市民オンブズマンは東西線建設の差し止めを求めて訴訟を起こした。裁判の中では、費用対効果や需要予測が争点となった。仙台市は事業計画当初、費用便益比(費用対効果)を2.63としていたが、予測が過大であると国土交通省から指摘を受け、数値を1.62に修正して事業認可を受けた。しかしこの数値は国が鉄道を建設する際に比較検討するために用いるマニュアルを仙台市が改変して算出したもので、マニュアル通りだと算出される数値は1.09であった。一審の仙台地方裁判所は判決でオンブズマンの訴えを棄却したが、東西線事業の費用便益比は1.09だと認めた。オンブズマンは判決を不服として控訴した。
二審では、パーソントリップ調査が争点となった。パーソントリップ調査は、交通モデルに基づき将来のトリップ数(人が移動する回数)を予測するもので、仙台市が主張する東西線の需要予測も1992年の第3回パーソントリップ調査が基となっている。2002年に行われた第4回仙台都市圏パーソントリップ調査(仙台都市圏20市町村:主体:宮城県・仙台市・国交省:国庫補助事業)では、4通りの予測が行われた。そのうち3つの予測はバス事業者や鉄道事業者への多額の補助金や高速道路の料金引き下げ、居住する地域の制限、採算性を考慮しないなど実現が難しい前提が多く設定されている。現実的な政策・施策を続けた場合の2015年時の鉄道トリップは35万7千人/日と予測とされ、結果として現況より5万8千人トリップ/日しか増えない。また、仙台市が東西線の需要予測の基とした第3回パーソントリップ調査による2015年時の鉄道のトリップ数42万3千/日と第4回パーソントリップ調査結果である鉄道トリップ数を比較すると短期間に鉄道需要が乱高下するという辻褄が合わない事態が発生している。市民オンブズマンは第4回パーソントリップを論拠とし、東西線の利用者数は1日当たり4万9千人から6万人であり、費用便益比は1を下回ると主張した。これに対し仙台市は、パーソントリップ調査から導き出された数値は参考値であり、それがそのまま需要予測になるわけではないと反論した。また、証人尋問では仙台市の交通政策課長が需要予測を検証しなおせば事業自体の見直しにつながると述べ、仙台市の需要予測の危うさを事実上認める証言をした。判決で仙台高等裁判所は、第4回パーソントリップ調査の優位性を一部認める一方で、仙台市の事業の手法に違法性があるとはいえないとして、オンブズマンの控訴を棄却した。費用便益比については、一審同様、市の主張を否定し、1.1であるとした。
[編集] 東西線開通を前提とした主な沿線計画・構想など
東西線沿線の事業計画・構想は、南北線建設の際とは様相が異なる。南北線は、仙台市と泉市(当時)の人口増・市街地拡大に伴う交通需要の増大へ対応するために計画・建設され、開業前後には政令指定都市化のために泉市との合併を行う際のバーターに用いられた(泉中央駅延伸)。また、バブル期に開業したため、都心部の地価高騰を緩和し、副都心形成(泉中央副都心・長町副都心)に寄与した。需要喚起のため、駅前には市のホール・体育施設・再開発ビルなどがはりつけられた。すなわち、長年の革新市政によって、人口の割りに都市機能や施設の拡充がなされて来なかった仙台市にとって、大都市へ転換するための開発型地下鉄であった。
一方の東西線は、計画当初は南北線と同様な思想であったが、市街地の機能転換と人口減少時代・都市間競争の時代に対応した沿線計画・構想がなされている。東西線の経路は多くの高校・大学を繋ぐ形に計画され、他の既存交通機関とも接続するため、移動の高速化や自由度の拡大と宮城県の高校の「全県一学区構想」との関係で仙台の高校の学力向上・競争力向上とも関連している(→学都仙台)。また、東北大学の新キャンパス構想も東西線開通が前提であり、六丁の目駅周辺の工場と東北大学サイエンスパークとが繋がれることから、産学連携も期待されている。東北最大の流通地区である卸町駅周辺では、価格破壊によって「中抜き流通」が顕在化して機能低下したため、都心回帰に対応した住宅の供給や、長年、市がバックアップしてきた演劇の更なる活性化の拠点にしようとし、市のキャッチコピーの1つである劇都仙台と関連している。また、国の減反政策に伴う農地の市街化(荒井駅周辺)、仙台の戦後処理と仙台城の公園化、仙台城・仙台駅・陸奥国分寺などが結ばれることによる観光路線の面など、人口増があまり期待できない時代に交流人口増大を狙った沿線計画も多い。都心では、都心の業務・商業における2つの極である仙台駅西口(仙台駅。東京資本が多い)と一番町・国分町(一番町駅。地元資本が多い)を結び、また、区画の大小混在のために各種の業務機能集積と繁華街形成が始まっている仙台駅東口南東部(新寺駅)が結ばれ、都心の拡大と業務地の多様性増大が期待されている。東西線の経路における住宅地が、人口の少ない若林区の下町地区や山の上の太白区八木山などであるため、利用客の中心である通勤・通学客の見込みが少なく、また、商機能低下が著しいサンモール一番町に隣接して一番町駅が出来るため、東西線は単なる商店街活性化策とも言われることが多いが、実際は仙台の機能転換や都市間競争における戦略と密接に関係している。
- 主な沿線開発計画・構想
- 青葉山駅
- 国際センター駅周辺
- 一番町駅
- 仙台市中央市場の再開発
- 卸町駅
- 卸町の流通・工業地区から市街地・住宅地へ用途変更。劇都仙台の拠点づくり。
- 荒井駅
- 荒井土地区画整理事業地区:農地から住宅地に用途変更。減反政策との関連。
[編集] 駅一覧
(駅名は仙台駅を除き全て仮称)
動物公園駅 - 青葉山駅 - 川内駅 - 国際センター駅 - 西公園駅 - 一番町駅 - 仙台駅 - 新寺駅 - 連坊駅 - 薬師堂駅 - 卸町駅 - 六丁の目駅 - 荒井駅
なお、車両基地は荒井駅周辺に設置される予定。